2話 ゴリ押しって後になってから恥ずかしいもの
ボロボロの街中には話すのには向いていないので、レオンティウス…さんに手を引っ張られて私たちは森の茂みに入って話していた。
私達は立って話すのもなんだし、と言って、地面に座り込み込んでいた。
地面の土に図を描きながら説明してくれていたレオンティウスさんが端正な顔立ちをこちらへ向けた。
「…という訳だ。理解してくれるか?」
「 あ、ごめん全然聞いてなかった。」
「(物凄く呆れた顔)」
「ごめん」
色々なことが起こった結果、ローディングに時間がかかって彼の話を聞いていなかった。申し訳ない と謝っていたところ、彼は溜息をついて話し始めた。
「要するに…
遺物というのは、天界、月界、地界、冥界にある生態系を保つ上で重要な物だ。
お前の世界には4つの遺物があり…」
「ちょ、ちょっと待って」
またもや話を遮ると、今度はあからさまに嫌な顔をされた。
「次はなんだ」「その天界、月界っていうの何?」
「…は?」「は?」
「え、し、知らないのかお前。月界を…」
「いや、知ってはいるけど、それ神話の話でしょ?」「え?」
「…え?」
そういうとレオンティウスさんは空を見上げて、
「月神よ…俺には荷が重すぎたかもしれません…」と何かに向けて話し出した。なんなんだお前。
かと思いきや、ふと思いついたような顔をしてこちらに食い気味に話しかけてきた。
「その神話を聞かせてくれないか?頼む」
「別にいいけど…」
昔に読んだっきりで、たまに間違えているかもしれないが と言い訳のような事を言っていると、それでも良い と言われたので、必死に思い出しながら口を開く。
「…世界は元々一つの大地であった。
大地には、4つの神がいた。
天の神、月の神、地の神、冥の神…
神達はひとつの大地を分かち合い、
四柱の神がその均衡を保っていた。」
真剣な顔をして聞いているので、なんだかこっちも恥ずかしくなってくる。端正な顔で見つめられると…
「冥の神は、月の神に恋をした。
月の神も冥の神を愛していた… 二人は惹かれあっていた。 そしてある日、冥神は、 禁忌の「最後の大釜」に…え〜っと、なんだっけ…」
彼が急いで口を割ってきた。
「待て、少し違う。最後の大釜あたりを飛ばせ。」
それを言ったっきり、彼は黙って聞く体勢に入ったので、私も話を再開する。
「…ともかく、天の神はそれを許さず、世界を4つに切り裂き、冥と月を離した。地の神はその仲を取り仕切る物として、真ん中に追いやられた。
で、「創造神話」は終わりだったかな?」
話し終えると、レオンティウスさんは淡々と口を開いた。
「聞いたところ、間違っていない。」
「間違っていない…というのは?」
「その物語は神話ではない。 本当にあった歴史だ」
…
「えぇ…」
納得のいかない顔を浮かべた私に彼はこう言った。
「急にこんなことを言われても困るかもしれないが、長々しい説明は、まぁいいだろう…。
今、月界、冥界が壊れかけている。そして、地界も対象外ではない。お前も見ただろう、あの堕天使達を」
「黒ずくめ集団の事?」
「お前たちはそう呼んでいるのか。
俺が戦っていたあの黒ローブ達は、天界から堕ちてきた堕天使だ。そもそもなんで天界から来たかと言うと…
少し情報を詰め込みすぎたな。
一旦、整理しよう。
「創造神話」は神話ではなく、
歴史で実際にあった事、
世界が4つあり、
そのうちの一つに俺達はいる。
俺は別の世界出身…ってことだ」
「うんうん、全部理解してないけど納得はしたよ。」
そう言うと、彼は一息ついてまた話し出した。
「…堕天使の話をしてたか?」「そうだよ」
「天界は今、天の神が統治していない。
俺もよく知らないが、夜の神 というまた違う神が統治しているらしく、天の神は幽閉されているらしい。その夜の神が使役する天使の事を、俺達は堕天使 と呼んでいる。」
なるほど…つまり
「黒ずくめ集団は夜の神の手先で、こっちに資源奪いに来てるって事?」「そういう事だ」
なんつー奴らだ。黒ずくめ集団。いや、堕天使集団。
「彼らが資源を奪いに来ている件についてだが、それに遺物が関係している。」「へぇ?」
「遺物は自然を司る存在…世界の分だけそれぞれの遺物がある。それが今、あるべき場所に無い。」
「というのは?」
「月界の遺物は、すべて地界にある。
地界の遺物は、天界に。
そして冥界の遺物はーー 月界にある」
「何そのすれ違い…」「本当に俺もそう思う」
「なんで遺物? は別の所にあるんだ?冥界の遺物はお前が戻せばよくない?」
「……理由は、今は言えない」
彼は一瞬だけ視線を逸らした。
「…本当に理由があるんだ」
「じゃあ言わなくていいよ」
そう言うと、彼は少しだけ安堵したように息を吐き、話を続けた。
「しかし…お前のその手袋は違う。
その遺物は、ちゃんと今、地界にある。
あるべきところにある。」
「その言い草だと、ここが地界って訳だな」
「そういう事だ。」
話がひと段落ついたのか、暫しの沈黙が訪れた後、彼は次は軽口のように口を開いた。
「…しかし、地の神は何も話さなかったのか?」
「地の神が誰かも分からないんだよな〜現在。」
「手袋を貰ったのは、お爺さんからか?」
「そうだけど…
地の神はやっぱそのお爺さんか〜!いやまぁ、状況的にはこんな長話を話さないでくれた方がいいから別に良いんだけど〜!
神なんだったら前日に来て欲しかったな…」
「それは神に対する冒涜か?」「違う」「そうか」
軽い掛け合いが終わったあと、ヨイが急に立ち上がり、レオンティウスに手を差し出した。
「とにかく、探さなきゃその遺物ってのを探さなきゃいけないんでしょ?じゃ、出発は早い方が良いよね」
レオンティウスはその手を掴まずに立ち上がり、ちょっとヨイに嫌な顔をされた。
「せっかく手を差し出したのに…
ま、いいわ。
私の名前はヨイ。ヨイ・コノエ。
地元の表記は近衛 宵
って言葉で言っても分からないか!
これからよろしく。レオンティウス。」
世界を救う勇者になった気分で、ワクワクしながらこう言った。
しかし、レオンティウスは首を傾げて、不思議だと言わんばかりにこう言った。
「…なんで「これからよろしく」なんだ?お前は運搬役だから、「適合者」が来たら、もう帰れるんだぞ?」
「…えぇ?」
世界は私を選ばなかったようです。
「じゃあなんで世界の構造を説明してくれたの?」
「それはお前が何も知らなすぎたから…」
「え〜やだよ〜」
立っていたヨイが急にしゃがんで顔を覆った。
「私別に選ばれてないのに勇者っぽい って自分で思ってたって事〜?恥ずかしすぎるよ!」
ギャンッ!!!と勢いよくダンゴムシのように丸まってしまった。
「別に…君は選ばれてないという訳ではなく…
ほら、実際に運搬役には選ばれたじゃないか…
…選ばれてたら家族に会えなくなるんだぞ…?」
うめき声のような声を漏らすヨイがピタッと声を止めて、そのままの状態で呟いた。
「…今家族に会えないの。
ていうか、物理的に地元に戻れない。
だから、放浪してる」
「…す、すまない」
気まずい空気が流れ始めた。
誰も悪くない…誰も悪くないんだよ、
この状況は。
気まずい雰囲気が流れている中、ヨイが地面に置いていた手袋が光り始めた。
「…なんで光ってんの?」
「適合者が近くに居るんだ。…手袋を渡せ。
俺は探しに行く。」
その言葉を聞いた瞬間、どうしようもない心のむず痒さに襲われた。
心の中にある感情が口に出てしまった。
「嫌だ!なんか寝盗られたみたいだ!」
「寝盗られたも何も、
元々お前の物じゃないからな」
「嫌だーっ!
もう愛着湧いてるんだこの手袋に!」
ギュッと手袋を抱きしめた。
なんだが、手袋が暖かいような気がした。
無機質なのに。
「いいから離せ!」
「そもそも、この手袋が適合者はその人だって決めたの?!」
力を入れていて、奥歯を噛み締めながらレオンティウスは答える。
「それを決めるのは地の神だ…!早く手を離せ…
力強いなお前!」
「ねぇ手袋ちゃん!本当にあの適合者がいいの?!それは自分の意思なの?!」
「手袋に口説いても意味ないぞ!諦めろ!」
「顔も見た事ないやつにその身体を委ねるの?!私は、君のその美しい皮を他の奴に渡したくない!!」「何を言っている気持ち悪い!」
「手袋ちゃん! 私を、適合者にしてくれ!」
「だから、もう決まっている!運命なんだ!」
「
じゃあその運命とやらに、私も入れろ!
手袋ちゃん!私を選んでくれ!」
「無駄だっ…」
レオンティウスが手袋もとい、レザーグローブをヨイの手から取った瞬間、2人の足元が揺れた。立っているのも困難な程に、激しく揺れた。
月の神はレオンティウスに伝えてなかった事がある。
遺物は意思を持っていること。
そして、遺物によって決められていない適合者は、「まだ契約をしていない前なら、遺物自身が勝手に変えられる」事を…。
トゥンク…♡
「…今手袋ちゃんトゥンクって言った?」
「言ったな」
その瞬間、その日1番濃い光がその場を照らした。2人とも反射的に目を覆った。
光と地震が収まった数秒後に、2人はグローブを見た。
レオンティウスは信じられない… と言い、
またもや空を拝んだ。
「月の神よ…適合者が変えられました…」
また何かを言い始めた。
「え、何?どういうこと?」
ヨイは手袋を拾い、まじまじと見つめた。
茶色の皮のレザーグローブは、
ヨイの瞳の色である黒色に染っていた。
いや、それだけじゃない。使い古されていた雰囲気があった前の状態とは違い、今はしっかりとツヤがあり、なんなら緑色の魔法石さえつけられている。
「す、すご…。え、ねぇレオンティウス。これ選ばれたったことでいい?」
空を向いていたレオンティウスは、下を向いて半笑いで、半ば諦めているようにこう言った。
「……はは。俺は、気づくべきだったな。
俺の遺物を、お前が普通に持てている時点で」
彼はその日一番の、深いため息を吐いた。
「多分、
お前はもう、
その手袋をつけた瞬間に契約していた。
地の神がどう思っていたかは知らないが……
事実だ
……面白いな、お前。
神にも、世界にも、運命にも選ばれなかった。
それでもーー
「遺物」には、選ばれた。
正真正銘、お前が適合者だよ。」
そして、頭を下げて言った。
「…さっきまで無理だ とか、 諦めろ などと、言って悪かった。本当にすまない」
「いや…それは全然…良いんだけど」
「もう一度自己紹介させて貰おうか。」
俺の名前はレオンティウス。
月の神に仕える騎士であり、遺物の持ち主。
そして、君と道を共に歩む「相棒」だ。気軽に「レオ」とでも呼んでくれ。
これは僕に言わせてくれ。
これからよろしく頼む。ヨイ」
「え、えー…今私すごいゴリ押しで恥ずかしい感じなんだけど… いいの?本当に?…
よ、よろしく」
こうして、適合者と月の騎士、世界を救う二人は出会った。
ーーーーーーーーー
次回 「月界、ガチで終わる」
次の更新予定
毎週 土曜日 18:00 予定は変更される可能性があります
月冥アンモラル 谷兎シャチ @Tanito_syachi
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