第22話 魔女の遺産、あるいはヒロインの座を賭けた謁見
いつもの朝とは違い、イリスにフレイを紹介したくて早起きした……。
そしてフレイを叩き起こしてイリスのもとに向かう……。
「待てい!」
「どうしたの?」
「なんでワシが出向くんじゃ? 普通は格下が格上に会いに来るものじゃ」
「そこ…大事?」
「当然じゃ! 昨日も同担拒否と言ったじゃろ? ヒロイン枠のワシがモブ娘に出向いてなど会いに行くものか!」
「モブ娘って。…フレイちゃん、そんな言葉使っちゃダメ」
「ええい黙れ! どうしてもと言うなら娘を連れて来い」
そう言ってネコは布団の中にもぐりこみ二度寝した。
仕方ない。イリスの所に行って来てもらうとするか。
そして待ち合わせていた所に行き、イリスに「どうしても紹介したい人がいる」と宿屋の自分の部屋に来てもらった。
「ここだよ。ここがぼくの住処。入るね」
自分の部屋に入ると、ネコはまだ寝ていた…。
「ね、起きてよ。連れてきたよ」
「紹介したい人って…そのネコちゃん?」
「む……ん?」
「娘か。まずは名乗るがいい」
「え? ネコちゃんがしゃべってる……」
イリスは少しビックリして引くようなリアクションをした
「どうでもいいから、はよ名乗れ。追い出すぞ小娘」
「あ…イリス…イリスです。駆け出しの魔法使いをしています」
「このネコが誰かわかる? フレイだよ」
そう言った瞬間に後ずさりして、こわばった表情をするイリス……。
ついでだから街の人々がフレイをここまで恐れる理由を聞いてみることにした。
「イリス…大丈夫だよ。ぼくの友だちなんだ。こないだの決闘裁判のときも、ぼくを助けてくれたんだ」
「決闘裁判のときも…じゃあ……私も助けられたのね」
彼女は軽く頷(うなず)き自分に言い聞かせてるようだった
そしてイリスが落ち着くのを待って聞いてみる―――。
「ところで…どうして街の人々はこんなにもフレイのこと恐れるの?」
「大魔王から国を救ってくれて結界まで張ってくれてる」
「これだけ慈愛に満ちた人を恐れる理由がわかんないんだ」
「それは国、街の人は誰しもが感謝してる」
イリスの大きな瞳はやや陰りながら沈痛な面持ちで語り出した。
「でも、同時にフレイさまが受けた憂き目も知っています。大魔王を抑えてくださったとき伝承になってますから」
「生まれて直ぐに山に捨てられたこと。山から降りて一緒に他の子供と遊ぼうとしても恐れられて逃げられたこと」
意を決したかのように少し瞳に力が入るイリス
「……正直に言うね。たぶんフレイさまには見抜かれてるから」
「街の人は陰で言ってる。いつかフレイさまは国を滅ぼすのではないか?って」
「だからどうして?」
「………なにもないもの」
イリスは静かに語った。
「フレイさまに国も街の人々は何もお返ししてない。無償の愛なんて母親にしか存在しないわ」
「言い方変えるとね…フレイさまにここまでしていただける理由がないの」
「恨まれて当然よ。憎まれて当然なの」
「だから魔女カーラのように…いつか国を滅ぼそうとするんじゃないか?ってみんなが恐れてる」
ネコはなるほど、と頷きながら言う
「カーラか…」
「知ってるの? フレイ」
「知ってるも何も…大魔王の封印を解いたのがカーラじゃ」
「え? それじゃフレイの現状というか元凶が…」
「うむ。カーラということじゃな。少し長くなるが知ってることだけ教えてやろう」
フレイは思い出すように語り始めた。
「カーラはワシよりも更に50年ほど前の人物じゃ。ワシ同様生まれながらにして魔術の素養に恵まれていたらしい」
「5才になる頃には当時の魔法全てがつかいこなせたとか…ワシですら7才頃じゃ」
「そしてカーラの一番の特徴…それは美貌じゃ。生まれながらにして見るものを全て魅了したという」
「長い烏羽色の髪、大きく妖艶な瞳、透き通る白い肌、しなやかな指にどこまでも伸びる長い足...全てが完璧じゃった」
「そんなカーラを国も放っておかなかった。第一位継承権の王子の妃に推薦されたのじゃ」
「絶世の美女。そして才気あふれるカーラを王子も一目で見初めた。そして結婚した」
「カーラの絶頂期じゃな。人々はカーラにかしずき慕った」
「なにも魔女要素ないんだけど…」
「黙って聞いておれ!」
フレイは続けた。
「王子はカーラを寵愛した。行為は毎晩のように行われたとか」
「じゃが…カーラに子供が授かることはなかった」
「そして時が過ぎ、王子は国王になっていた。このままでは世継ぎがいないと焦った国王は美しい娘を集めて子づくりをした」
「やがて一人の娘だけが男児を出産したんじゃ」
「国の人々は、この娘にかしずいた」
「その頃カーラは40を超え…人の宿命じゃが、美貌にもずいぶんと陰りが見えていた」
「人々はカーラに見向きもしないようになっていき…精神的にやられたのか………」
「カーラは世継ぎの男児を殺害しようとした―――」
「ただ、これは抱きかかえようとしてただけでカーラにそんな気はなかったとされておる」
「しかし国王は唯一の後継ぎに手をかけようとしてたという噂の方を信じて激怒し国を追放した」
「死刑にするだけの証拠がなかったんじゃ」
「全てを失って失望の底に叩き落されたカーラは国を憎んだ。そして人を憎んだ。全てを滅ぼしてやる……と」
「カーラほどの実力者なら自らの力で国など簡単に滅ぼすこともできた。じゃがそれは矜持が許さなかったのじゃろう」
「そこで禁断の法を思いついた…遠い昔に封印されていた大魔王を復活させる」
「カーラは自らの身を生贄にしてまで封印を解いた……」
「そして復活した大魔王は暴れた。カーラの目論見通りにな」
「国はよりすぐりのツワモノを送り込んだ。冒険者、兵士…じゃが全ては無力じゃった」
「ワシが10歳のときじゃった。その後はマリオ。ヌシに話した通りじゃが小娘は知らんか」
「ワシにはこの国を守ってやる義理も情もなかったが…禁斷魔法の時間停止でなんとか大魔王を封印したというわけじゃ。ワシ諸共な」
「そんな事が……」「そんな事が……」
「ハモるでない!」
ツッコミを入れた後フレイは少し照れくさそうに言った。
「……と言う事でワシは現在に至るわけじゃが国に憎しみ、人への憎悪など持っとりゃせん! 安心せい」
しかしここでフレイは突然立ち上がり、威厳たっぷりにイリスを指差した
「じゃが小娘! ヌシは覚えておくがいい! ヒロイン枠はワシのものじゃ!」
そこ!?と顔を合わせるイリスとぼく………。
「当然じゃ! ヒロイン枠は何よりも大切なもの。小娘! ヌシは全てがワシと被りすぎておる」
「美少女、魔法使い、薄幸すぎる人生」
「じゃが…ワシのほうがキャラは立っておる。ファンもワシの方が多い。小娘は金髪くらいじゃろ?んwww」
「もう! 変なこだわりするんだね」
「たわけ! 大事なことなんじゃ! 女にとってはな! 女性読者ならよくわかっておる!」
「言ってる意味がわかんないよ! ヒロイン枠とか女性読者とか!」
――凄絶な過去を知らされた直後の、このズレたこだわり。
けれど、その天邪鬼な明るさに、ぼくとイリスは顔を見合わせ、思わず小さく吹き出した。
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