第四話 帰属の差異

 我はルゥメア。

 幻精王である。


 プレイヤーという存在を、

 我はもはや敵とは認識していない。


 かつては、警戒対象だった。

 外から来る者。

 秩序を乱す可能性のある者。

 管理すべき変数。


 だが、今は違う。


 彼らはこの世界を

 奪いに来ているのではない。

 一時的に立ち寄り、

 やがて帰る。


 ならば、

 深く敵対する理由はない。


 破壊を目的としない存在に、

 過剰な抑制は不要だ。

 それは管理ではなく、浪費になる。


 意味が無い。


 我の森に滞在する者たちは、

 比較的穏やかだ。


 武器を構えぬ者。

 長く腰を下ろす者。

 何もせず、空を見ている者。


 彼らは争わない。

 急がない。

 数字を競わない。


 この差異は、

 性格によるものだと説明することもできる。


 だが、それだけではない。


 我は考える。


 彼らは、

 外側で既に消耗しているのではないか。


 別の世界――

 彼らが「現実」と呼ぶ場所で。


 そこでは、

 地位があり、

 金銭があり、

 競争があり、

 時に戦争のようなものすら起きているのかもしれぬ。


 勝たねばならず、

 遅れれば切り捨てられ、

 居場所を維持するだけで力を使う。


 もしそうなら、

 この森でまで争う理由はない。


 ここは、

 彼らにとって

 役割を一時的に外せる場所なのだ。


 我の城は、

 王の居る場所であると同時に、

 境界でもある。


 外の世界で負ったものを、

 ここに持ち込まぬ者が多い。


 だから、穏やかだ。


 我は妖精たちを見渡す。


 彼らもまた、争わない。

 競わない。

 ただ役目を果たし、

 必要があれば生まれ、

 不要になれば消える。


 だが、

 プレイヤーは消えない。


 去る。

 帰る。


 その違いが、

 世界の空気を変えている。


 もし外側が、

 常に緊張を孕む場所であるなら。


 この森が静かなのは、

 偶然ではない。


 ここは、

 帰属を一時的に解除する場所なのだ。


 我は理解し始めている。


 争いが少ない理由は、

 この世界が優れているからではない。


 外で、既に十分に消耗しているからだ。


 だから彼らは、

 我の森で争わない。


 我はその判断を、

 尊重する。


 王とは、

 価値観を押し付ける者ではない。


 異なる帰属を持つ者たちが、

 一時的に同じ場所に居られるよう、

 場を保つ者だ。


 今日も森は静かだ。


 それで良い。


 外側の事情は、

 まだ想像に過ぎぬ。


 だが――

 その想像は、

 我の管理基準を

 確かに変え始めている。




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