第7話 失われた安らぎ
2階に上がって最初の部屋……ここだな……。
扉を開けると、質素な作りだが泊まるには申し分のない広さと清潔さだった。
でもトイレは別のようで、1階の奥がトイレのようだ。
部屋に入ると、ぼくはズボンを脱ぎ椅子にかけ開放感にひたった。
下着一丁でベッドに横たわると、寝藁の匂いが心地よく鼻をくすぐる。
ぼくはそのまま寝てしまった――――――。
しばらくするとエールを飲んだせいだろうか? もよおしてきたのでトイレに……。
スッキリして部屋に戻った瞬間、心臓が跳ねた。
ふと目をやると、椅子にかけておいたはずのズボンが何故か床に無造作に捨てられている。
「……っ!」
嫌な予感に手が震える。ポケットに手を突っ込んだ。
――ない。
硬貨袋のずっしりとした重みが、どこにもない。
ぼくは慌てて宿屋の女将のところに向かった。
「す、すみませーん!」
「おや? どうしたんだい? 食事にするのかい?」
「あ、あの! いまトイレに行って部屋に戻ったらポケットに入れてたお金がないんです」
「部屋の鍵はかけておいたのかい?」
「あ…い、いえ」
「それはアンタの責任さね。わたいにはどうしようもないね」
宿屋の女将は冷徹な言葉とともに首を振る
「あ、怪しい人出ていきませんでしたか?」
「さぁ……わたいはずっとここにいたけど誰も出て行ってないよ」
「じゃ、じゃあ他の客室を調べてくだ……」
「おだまり! わたいにはそんな権利ないさね。わたいにとっては他の客もあんたも同じ客だ」
女将は厳しい口調で続けた。
「それに部屋を離れるときは鍵をかけるなんて子供でも知ってることじゃないか!」
「それをしてなかったんだから誰が悪いんだい?」
「す、すみません。ぼくです………」
「素直でいいね。そうだ。それでいいんだよ」
女将の表情が少し和らいだ。
「わたいがアンタは一昨日とは違うと言ったのはそういうところだ」
「その純真さは大切にしな。どこかでアンタを守るかもしれないね」
部屋に戻ると、後悔の念が押し寄せてきた。
どうして…どうして…鍵をかけなかったのだろう………。
しばらく蹲(うずくま)りながら物思いにふけった。
そうだ! ロジャーに相談してみよう!
ぼくは宿屋の女将さんにお願いして昼食を済ませてからロジャーのもとに走った。
(はぁ…はぁ…はぁ…。)
しばらくするとロジャーのボロが見えた。
「ロ、ロジャーーー! 大変なんだ!!!!」
「…んだよ!……っせーな!」
ぼくはロジャーにさっき起きた出来事を話した。
「はぁ?…で?」
「……で?じゃなく,どうしたらいいのかな?」
「しらねえよ。お前が悪い。それだけだ」
「そ、それはわかってるんだけどさ、何かないかな?」
「何もねえ。どうしようもねえ」
ロジャーは冷たく言い放った。
「つまんねえことで起こすんじゃねえ! ぶっ飛ばすぞ!」
そう言うとロジャーはまた眠り始めた………………。
また全てを失ってしまった。
せっかく大金を手に入れたのに……。
しばらく途方に暮れたあと、この世界に来て少しだけ強くなったんだろうか? ポジティブに考えた。
兎にも角にも宿屋で10日間は支払いを済ませてる。2食付だ。
ぼくには10日間の時間がある。
なんとか仕事を見つけてお金を作らないと生きていけない……。
そうとなれば冒険者ギルドから少し離れた所。何でもいいから仕事を探してみよう
そう思い立ち、そのまま向かうことにした………。
相変わらずの治安が悪そうな所だ……。
でも、一文無しという安心感なのか、不思議と怖くはない。
守るべきものが存在しないのだ。
ぼくは昨日の朝、ロジャーが入っていった怪しげな建物の中に入ってみた………
そこには仕事のまとめ役なんだろうか? 机と椅子が数脚セットあって、男がそれぞれ何人か座っている。
ぼくはおもむろに空いてる席に座ってみた。
「ん? 見たことのない顔だな」
「すみません……初めてなもので………」
「仕事探してんのか? なら一覧から選びな。書いてる報酬は既にこちらの手数料を引いた金額だ」
男は説明を続けた。
「金額がデカけりゃリスクも高い。当然だがな。ただ、高額なものは実績がなけりゃ受けれない」
「お前は初心者だから……できるのは届け物依頼だな。このリストから選びな」
そう言うと羊皮紙に書かれた仕事一覧を見せてくれた。
「端っこに❌️が書いてるものは仕事完了か依頼が終わったかのどちらかだ」
「依頼金額が少ないものほど軽くて近くの場所。当然だがな」
そう言われて何枚もある羊皮紙リストを見ていると、一つの依頼が目についた。
恐らく1番古い羊皮紙………もうボロボロだ………。
しかし報酬が1000ファナン! 日本円で10万円くらい??? 報酬金額が飛び抜けていた。
他の仕事の報酬はせいぜい5~10ファナン程度だ。
ぼくはこの依頼を聞いてみることにした。
すると男の顔面からみるみる血の気が引いていくのがわかった……。
「や、やめておけ! 命知らずにも程がある!」
男は慌てて言った。
「これは、かの大魔法使いフレイさまへの依頼だ。過去にはフレイさまの逆鱗に触れて2度と帰ってこなかった奴が大勢いる」
フレイさま…あの少女か……。
不思議と、ぼくは初対面から彼女に対する恐怖は感じなかった。
「やります」
「どうなってもいいんだな? なら何も言わねえ」
フレイさまが住んでるという祠は、町外れから更に離れたところ………………。
奇しくも昨日遺体を捨てに行った近くだ。
「じゃあちょっと待ってろ……」
そう言ってしばらくした時に、机の上に古びた竹とんぼを置いた。
「これをフレイさまの下に届けてくれ」
ぼくは竹とんぼを受け取ると明日の朝から向かうことにした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます