第4話 ぼっちの聖域が侵略されました(全面降伏)

 結論から言う。


 人を家に上げるイベント、難易度が高すぎる。


 しかも今の私は、

 家=ダンジョン最深層の拠点。


 つまりこれ、

 ぼっち人生のラスボス戦。


     ◆


「わあ……ここが、しずくさんの拠点なんですね!」


 ひなたが、きらきらした目で周囲を見回す。


(やめて!!

 見ないで!!

 評価しないで!!

 これは“たまたま物が置いてあるだけ”だから!!)


 みことは、無言で壁と天井を確認している。


(点検するな!!

 ここは秘密基地!!

 安全基準とか知らない!!)


 私は、フードを深くかぶったまま、壁際で固まっていた。


     ◆


 拠点の中。


 焚き火。

 寝袋。

 保存食。

 あと、伝説級素材の山。


(ああああ!!

 見える!!

 全部見えてる!!

 “これ何ですか?”って聞かれたら終わる!!)


 ひなたが、案のごとく聞いてきた。


「この石、すごく光ってますけど……」


(来たーーー!!)


「……し、知らない……」


 即答で誤魔化す。


 みことが、ちらりと素材を見る。


「……それ、最深層ボスの核だ」


(言うなーーー!!)


「ええ!?

 あのボス、倒したんですか!?」


(倒したって言うなーーー!!)


 私は、壁と同化しながら言った。


「……た、たまたま……」


 ひなた、目を輝かせる。


「たまたまの概念、壊れてません?」


(壊れてるのは私の社会性です)


     ◆


 休憩タイム。


 焚き火を囲んで座る三人。


 距離が近い。


(近い近い近い!!

 パーソナルスペース!!

 ここ私の!!

 いや、私が入れたんだけど!!)


 ひなたが、保存食を差し出してくる。


「一緒に食べましょう!」


(“一緒に”!!

 その単語、重い!!)


「……い、いただきます……」


 声が震えた。


 みことが、ぽつり。


「……落ち着かないか?」


(見抜かれてるーーー!!)


 私は、観念して小さくうなずいた。


「……すこし……」


 みことは、それ以上踏み込まない。


「……無理しなくていい」


(優しさが静かすぎて、逆に刺さる)


     ◆


 ひなたは気にしない。


「しずくさんって、ずっと一人だったんですか?」


(地雷!!

 踏み抜いた!!)


 脳内警報、全力発報。


(ここで“はい”って言うと重い!?

 “いいえ”は嘘!?

 沈黙は感じ悪い!?)


「……まあ……」


 万能語。


 ひなたは、にこっと笑う。


「でも、今日からは一人じゃないですね!」


(その台詞、破壊力高すぎ!!

 心に直撃!!

 防御不能!!)


 私は、言葉を失った。


     ◆


 その夜。


 二人は、拠点の端で仮眠を取ることになった。


(寝るの!?

 ここで!?

 私の拠点で!?

 他人が!?

 呼吸してる!?)


 私は、目を閉じられない。


 静かな寝息が、二つ。


(……うるさい……

 いや、うるさくない……

 むしろ静か……)


 胸の奥が、ざわつく。


 落ち着かない。

 でも――


(……嫌じゃ……ない……)


 その感情に、私は戸惑った。


 ぼっちは、ひとりが好きなはずなのに。


     ◆


 ひなたが寝返りを打つ。


「……しずくさん……」


(呼ばれた!?

 寝言!?

 起きてる!?)


 でも、ただの寝息だった。


 みことが、小さく言う。


「……大丈夫だ」


 独り言のように。


 私は、天井を見つめながら思う。


(……私……

 このまま……

 少しずつ……変わるのかな……)


 答えは出ない。


 でも――


 拠点は、いつもより、少しだけ温かかった。

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