第5話 ぼっちは朝になるとさらに挙動不審になる

 結論から言う。


 朝は、来ないでほしい。


 いや、時間の概念としては必要。

 でも、他人と迎える朝はダメ。


 準備が、ない。


     ◆


 目が覚めた。


(……あれ……?)


 天井。

 岩。

 焚き火の残り火。


(……あ、ダンジョン……

 拠点……

 私の……)


 そこまではいい。


 問題は――


 人の気配が、二つあること。


(あああああああ!!

 夢じゃない!!

 本当にいる!!

 人が!!

 私の拠点に!!)


 私は、音を立てないようにそっと起き上がる。


(起きてる?

 寝てる?

 今話しかけたらダメ?

 “おはよう”って何?

 どういうテンション?)


 脳内会議、朝イチ開催。


     ◆


 ひなたが、先に目を覚ました。


「……ん……あ、おはよ――」


(来た!!

 “おはよう”!!

 即レス必須ワード!!)


「……あ……」


 声、出ない。


 0.5秒沈黙。

 ひなた、にこっと笑う。


「おはようございます!」


(敬語に切り替えられた!?

 私、圧かけた!?

 違う!!

 声が出なかっただけ!!)


「……お……おは……」


 絞り出す。


 成功。

 今日の最大ミッション達成。


     ◆


 みことも、目を開ける。


「……朝か」


(低音ボイス!!

 朝からクール!!

 余裕!!

 人として完成してる!!)


 私は、壁際に移動した。


(どうする!?

 朝ごはん!?

 出す!?

 出さない!?

 “何もないです”って言う!?)


 ひなたが、先制攻撃。


「朝ごはん、どうします?」


(聞かれたーーー!!)


「……あ……その……」


 目の前に、保存食。


(これしかない!!

 でも“これ食べて”って言える!?)


 私は、無言で差し出した。


 ひなた、受け取る。


「ありがとうございます!」


(感謝された!!

 なぜ!?

 私、何もしてない!!)


     ◆


 食事中。


 もぐもぐ音だけ。


(静か……

 でも、沈黙が怖くない……?

 え、成長……?)


 ひなたが言う。


「しずくさんって、ここが好きなんですね」


(好き……

 好きって言葉……重い……)


「……うん……」


 肯定してしまった。


 みことが、ぽつり。


「……居場所、だな」


(核心!!

 核心突くのやめて!!)


 私は、うなずくしかなかった。


     ◆


 準備をして、出発。


(え、また一緒に行く流れ!?

 解散は!?

 自然解散は!?)


 ひなたが元気に言う。


「じゃあ、今日もよろしくお願いします!」


(継続確定ーーー!!)


 みことが剣を持つ。


「……前に出る。

 後ろは頼む」


(信頼されてる!?

 重い!!

 でも……)


「……うん……」


 私は、返事をした。


 ちゃんと、声を出して。


     ◆


 三人で歩く通路。


 昨日より、少しだけ歩幅が合っている。


(……まだ怖い……

 でも……)


 私は、気づいてしまった。


(……一人より……

 楽……かも……?)


 その考えに、私は慌てて首を振る。


(ダメ!!

 油断したら依存する!!

 ぼっちは自立!!)


 でも。


 前を歩く二人の背中は、

 少しだけ――

 近く感じた。

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