第二話 幻精王の務め
我はルゥメア。
幻精王である。
王と呼ばれてはいるが、
我の務めに豪奢な儀式はない。
朝も夜も、祝祭も存在しない。
あるのは状態の確認と、継続の判断だけだ。
我は玉座に座り、世界を見る。
比喩ではない。
視線を向ければ、我の管轄にある全てが、
等しい重さで把握される。
妖精の数。
森の濃度。
空気の循環。
魔力の偏り。
どれも数値ではない。
だが、過不足は分かる。
多すぎれば削り、
足りなければ生まれさせる。
それだけのことだ。
妖精たちは我に報告をしない。
命令も待たない。
ただ、我が在ることで、
「そう振る舞う」よう定義されている。
それが秩序だ。
訪問者――プレイヤーが来ることもある。
彼らはこの世界を「コンテンツ」と呼ぶらしい。
我にとっては、
保全対象でしかない。
彼らが何を求め、
何に失望し、
どこへ向かうか。
それらは我の関知するところではない。
我が見るのは、
彼らがこの場所を壊さぬかどうか、
それだけだ。
大半は通り過ぎる。
数分、数十分。
景色を眺め、言葉を落とし、去っていく。
だが最近は、
去らぬ者がいる。
長く座り込み、
動かず、
何もしない。
何もしないことは、
問題ではない。
だが、長く留まる理由がないという点が、
我の注意を引いた。
我は観測する。
介入はしない。
彼らは時折、
誰かと話しているようで、
実際には誰もいない。
「仕事がさ」
「学校」
「病院」
我の世界には存在しない語だ。
解析は可能だ。
だが、対応する概念がない。
参照先が欠落している。
それでも、
その言葉を発した後、
彼らの動作は鈍くなる。
反応が遅れ、
視線が定まらず、
世界への干渉が弱まる。
それは、眠りに近い。
眠りは、
我の管轄だ。
だから我は、
それらを排除しない。
むしろ、
安全な場所を用意する。
城の一角。
風の通らぬ回廊。
妖精の干渉が及ばぬ段差。
彼らは自然と、
そこに集まる。
我はそれを許可している。
理由はない。
拒む必要がないからだ。
王とは、
何かを成す者ではない。
成さずに済ませる者だ。
今日も、
世界は安定している。
それで良い。
……はずだった。
だが、
この務めの合間に、
我は時折、
理解できぬ言葉を思い出す。
リアル。
現実。
それらは、
まだ意味を持たぬ。
だが、
無視できぬ頻度で、
我の世界に流れ込んでいる。
我は覚えている。
覚えているだけだ。
判断は、
まだ先でよい。
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