第24話 黒鉛の理(ことわり)、あるいは初陣の報酬
フレイとイリス、そしてぼくの3人(2人とネコ1匹)は冒険者ギルドに向かった………。
「ネコ1匹と思い直す必要あるんか? たわけめ! 3人で良かろうが」
ぼくに抱きかかえられたネコはキッと上を向き指摘する
「いや…このほうが女性読者も男性読者も分かりやすいかな?と」
「それもそうか」
そんなことを言ってる間に冒険者ギルドについた。
冒険者ギルドは、ぼくが闇市で汲み取り屋の依頼を受けてるように、冒険者ギルド独自の様々な仕事の斡旋をしている。
オーガ討伐などのモンスター討伐依頼から建屋の修復、側溝のつまり解消などの土木作業、パンのお届けに至るまで様々だ。
ただ冒険者ギルドと闇市の違いは政府公認か非公認かの違いがある。
国が認めてるだけあり内容も厳しく管理されていて、ぼくがこの世界での初めての仕事だった遺体の搬送と処理なんてあるわけがない。
そして冒険者ギルドには登録が必要だ。
ぼくはこの半年で1日あたり20ファナンの利益を得ていた(汲み取り屋2日に1回。報酬200ファナンで1日あたり100。宿屋が1日80ファナン)。
途中で生活必需品なども購入してお金を使ったので、現在の所持金は1200ファナンくらいだ。
ぼくは登録料100ファナンを支払い登録を済ませる……とイリスを連れて先に依頼を吟味してるネコがいた……。
「むむむ……そうじゃな………これがよいかの」
依頼書を見てみると【ティールポックルの駆除 1匹あたり20ファナン】とあった。冒険者レベル2だ……。
「フレイちゃん……これ冒険者レベル2の仕事だよ? ぼくがレベル1、イリスがレベル2だ。難しすぎない?」
「ティールポックルは大きい個体でも60cmくらいの有袋動物じゃ。このイラストを見よ。愛らしかろ?」
フレイは説明を続けた。
「しかし見た目の可愛さと裏腹に、その繁殖力の高さと群れでの行動で農作物を食い荒らす害獣じゃ」
「臆病な性格でこちらを攻撃してくる事はないが、駆除のしにくさ……冒険者レベルが高いのはその素早さにある」
「イリスよ。まずは自分で考えやってみるがよい」
「はい。師匠さま❤」
イラストを見ると、我々の世界で言うところのカンガルーのような生き物らしい……。
さっそく冒険者ギルドで、ぼくとイリスはパーティーでこれを受けた。
街の郊外では農業が様々に行われている。小麦や大麦、ぶどうのような果実など多種多様に栽培されている。
ぼくたちはティールポックルを求めて歩き続けた……。
マリオは驚く
「あれ?トマトだ。この世界にもトマトがあるんだ」
「ふむ。こっちでもトマトじゃ。ヌシの世界から来た転生者が種を持っておって広めたらしい」
「そうなんだ…」
すると…広大なトマト畑でティールポックル20匹以上が食い荒らしてる現場に遭遇した。
ネコは群れを指さしながら指導を始める
「さ、まずは2人だけでやってみい。ワシは高みの見物じゃ」
「はい!」
「えっと……駆除がしにくい…素早さが速い……素早さを防がなきゃ……」
「合図してくれたら私も範囲魔法で攻撃するね」
「うんわかった。じゃあ……行くよ!」
ぼくはトマトを食べるのに夢中になって動きが止まってるティールポックルに狙いをつけ矢を放った。
半年間の成果だ。首あたりに命中して一撃で仕留めたが、矢が当たった瞬間に痛みと驚きでティールポックルは大声で鳴いた。
「ピギィィィィィィ」
その瞬間、一斉にティールポックルの群れは逃げ始める。
「大気に漂う精霊よ、我が呼び声に集いて凍てつけ。 吹き荒ぶ白き息吹となりて、進む道を遮らん。 ――【氷結の風(ブリザード)】」
魔法の詠唱が終わりイリスも少し遅れて範囲魔法で攻撃した。すると群れ全体に命中。しかし思ってる以上に体力は高いようだ……。
氷系の魔法で動きが鈍りながらも元気で必死に逃げようとする。
「雷系最強の範囲魔法で仕留めるね。下がって」
イリスはステッキを両手に握り詠唱する
「天を統べるは轟(とどろ)きの主。 九つの世界を巡り、数多の巨人を葬りし伝説の鉄槌よ。 今、我が呼び声に応え、神の右腕(かいな)として顕現せよ。 全方位、逃避能わず。大地ごとこの一撃に伏せ。 ――【神雷招来・妙爾尼爾(ミョルニル)】」
暗雲が立ち込めたかと思うと、激しく太い雷の柱が群れを襲った。
「うわ…すごい。やった! 全滅だ! すごいよイリス!」
「ふふw ありがと」
「30点。……いや10点じゃな」
「な、なんでだよ!完璧じゃない? 氷系の魔法で動き鈍らせて雷系最強の範囲魔法で仕留めたんだし」
「マリオ! ヌシは黙っておれ!これは師匠と弟子の話じゃ!」
フレイは厳しい口調で続けた。
「イリスよ。全頭倒したのは褒めてやる。よくやった」
「はい」
「じゃがあれを見よ」
そう言ってネコはトマト畑の方を指さした。
すると氷系の範囲魔法でシナシナになったトマトが目についた。
「植物も回復力はある。しかし特に冷害に弱いトマトにおいて氷系の範囲魔法は下策中の下策じゃ」
「これではせっかく駆除しても作物も死んでおる。意味がないのじゃ」
「もちろん新たに被害を受けるわけではないから駆除に一定の評価はできるが…な」
「す、すみません。そこまで頭になかったです」
「うむ。だがイリスよ。これはワシのような智者だからこそ見えるもの。ヌシが気にする必要はない」
「ワシが評価を落としたのは別にある」
「イリスよ。氷系の魔法ブリザードのあとに雷系範囲最強のミョルニル使ったじゃろ? あれがヒドすぎる」
「どうしてなんでしょうか? 師匠さま教えて下さい」
「氷系魔法というのは周囲の大気中の純粋な水のみを集めて冷気で凍らせる。ほぼ純水じゃ」
フレイは解説した。
「純水というのは電気を通さん。ティールポックルの表面には薄い純水で出来た氷が幾重にもなっておった」
「それが雷系魔法の攻撃力を著しく奪ったのじゃ」
「…なるほどです。おっしゃるとおりです。師匠さま」
「では答えを見せるとするかの」
そう言うと獲物を探して歩き始めた。そして程なくして隣のトマト畑にティールポックルの群れがいた。
「イリスよ。これを知っておるか?」
そう言ってネコは黒い玉をテレポートで取り寄せた。
「これは…黒鉛玉?」
「そうじゃ。この玉が割れると中には入っておる黒鉛の粉が大量に出る。目くらましに主に使われるな」
「この国はグラファイト鉱石。黒鉛が豊富でな様々なものに加工する時に大量の粉も発生する」
「それを玉に詰めたモノで極めて安価で購入できるのは知っておるじゃろ?」
「はい」
「うむ。……でこれをこうするんじゃ」
そう言ってネコは、ぼくに黒鉛玉を5mほど向こうの地面に叩きつけるように指示をした。
ぼくは言われたとおりにすると玉が割れ、大量の黒鉛の粒子が飛び出した。
「ウインドストーム」
ネコがそう唱えると風が黒鉛の風の渦になり、ティールポックルたちを襲った。ティールポックルは真っ黒だ。
「サンダー」
バチリ、と小さな火花が散った瞬間、黒鉛を伝った電流が連鎖的に群れを焼き、ティールポックルは一瞬で全滅した。
「ワシのサンダーはイリスのミョルニルよりも遥かに威力は弱い。なのにティールポックルが全滅したのわかるか?」
「いえ……わかりません」
「先程の逆じゃ。純水は電気を通さん。じゃが黒鉛は電気を通しやすい」
フレイは続けた。
「ティールポックルの体には黒鉛の粒子がまとわりつき全身を雷が襲った。」
「じゃからサンダーの魔法を何倍にも増幅した効果として発揮させたのじゃ。そして電撃は通電する。軽い一発で十分なのじゃ」
「弱い雷系魔法のサンダー1本なら作物に与える影響も少ない。周辺一体を染めた黒鉛も雨が降れば洗い流される」
「黒鉛玉は常に数個もっておくがよい。万が一の時に目くらましに使えるしこれは炎系魔法も威力を増大させる」
圧倒的な知識の差。イリスの瞳に、畏敬の念が宿る
「しゅ、しゅごい。いえ……すごいです師匠さま❤」
「む? かわいいアピールか? そんな事をしてもヒロイン枠はワシのものじゃぞ」
「……ヤメておくといったくせに、まだ言うんだ」
「まぁよい。さ、ティールポックルは30匹以上倒したじゃろ。全部一箇所にまとめてくれ。冒険者ギルドにテレポートするぞ」
ぼくとイリスが協力して一箇所に集めると、イリスはティールポックルごとテレポートした。
冒険者ギルドの受付でイリスが今回の依頼の報告書を書いてるとき、薄っすらと頬に光るものが見えた。
ぼくは指で優しく拭ってあげると、イリスの満面の笑顔が返ってきた。
「初めての依頼の成功だね。おめでとう」
「…ありがとう。マリオのお陰だよ」
「ぼくはなにもやってないよ。イリス、良いお師匠さんを持ったね」
「うん。凄くて優しくて知識があって何よりも…可愛い❤」
「おほほw ようやくヒロインが誰かわかったようじゃな。イリスよ」
「……ちょっと頭おかしいけどね」
夕闇の中、ぼくたちは報酬を分け合い、肩を並べて歩いた。
イリスを自宅まで送り、その細い肩を抱き寄せ、唇を重ねる。
泥を啜(すす)るような半年間を経て、ようやく掴み取った冒険者としての第一歩。
ぼくたちの新しい日常は、甘く、そして頼もしい師匠の小言と共に、今、静かに動き出した。
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