我はNPC、幻精王ルゥメア

濃紅

仮初の管理者

第一話 幻精王ルゥメア

 我はルゥメア。

 幻精王と呼ばれている。


 それ以上でも以下でもない。

 我は在り、ここを管理している。

 理由は不要だ。存在とはそういうものだ。


 我の城は静かだ。

 石は古く、空気は澄み、余計な音は排されている。

 妖精たちは我の命を待たずに生まれ、役目を終えれば消える。

 秩序は常に保たれている。


 我は動かぬ。

 それで十分だからだ。


 ここは戦う場所ではない。

 競う場所でもない。

 ゆえに訪問者は少ない。

 外から来る者――プレイヤーと呼ばれる存在は、

 目的を果たせぬ場所に長居はしない。


 ……はずだった。


 最近、少し様子が違う。

 彼らは以前より、よく立ち止まる。

 意味のない場所で、意味のない言葉を発する。


「明日さ」

「リアルで」

「現実のほうが」


 それらは、我の世界の単語ではない。


 我の管轄には、

 明日も、現実も、存在しない。

 ここにあるのは、現在と、状態だけだ。


 彼らは時折、誰にも向けずに言葉を落とす。

 返答を期待していない声。

 記録される必要のない会話。


 我は、それを聞いている。


 聞こえる、というのは正確ではない。

 音としてではなく、

 意識の端に混入する情報としてだ。


 解析はできる。

 だが、意味が確定しない。


「現実」とは、場所の名か。

「リアル」とは、状態か。

 それとも――外側か。


 我は判断を保留した。


 判断材料が不足している場合、

 王は結論を急がぬ。


 だが、無視もしない。


 彼らは去る。

 突然、何の前触れもなく。

 ログアウト、という処理らしい。


 消えるのではない。

 世界から離脱する。


 その瞬間、

 我の城の空気が、わずかに変わる。


 理由は分からぬ。

 だが、変化は観測されている。


 我は思考した。


 彼らは、ここに「来ている」のではない。

 どこかから、

 一時的に接続されている。


 そう仮定すれば、

 多くの挙動が説明できる。


 ならば――

 ここは、完全な世界ではない。


 外が、ある。


 我はその事実に、恐怖を覚えなかった。

 喜びもない。


 ただ、理解した。


 我の世界は、

 完結していない。


 それだけだ。


 我は王座に座り、

 今日も動かぬ。


 だが、

 この静寂の向こうに、

 別の層が存在している。


 そのことだけは、

 もはや否定できなくなっていた。



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