第6話 ぼっちは他人のパーティと遭遇すると即死する

 結論から言う。


 “知らない人が複数いる空間”は、ダンジョン最深層より危険。


 モンスターは予備動作がある。

 でも人は、急に話しかけてくる。


 理不尽。


     ◆


 三人で進む通路。


 ひなたが鼻歌まじり、

 みことが静かに前を警戒、

 私は後方で全神経を索敵に使っていた。


(……この先……人の気配……?)


 嫌な予感。


 嫌な予感は、当たる。


 曲がり角の向こうから――

 声。


「この階、思ったより楽だな」

「最深層手前って聞いてたけど?」


(無理無理無理無理無理!!

 人!!

 しかも複数!!

 パーティ!!

 コミュ障殺しの集合体!!)


 私は反射で、岩陰に隠れた。


(いない……

 私はいない……

 景色……

 背景オブジェクト……)


 ひなたが、普通に手を振る。


「こんにちはー!」


(やめてーーー!!

 なぜ挨拶という高難度行動を!?)


     ◆


 外部パーティは三人。


 装備は整ってる。

 動きも慣れてる。


 つまり――

 普通の探索者。


 リーダーっぽい男性が、にこやかに言う。


「最深層で女性だけのパーティ?

 珍しいですね」


(会話が始まったーーー!!

 逃げ道消失!!)


 ひなたが元気に答える。


「はい!

 しずくさんがすごく強くて!」


(名前出したーーー!!

 なぜ!?

 なぜ私を話題に!?)


 男性の視線が、私に向く。


「へえ……あなたが?」


(見ないで!!

 評価しないで!!

 期待しないで!!)


「……あ……その……」


 声が、迷子。


 沈黙。


 みことが、さりげなく前に出る。


「……用件は?」


(かっこいい……

 盾になってくれてる……

 社会性の……)


     ◆


 だが、悲劇は起きる。


 奥の通路から、

 魔獣の気配。


「うわ、挟まれるぞ!」

「くそ、来る!」


(戦闘!!

 戦闘なら分かる!!

 戦闘は会話しなくていい!!)


 魔獣が突っ込んでくる。


 外部パーティが迎撃――

 失敗。


「間に合わない!」


(あ、これ……全滅ルート……)


 体が、勝手に動いた。


 一歩。

 二歩。

 三歩。


 私は、ひなたとみことの前に出る。


(やばいやばいやばい!!

 目立つ!!

 でも止めないと!!)


 剣を振る。


 ――一閃。


 魔獣は、文字通り消えた。


 静寂。


     ◆


 外部パーティ、硬直。


「……え?」

「今の……?」

「何が起きた?」


(見ないで!!

 見ないでください!!

 私は一般通過ぼっちです!!)


 男性が、慎重に聞く。


「……あなた、ランクは?」


(ランク!?

 そんなもの!!

 知らない!!)


「……わ、わからない……」


 本当。


 沈黙。


 外部パーティが、ざわつく。


「ソロ最深層?」

「いや、ありえないだろ……」


(やめてーーー!!

 分析しないでーーー!!)


 ひなたが、誇らしげに言う。


「しずくさん、ずっとここにいるんです!」


(それ言うと引くから!!

 “引きこもり”は伏せて!!)


     ◆


 空気が、変わる。


 尊敬と警戒が混ざった、

 一番居心地の悪い視線。


(もう無理……

 心が折れる……)


 私は、絞り出す。


「……あ、あの……

 わ、私……

 先……行く……」


 男性が慌てて言う。


「あ、助けてもらってありがとうございました!」


(感謝イベント!!

 返答必須!!

 でも短く!!)


「……ど、どういたしまして……」


 言えた。


 言えたけど――

 HP、ゼロ。


     ◆


 その場を離れた後。


 私は、壁にもたれて崩れ落ちた。


「……死ぬかと……思った……」


 ひなたが、心配そうに覗き込む。


「しずくさん、大丈夫ですか?」


 みことが、静かに言う。


「……お前、ああいうのが苦手だな」


(バレてる……)


 私は、小さくうなずいた。


「……でも……

 守ってくれた……」


 みことは、少しだけ口角を上げる。


「……仲間、だろ」


(“仲間”……

 重い……

 でも……)


 私は、フードの奥で、

 少しだけ笑った。


(……社会性は即死したけど……

 悪く……なかった……)

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