第3話 ぼっちは三人になると処理落ちする

 結論から言う。


 人が三人集まると、私の脳はフリーズする。


 一対一なら、まだなんとかなる。

 会話は最悪、相槌だけ打てばいい。


 でも三人。


 視線が二方向。

 会話の流れが分岐。

 沈黙の責任が分散しない。


 ――地獄。


     ◆


「じゃあ、しずくさん!

 この先、どうします?」


 ひなたが元気よく聞いてくる。


 同時に、

 クールな少女――さっきから一言も多くを語らない剣士が、

 無言でこちらを見ている。


(え、私に決定権!?

 いつの間にリーダー!?

 聞いてない!!)


 脳内でパニックが起きる。


(最適解は何!?

 “安全第一”!?

 “慎重に行こう”!?

 いやそんなこと言えるキャラじゃない!!)


「……あ……」


 出たのは、母音。


 クールな少女が口を開く。


「私が前に出る。

 あなたは後衛でいい」


(助かった……!!

 合理的!!

 ありがとう、知らない人!!)


 私は全力でうなずいた。


     ◆


 戦闘。


 ひなたが焦ってスキルを空振りし、

 魔獣が突っ込んでくる。


(あ、危ない……)


 体が勝手に動く。


 一歩。

 角度。

 最短距離。


 魔獣は、消える。


「……え?」


 ひなたが目を丸くする。


 クールな少女が、私を見る。


「……今の、どうやった?」


(説明!?

 説明を要求された!?

 無理!!

 感覚だから!!

 言語化できない!!)


「……なんとなく……」


 言ってしまった。


 クールな少女は、少し考え込む。


「……才能型か」


(違う!!

 引きこもってただけ!!)


     ◆


 戦闘後。


 三人で簡易休憩。


 ひなたが、きらきらした目で言う。


「しずくさん、やっぱりすごいですね!

 ずっと最深層にいるんですか?」


(踏み込んでくる!!

 プライベート!!)


「……まあ……」


 クールな少女が、短く名乗った。


「氷室みこと。

 ソロで潜ってる」


(あ、名前出た……

 ちゃんとした人だ……)


 沈黙。


 ひなたが、空気を壊す。


「ねえねえ!

 せっかくだし、しずくさんの拠点、見てみたいな!」


(終わった)


 それは、

 私の心の安全地帯。


 誰も入れない場所。

 ひとりで、静かに過ごす場所。


(断る……?

 断ったら気まずい……

 でも入れたら心が死ぬ……)


 数秒の葛藤。


 私は、負けた。


「……ちらっと……だけ……」


 ひなたが笑う。


「やった!」


 みことは、静かに言った。


「……無理はするな」


 その一言が、

 なぜか胸に残った。


(……三人……

 思ったより……悪くない……かも……?)


 でも、まだ怖い。


 私は、まだ――

 ダンジョンから、出られない。

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