第26話 握撃の拒絶、あるいは軟弱者の意地
宿に戻り、次の日いつものように汲み取り屋をし、冒険者ギルドに行くときに顛末を話した。
「―――というわけなんだけど、どうしたら仲間になってくれるのかな?」
フレイ(ネコ)は腕組みをし顔をしかめた。
「ふむ…世の中で一番難儀なタイプじゃな……」
「難儀…ですか?」
「うむ」
フレイは続けた。
「人というのは多かれ少なかれ信念と情熱というものがあるのじゃ」
「しかし、このウィルフレッドとやらには信念も情熱も感じることができん」
「表面上…にはな」
「表面上?」
フレイは静かに頷く。
「そうじゃ。むしろ何かを隠そうとしてるようにも思わんか?」
「結界内にいる以上は千里眼で過去に遡って見ることができるワシじゃが…この男は見えんのじゃ」
「どういうことなのですか? 師匠さま」
「特別というわけではない。自分で魔法障壁を張っているもの等は見えぬものじゃからな」
「…というかワシが見ようとせんのでな」
「見ようとしない?」
「当然じゃ。そこまでして隠そうとしとるものを必死に覗こうなどせんわ。見ようと思えばいつでも見れるが…な」
マリオも腕組みを真似しながら、つぶやく。
「…たしかにそれもそうか」
「聞けば男色とのこと。ワシやイリスが近づいたとて心は開かんじゃろ。マリオよヌシが近づいて探るしかない」
「じゃが…人に探りを入れるというのは命がけじゃぞ」
「その覚悟がないならヤメておけ」
マリオの顔は一瞬にして曇る。
「………覚悟か。正直に言うと…ないんだ」
「…じゃろうな」
「どうして? 私のときは命がけでがんばってくれたじゃない…」
マリオはイリスを愛おしそうに見つめた。
「キミがいるからだよ」
「私が?」
「うん。ぼくはキミだからこそ命など惜しくないって思った。それからキミとこんなに近くに居られるようになって…」
「キミのそばに居られなくなる…それが怖い。それが嫌なんだ」
イリスは嬉しい気持ちとマリオの葛藤を瞬時に理解し、複雑な表情を浮かべる。
「マリオ…」
「ごめんイリス。今日はフレイと2人だけで依頼をやってくれないか? 独りで考えたいんだ」
「うん…あまり考え込まないでね」
2人と別れ…ぼくは頭の中を整理しながら行く宛もなく町はずれに来た
そして、この世界に来て初日の夜、ロジャー(ウィルフレッド)にむりやり犯されてお腹が痛くなり排便をした大きな岩のところに来た。
岩の陰で暫くの間考えた……。
そして結論は出た。
どのみちウィルフレッドを仲間にできなければ、ぼくたちの未来はない。
そう決断すると無意識にロジャー…いや、ウィルフレッドが居たボロに足を運ぶ。
すると…いつものように、もうだいぶ日も上がっているのにのうのうと寝てるウィルフレッドがいた。
ウィルフレッドは寝ころびながら言った。
「断ったはずだが?」
「スゴいね…結構自分的には起こさないように気をつけながら近づいたつもりなのに……」
「ふん…ど素人に気づけない程度なら、とっくの昔に死んでる」
少しムッとしながらマリオは言う。
「ぼくはこれでもレンジャーなんだ。今まで何回も斥候の仕事もやってスキルも磨いてきてる。ど素人は言いすぎだよ」
だがウィルフレッドは取り合わない。
「それでも素人には違いない。…用がないなら帰れ」
マリオは頭を下げながらお願いする。
「…どうしてもウィルフレッドに仲間になってほしいんだ」
「だから報酬は?」
「ぼくの体ならいつだって好きにしていいよ」
ウィルフレッドは体を起こし、マリオを真っ直ぐに見つめながら問う。
「お前ノーマルだろ? 以前に遠くから金髪の娘と歩いてるのを見たことあるぞ」
「そこまでしてオレに入れ込むのはどういうことだ? 聞かせろ」
マリオはその鋭い眼光に少し怖気づきながらも、毅然さを保ちながら話す。
「ぼくはさっきも言った通りレンジャーだ。金髪の娘ってのは、ぼくの彼女でイリス。魔法使いだ」
「ウィルフレッドほどの人にこれ以上の説明はいらないよね?」
「その女とはやったのか?」
「…やってない。やりたいから正直に言うとウィルフレッドにこれ以上深入りしたくない」
「でもウィルフレッドが仲間にならなきゃ、どの道ぼくたちのパーティーに未来はない」
「彼女は【負けっぱなし】だよ。ウィルフレッドなら知ってるだろ?」
ウィルフレッドはマリオから目を逸らし、遠くを見つめた。
「あぁ………知ってる」
「たしか…体を売って生きてる情けない女だ」
ぼくはそれを聞いた途端にカッ!となり、ウィルフレッドに殴りかかった…。
「――っ!」
ぼくの右拳は、岩のような掌にガッチリと受け止められていた。
万力で締め上げられるような凄まじい握力。腕が、一ミリも動かない。
「イリスがどんな思いで地獄を耐えてきたか……何も知らないくせに、『情けない』なんて言うな!!」
ぼくは怒りに震え、歯を食いしばった。ウィルフレッドはしばらく無言でぼくを見つめていたが、ふっと力を抜いた。
「……すまなかった。情けないというのは取り消す」
彼はわずかに視線を逸らし、短く謝罪した。
「……変わったな、お前。前はもっと、反吐が出るほどの甘ったれだったが」
「だが仲間にはならねえ。帰れ」
「どうしてなのか理由は聞けない?」
「…帰れ」
「今日は帰るよ。でも明日は仕事があるから来れないけど明後日にまた来るから」
「何度来ても無駄だ」
ぼくは返事を聞かずに立ち去った。
受け止められた手のひらが、ジンジンと痺れている。
けれど、あの巨大で、固くて、圧倒的に力強かった「男の手」の感触。
あれこそが、ぼくたちが喉から手が出るほど求めている、地獄の底から仲間を引き摺り上げるための「力」なのだと確信した。
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