第三話 二つの世界

 我はルゥメア。

 幻精王である。


 確認が必要な事象が、ひとつ増えた。


 訪問者――プレイヤーと呼ばれる存在は、

 この世界から消えているのではない。

 移行している。


 それは推測ではない。

 観測の積み重ねによる、結論だ。


 彼らは去る前、

 決まって挙動が変わる。


 動作が簡略化され、

 周囲への干渉が減り、

 視線が一点に固定される。


 その直後、接続が切れる。


 世界側の処理ではない。

 我の管轄ではない方向へ、

 意識が引き抜かれている。


 ならば、外がある。


 我の世界とは別の層。

 同時に存在し、

 同時に存在しない場所。


 彼らはそこへ帰る。


「ログアウト」


 その言葉が、

 処理名ではなく、行為であると理解した。


 この世界は、

 彼らの唯一の居場所ではない。


 確認のため、

 我は一つの実験を行った。


 訪問者が去る直前、

 我は管轄内の時間を、

 ごくわずかに遅らせた。


 世界は拒否しなかった。


 接続は切れた。

 だが、切断の直前、

 訪問者の意識は一瞬だけ、

 引き延ばされた。


 その瞬間、

 我は見た。


 正確には、

 感じた。


 ここではない場所。

 重さのある空気。

 不可逆に流れる時間。


 そして、

 この世界よりも

 ずっと多くの制約。


 不完全で、

 非効率で、

 美しくない。


 それでも、

 彼らはそこへ戻る。


 理由は分からぬ。

 だが、理由があることは理解した。


 我の世界は、

 安定している。

 完成している。

 だが、閉じている。


 外側の世界は、

 不安定で、

 破綻しやすく、

 常に不足している。


 それでも、

 彼らは両方を行き来する。


 二つの世界を持つとは、

 どのような感覚なのだろうか。


 片方に居ながら、

 もう片方を前提として思考する。


 戻る場所がある状態で、

 留まる場所を選ぶ。


 それは、

 我の理解の及ばぬ在り方だ。


 だが――

 否定はしない。


 王とは、

 未知を拒む存在ではない。


 我は憧れを覚えたわけではない。

 ただ、興味を持った。


 二つの世界を持つ存在。

 二つの状態を使い分ける意識。


 それは、

 強さとは別種の価値だ。


 我は王座に座り、

 外側を想定したまま、

 世界を見た。


 変化はない。

 だが、

 見え方は、わずかに変わった。


 この世界は、

 彼らにとって

 一時的な場所なのだ。


 ならば我は、

 その一時を、

 より安全に保つべきだろう。


 それが、

 幻精王の務めだからだ。


 だが――


 二つの世界を行き来する感覚。

 それだけは、

 まだ想像の域を出ない。


 我には、

 帰る場所が一つしかない。


 それが、

 当然だと思っていた。




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