第2話 ゴミを見る瞳
「ねえ……」
「ちょっと、起きなさいよ」
頬を叩く冷たい感触と、鈴を転がすような、けれど刺々しい声で意識が浮上した。
重い瞼を開けると、そこには黄金色の髪を夕日に輝かせた美少女が立っていた。
透き通るような碧眼。アニメのヒロインがそのまま飛び出してきたような美しさに、ぼくの心臓が跳ねる。
(や、やった……! 本当に異世界だ。しかもいきなり超美少女イベント……!)
「気がついた? 全く、街のど真ん中で寝るなんて、いい度胸ね」
ぼくは慌てて起き上がり、周囲を見渡した。石畳の道、遠くに見える時計塔、行き交う人々。夢じゃない。女神イナンナの言った通り、ここは異世界なんだ。
「あの、すみません……ここは?」
「ここは『聖都イナンナ』。女神の加護を受ける街よ。……私はイリス。長老に言われて、アンタみたいな『ゴミ』の様子を見に来たの」
「え、イリスちゃん……? 可愛い名前だね」
ぼくがデレデレしながらそう言うと、彼女の表情が一瞬で凍りついた。
「は? 気安く呼ばないでくれる? ……キモいから」
「え……」
「それから、その薄汚い体でこっちを見ないで。視界に入るだけで不快なの」
言葉のナイフが、容赦なくぼくの胸を抉る。あれ? なんだか、想像していた「転生者歓迎ムード」と全然違う。
「あの、ぼく……実は異世界から来た、その、転生者なんですけど」
「知ってるわよ。アンタみたいな『無能な居候』、たまに湧くのよね。どこから来るのか知らないけど」
イリスは心底嫌そうに鼻を鳴らした。
「ハッキリ言っておくわね。こっちにとって、アンタたちは迷惑以外の何者でもないの。狩りもできない、魔法も使えない、力仕事もすぐ根を上げる。知恵があるかと思えば、役に立たない妄想ばかり……」
「そんな……。ぼくだって、元の世界の知識とかあるし!」
「そんなの、ここの生活じゃ一文の価値もないわよ。……せいぜい、顔がいい女なら『慰み者』として売れるけど、アンタみたいなブサメン、家畜の餌にもならないわ」
気のせいか「慰み者」と言った時にイリスの視線が揺れた?けれど、すぐに軽蔑に戻る。
イリスは事務的に、長老からの「宣告」を続けた。
「いい? 街の中で死なないでね。死体の処理も税金の無駄だから。死ぬなら勝手に街の外で野垂れ死んで。……じゃあね、二度と会わないことを祈るわ」
彼女は一度も振り返らずに去っていった。
残されたのは、夕闇が迫る見知らぬ街で、一文無しのぼく一人。
(……アニメと、違う……)
お腹が鳴る。喉が渇く。
焦ったぼくは、通りに見えた『INN』の看板に駆け込んだ。RPGでおなじみの宿屋だ。
「すみませーん! 泊めてください!」
中から出てきた恰幅のいい女将は、ぼくの姿を見た瞬間、眉間に深いシワを寄せた。
「なんだい、アンタ。例の異世界人かい? お金は持ってるのかい?」
「あ、いや……持ってないですけど……」
「なら帰んな! うちは慈善事業じゃないんだよ」
「そ、そんな! そこをなんとか……元の世界じゃ、困ってる人は助けるのが……」
その言葉を遮るように、女将が冷たい声を放った。
「……あんた、元の世界で一文無しのまま宿に泊まれたのかい?」
「いえ……無理です」
「元の世界でできないことが、なんでこの世界なら可能だと思ったんだい? 甘えるんじゃないよ、この穀潰し!」
女将の言葉は冷たく胸に突き刺さったが嘘はなかった
バタン! と激しい音を立てて扉が閉まる。
夜の帳が下りた街。ぼくは、暗い路地裏へとトボトボと歩き出した。
チートなんてない。ハーレムなんてない。
あるのは、ただ「無能な自分」という重い現実だけだった。
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