第7話 ぼっちの平穏は噂によって破壊される

 結論から言う。


 噂は、魔獣より速い。


 しかも防御不能。

 回避不可。

 デバフ永続。


     ◆


 最近、ダンジョンがうるさい。


(おかしい……

 ここ最深層……

 本来、静寂の象徴……)


 通路の向こうから、

 人の声。


「この辺りらしいぞ」

「例の“最深層の幽霊”」


(幽霊!?

 誰が!?

 私、生きてる!!)


 私は、岩陰に隠れた。


(いない……

 私は空気……

 空間の一部……)


     ◆


 ひなたが、小声で言う。


「しずくさん、もしかして……噂?」


(聞かないで!!

 知りたくない!!)


 みことが、眉をひそめる。


「……昨日の連中か」


(昨日!?

 もう!?

 拡散速度おかしい!!)


 耳を澄ますと、聞こえてくる。


「女の子一人で最深層」

「魔獣を一撃で消したって」

「姿を見せないから幽霊らしい」


(盛られてるーーー!!

 尾ひれ背びれ全部乗せ!!)


     ◆


 通路の先に、探索者パーティ。


 きょろきょろ周囲を見回している。


(探してる!!

 完全に探してる!!)


 ひなたが、そっと言う。


「声、かけます?」


(かけない!!

 かけないで!!

 命が縮む!!)


 私は、全力で首を振った。


 みことが、短く判断する。


「……迂回する」


(ナイス判断!!

 最高のリーダー!!)


     ◆


 だが――


「……あ」


 ひなたが、足元の小石を蹴った。


 音。


 探索者たちが、振り向く。


「いた!?」


(終わった)


 視線が、集まる。


(逃げたい……

 でも走ったら怪しい……

 でも立ち止まったら詰む……)


 私は、完全にフリーズ。


     ◆


 探索者の一人が、慎重に声をかける。


「……もしかして、君が……」


(来た!!

 正体確認イベント!!)


 私は、深くフードをかぶった。


「……ち、違う……」


 即否定。


 みことが、前に出る。


「……人違いだ」


 ひなたも、慌てて言う。


「そ、そうです!

 私たち、普通のパーティです!」


(普通の定義が壊れてる)


 探索者たちは、疑わしげに見てくる。


「でも、剣……」

「血の気配が……」


(観察力高い!!

 やめて!!)


     ◆


 そのとき――

 奥の通路から、強めの魔獣の気配。


「くそ、来るぞ!」


(戦闘!!

 戦闘なら誤魔化せる!!)


 魔獣が現れる。


 探索者たちが迎撃。


 ――苦戦。


(あ、またこのパターン……)


 体が動く。


(やだ……

 目立ちたくない……

 でも……)


 一閃。


 魔獣、消失。


 沈黙。


(またやったーーー!!

 隠密失敗ーーー!!)


     ◆


 探索者たちが、確信した顔で言う。


「……やっぱり」

「幽霊じゃない……本物だ」


(本物って何!?

 私は何カテゴリ!?)


 私は、限界だった。


「……あの……

 噂……

 広めないで……」


 必死のお願い。


 探索者の一人が、少し困った顔で笑う。


「いや……もう……

 広まってると思う」


(絶望)


     ◆


 その場を離れた後。


 私は、壁に頭を軽く打ち付けた。


「……ひきこもり……

 失敗……」


 ひなたが、申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさい……」


 みことが、きっぱり言う。


「……守る」


(守る!?

 噂から!?

 どうやって!?)


 私は、フードの奥で震えながら思った。


(……ダンジョンにいても……

 人は……避けられない……)


 でも。


 二人が、隣にいる。


(……それだけは……

 ちょっと……救い……かも……)

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『ぼっち・ざ・ダンジョン! 〜最深層に引きこもってたら最強になってたみたいですが、モンスターより人が怖いです〜』 @knight-one

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