第23話 敗北の分析、あるいは三人の旅路


 イリスにフレイの紹介を終えて、もう一つの本題に入ることにした。


「えっ…とイリスいい?」


「なに?」


マリオは躊躇いながらも穏やかに安心させるように語り始める


「イリスに過去の冒険者ギルドの失敗を聞く気はないんだけど実際、何があったか理解とか反省点を導き出す事ができてるなら次は失敗しないと思うんだ」


「それで…イリスには申し訳ないんだけど冒険者ギルドで過去の仕事内容を閲覧させてもらったんだ」


「するとね、凄い単純なことに気がついたんだ」


「それは…適正レベルじゃなかったってこと」


「イリスの最初の失敗。オーガ討伐の推奨冒険者レベルは5だ。キミは1だった」


「そしてキミを除くパーティーの平均レベルは3。これは仕事を請け負った側。つまりリーダーだった男騎士ヨハンのミスだ」


「恐らくヨハンはキミが全ての魔法を使えるマスターだから行けると踏んだのだと思う」


「でもね、実戦は違うんだ。言ってることわかってくれる?」


そこに触れてほしくないと首を振るイリス


「あまり思い出したくないの」


「気持ちはわかるよ。その後のイリスの身に起こった事も聞けばなおさら」


「ぼくも決闘裁判でヨハンと殴り合いをした。半年間がんばったから1発くらいは自分の拳を当てられる気でいた…」


「でも、ラッキーパンチが1発当たっただけで、実際はフルボッコで負けてた」


「何が言いたいか言うね。経験が足りないんだと思う。ぼくたちには」


「経験……」


「そう。経験。だからぼくとパーティー組んでくれないか? ぼくもレベル1だ」


「レベル1から、一緒に経験を積み直そう」


「何よりも…キミとずっと一緒にいたいから」


「……うん」


イリスが小さく頷き、その頬が朱に染まる。


「かーーっ!そういうのは表でやってくれんか?」


 フレイが拗ねたように言った。


「ではワシもモブ娘に言ってやろう。ヌシが失敗したのはモブだからじゃ!」


「フレイごめんて! イチャイチャしたのは悪かった。イリス…フレイには悪気ないから」


「ふふw わかってるw」


「フレイさま。私からもお願いしていいですか?」


「む? ヒロイン枠は渡さんぞ。モブよ」


けれど、イリスはそんな彼女に向き直り、膝をついた。


「私をフレイさまの弟子にしてもらえないでしょうか?」


「弟子…なるほど。そこでワシの立ち回りを研究してヒロイン枠を奪おうという魂胆じゃな?」


「しつこいくらいにこだわるよね…そこ」


「当然じゃと言っとろうが! そして女性読者ならわかっておると」


「男性読者はいい加減しつこすぎてウザいと思ってるよ」


「マジか!?」


「マジだよ!」


「ならばヤメておくか」


「…むっちゃ素直でドン引きなんだけど」


「ワシのファンが減るとマズいんでな。人気投票で1位をきーぷしたいのじゃ」


「もう人気投票まで考えてるんだ…でも……多分だけど絵師ガチャによると思うよ」


「絵師ガチャとな!?」


「そう。絵師がイリス好きならイリスをむっちゃ可愛く描くし」


「フレイちゃん好きならフレイちゃんをむっちゃ可愛く描くし」


「そんなことより弟子にしてあげてよ」


「そうだ! イリス。天才魔法少女フレイちゃんお願いしますって言ってみて」


「て、天才魔法少女フレイさま。フレイちゃんお願いします」


「おほほw むむむ…ここは承諾しておいたほうが好感度は高いかもしれぬ……わかった」


「好感度…もう!」


 でも相変わらずチョロくてよかった。


「ワシは厳しいぞ。小娘!」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。フレイさま…いえ師匠さま」


「では最初に言ってやる。イリスよ、ヌシは魔法の運用を知らなすぎる。センス0じゃ」


「あ! 初めて名前で…ありがとうございます師匠さま❤」


「先程の話じゃがマリオの言っておる事は的を得ておる」


 フレイは真剣な表情で続けた。


「何が失敗だったのか? それを自己分析できておれば次は失敗などせぬ」


「…はい」


「イリスよ、ヌシはオーガ討伐の事は思い出したくないと言っておったな?」


「それがそもそも間違っておるのじゃ」


「まず何が失敗だったのか? どこをどうすれば勝てたのか?」


「そこが抜け落ちておるから次からも失敗の連続。」


「……師匠さまのおっしゃるとおりです」


「オーガのとき何を考えておった?」


「えっ…と。とにかくオーガの体が大きくて怖くて体が動かなかったです」


「それじゃ! それ!」


 白猫(フレイ)はピンと指(肉球)を突き出し指摘した。


「普通はマナ(魔法消費)など気にしないで初手から自分の最強の攻撃魔法をぶちかます」


「そうすれば1発で倒せなくとも相手は怯む」


「相手側に回復役がいたとしても回復に時間がかかる。一方的にその間は殴り続けれるわけじゃ」


「…はい。勉強になります」


「ただ…ヌシは構成的に……ふーむ………………」


「構成ってなに?」


「簡単に言えば、どれだけその魔法の習熟度があるか?ってことじゃ」


「マスタークラスといえども、魔法の習熟度が高くなければ威力も弱いし効果は限定的じゃ」


「それはイリス…こやつも自分で理解しておった。だから初手から最強魔法でどーん!ができんかったんじゃな」


「なのに味方は突っ込んでいった…」


「つまり、負けるべくして負けておる」


「……はい」


「ふーむ…マリオ。冒険者ギルドに行くぞ。ヌシが言うように経験じゃ。経験を積むしかない」


 一文無しのニートから、汲み取り屋のクロスボウ使いへ。


 そして今、伝説の賢者を師に仰ぎ、最愛の魔法使いと共に歩む冒険者へ。


 ぼくのステータスはまだ「レベル1」のままだ。けれど、背負うものの重さと、この手の温もりだけは、本物の強さへと近づいている気がした。

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