第27話 継承される名、あるいはかつての「ロジャー」


 汲み取り屋の仕事が休みになる1日置きにボロへと通い続ける。


 しかしぼくはウィルフレッドの誘いに失敗し続けた…。


「何度来ても無駄だ」


「理由だけでも教えてよ」


「…帰れ」


 この繰り返しだった。


 意気消沈して帰路につく。


「――ただいま」


「おかえり。…今日もダメだったようじゃな」


「何とか突破口と言うか仲間にならない理由もわかんないから」


 フレイは腕組みをしながら目を閉じ考え込む。


「ふーむ…そうじゃのう……」


 そしてしばらくしてから目を開き、マリオを見つめて言った。


「じゃが…ヌシにはそれしかないのではないかや?」


「それしかって?」


「ワシのときもイリスのときも、ヌシには計算などなかったであろ?」


 フレイは穏やかな瞳になり優しく続けた。


「ひたすら愚直に鈍臭く…泥臭くとでも言うんかの?やった結果だったはずじゃ」


「何よりも…ワシやイリスのために涙を流したり、ひたむきに頑張ったりする姿にワシらは心動かされたのじゃ」


 マリオも静かに目を閉じ、今までのやり方を回想する。


「………………………………」


 そしてフレイの言葉に納得し、心は決まった。


「そうだね…ぼくにはそれしかない」


「まだ日も早いしもう一度情報を集めてみるよ。ウィルフレッド本人から聞けないのだから他の人から聞くしかない」


「そういえば今日はイリスと冒険者ギルドに行かないの?」


「母の命日だそうじゃ。なので墓に行って色々と報告するのだと言っておった。ヌシ……聞いてないのかえ?」


「そう言えばイリスの込み入った事情もいつかは聞こうと思いながらなかなか……ね」


 フレイは柔らかな微笑みで答える。


「そうじゃな。それが賢明じゃ。女の子というのはタイミングが命じゃからの」


「じゃあ行ってくるよ」


 ぼくは情報を集めようと思った時に、真っ先に思い浮かんだ人物がいた。そして冒険者ギルドでその人物を待った。


 ―――そして夕刻すぎ…その人物が現れた。


 細面でありながら芯の強さを感じる身なりだ。


「あ! ハンスさん。ちょっと良いですか?」


「ん? あぁ。お前は…確かウィルフレッドを探していた……」


 マリオは会釈しながら言った。


「あのときは情報ありがとう。お陰でロジャーに会うことができました」


 ハンスは顎に手をやり、感心した素振りで言った。


「ロジャー!? へぇ~…お前、見た目にそぐわないと言っちゃアレだがやるじゃねえか」


「やるじゃねえか…ってどういうことなんです?」


「ロジャー…いやウィルフレッド。アイツは滅多に自分がウィルフレッドだと明かすことをしない」


 ハンスは続けた。


「剣聖と呼ばれる男だ。当然、他の冒険者たちからも熱心に誘われる」


「それを嫌って偽名をつかってる」


「オレの所にも今まで何十人とウィルフレッドの事を聞きに来た連中がいたが、ロジャーまで辿り着いたのはお前が初めてかもしれん」


「じゃあ…ウィルフレッドがロジャーだってことは知ってたんですか?」


「当然だ。オレの彼氏だからな」


「あ…すみません」


「謝ることじゃねえ。立ち話もなんだし付き合え」


 ハンスはそう言うと、冒険者ギルドの中にあるBARに向かった。そして席についた。


「あ…エールくらいは、ぼくが出します」


「お! じゃあ、頼むとするか」


 ハンスは届いたエールを一気に飲み干す。ぼくは追加で2杯注文したが、全て一瞬で飲み干した…底がないようだ。


 だが3杯飲んで少し酔いが回ったのか…いい具合になったので話を切り出す。


「…ところで、彼氏なら知ってると思うんですけど、何とか突破口というか…なぜ仲間になってくれないのか教えてもらえませんか?」


 ハンスは気持ちよさそうに話す…


「うん? そうだなぁ…お前がどこまで知ってるのかオレは知らない」


「アイツが親衛隊隊長として召し抱えられるまで何をしてたか知ってるのか?」


「いえ…なにも……」


「アイツはこの冒険者ギルドでも名うてのトレジャーハンターだったんだ」


「だが、ある時アイツはトレジャーハンターをヤメた」


「どうしてだか分かるか?」


「いえ…わかんないです」


 ニヤリと含みのある笑いを浮かべながらハンスは言う。


「実は…オレもなんだ」


「え?」


「オレにすら話してはくれない。忘れたいようだ。だからオレも無理に聞こうとはしない」


「ところで、どうやってウィルフレッドがロジャーだと突き止めることができたんだ?」


「いえ、教えられた通り闇市の斡旋人に聞きこみをしてたときに仕事を終えたロジャーが現れて自分で言ったんだ」


「オレがウィルフレッドだ…って」


 ハンスは意外だと目を丸くしてつぶやく。


「ふーん…そんなこともあるんだな……」


「そう言えば…お前はどことなく…ロジャーに似ているな……」


「ぼくがロジャー…ウィルフレッドに似てるんですか?」


「あぁ…違う。違う。元々のロジャーだ」


 マリオは首を傾げる。


「…すみません。何を言ってるのか意味がわかんないです」


「ウィルフレッドがトレジャーハンターをやってた時に組んでたパーティーの男だ。名前はロジャー…ロジャー・ブラウンだっけか」


「そのロジャーは今、何をしてるんです?」


 ハンスは明らかに顔を曇らせながらため息混じりに…そしてエールが空になったジョッキを見つめながら言った。


「死んだよ。その後にいきなりトレジャーハンターをヤメた。それっきり冒険者ギルドにすら寄りもしない」


 衝撃だった。


 あの大男が、なぜ自らを「ロジャー」と偽り、誰に顧みられることもない死体運びなんていう闇の仕事をしていたのか。


 それは、死んだ親友への弔いであり、自分自身に課した「罰」だったのではないか。


「つかぬこと聞くんですがハンスさんは親衛隊でウィルフレッドと出会ったんだよね? どうしてその時のこと知ってるの?」


「有名人だったからな。ロジャーは。…というかウィルフレッドのトレジャーハンターパーティーはこの国1番の実力パーティーだった」


「知らないやつは居ねえ。顔は一致せずとも名前と逸話は語られるものさ。どこの秘宝をゲットしたとか」


「じゃあ…何故そのロジャーの名前をつかってるのか理由ってわかりますか?」


「さぁな。それは直接聞いてみればいいんじゃねえか? オレには関係ない話だ。聞いたことなどない」


 マリオはここに来て何となく肛門がムズムズした……。


「ありがとう。なんとなくだけど糸口は見えた気がする…ところでハンスさんは昔から男性しか興味がない…の?」


 ハンスはマリオのそうした態度を見て笑った。


「ふっw 安心しろ。オレはネコだ。それに逞しい男が好きなんだ。フレッド…いや、ウィルフレッドのような…な。お前には興味ない」


 酒場を後にするぼくの背中で、ハンスの笑い声が響く。


 ウィルフレッドが捨て去った過去。そして、彼が守り続けている「ロジャー」という名の誇り。


 その核心に触れることができれば、きっと彼は、ぼくたちの盾になってくれるはずだ。

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