第7話
試合はゼロを刻み続ける。
圧巻のピッチングを御披露目する天王寺の前に、虹色学園の選手達はバットに当てることすらできない。
聞こえるのは歓声のみ。
天王寺の応援だらけで自分達への応援はない。
観客席にはミーハーなファンや学園の応援団、そして天王寺の投球を見ようとはるばるやってきたプロや大学のスカウトのみ。
自分達はヒールどころか、やられ役のモブ扱いなんだろうなと、杉浦達は笑う。
ならせめて、怒らせてやろう。ヒーロー天王寺を倒す敵役になってやろうと、部員達は一丸になる。
試合は4回に入る。未だに0対0。
この辺りから、ミーハー以外の観客が少し反応しだす。特にプロや大学のスカウトが。
「相手校の投手……すごいな」
0を刻む杉浦のピッチングの凄さに気づきだしたのだ。
地区大会で御門ノの強力打線を抑えきれる投手がいたとは思わなかったからだ。
だが、綱渡りに近い。
捉えられてはいるのだ。ハードヒットも多い。
その上なんとか抑える杉浦と違い、打たれないため球数も少なく抑えられる天王寺では、同じ0でも疲労が違う。
天王寺が投げた球数は40そこそこ。対して杉浦はすでに70を越えている。長期戦になればなるほど不利になる……
4回表の杉浦の打席。
この打席も空振り三振に終わる。だが最低限投げさせ、フォークの球筋を観察できた。
勝負は7回表。
観客もいい加減打てとピリピリしてくる。
杉浦の失投を望むものもいる。
だがミスはしない。守りの仲間もだ。
なんとしてでもこの試合に勝つ……
そんな覚悟を感じさせる。
対し、御門ノの選手達に焦りはない。
なぜなら虹色学園には、杉浦以外に投手がいないことを知っていたから。
ファールを粘ったり、杉浦に球数投げさせて疲れさせる。そうすればいずれ打てる。
勝負は後半とわかってるから、負けるなど微塵も思っていない。
御門ノには天王寺の他にも一流な投手が控えてるのだ。天王寺が疲れたら代わりを投げさせるだけ。代わりの投手でも虹色学園の選手達では打てないはず。圧倒的に不利だ。
だからこそ、杉浦自身がガス欠する前に、天王寺を打たねばならない。
♢
7回表、杉浦の打席。彼はバットを短く持つ。短く持つ事でバットに当てやすくするためだろう。だがそれではホームランどころか、外野の頭を越すような飛球は飛ばせないかもしれない……
ホームランバッターというわけでもない杉浦のパワーでは、愚策かもしれない。
それを見て、相手の外野も前進してくる。
杉浦はなんとか天王寺の投げる球にくらいついてファール。二球目もなんとか当ててファール。――しかし。
(ダメだ! まだこない!)
何かを待つ杉浦の期待をよそに……
3球目にど真ん中のストレート。
本来なら甘い球だが……
杉浦のバットは空を切る。
「ストライク! バッターアウト!」
電光掲示板には170キロの表示。
観客達の大歓声が響く。
(しまった……ここで打つべきだった!)
なぜなら今は7回。これから誰もヒットや四球などでランナーが出なかった場合、杉浦の次の打席は10回……
延長戦にしなくてはならないのだ。
もしその前に失点すれば……
杉浦達の夏が終わる。
……そして、悲劇が起こる。
通算200ホームランを打つ、御門ノの4番を抑えて気が抜けた後に……
5番に座る天王寺に、甘い直球をスタンドに放り込まれたのだ。
自分が打つべきだったホームランを天王寺に打たれた……
スコアボードに1の文字が刻まれてしまい、1対0に。
9回裏までに点を取らねば……負ける。
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