第3話 【交錯】リザードマンと対戦車兵器


 東京湾、深夜の倉庫街。 潮風に混じって、鉄錆と血の匂いが漂っていた。 普段は静まり返っているその場所は今、異様な熱気と暴力に包まれている。


「オラァ! 古賀組のシマは今日から我々『東城会』がいただく!」  


 怒号と共に、乾いた発砲音が響く。 東城会の構成員たちが、古賀組の管理する倉庫を襲撃していた。 数で言えば東城会が50、古賀組が10。勝負にならないはずだった。 だが、もっとも異質なのは、彼らが連れている「それ」だった。


「ギャオオオオオ……ッ!!」  


 悲痛な咆哮が夜空を震わせる。 身長2メートルを超える、二足歩行の蜥蜴(とかげ)。 全身を鋼鉄よりも硬い緑色の鱗に覆われた、リザードマンだ。  


 その巨腕が振るわれるたび、鉄の扉が紙のように引き裂かれ、古賀組の若衆が 人形のように吹き飛ばされていく。


「ば、化け物だ……! チャカが効かねえ!」


「ひるむな! 撃て、撃てぇ!」  


 若衆たちが必死に応戦するが、9mmパラベラム弾は鱗に弾かれ、火花を散らすだけだ。


 5年前、ゲートが閉じた後も、東京には空間の「亀裂(ヒビ)」が残った。 そこから漏れ出す異界の生物を、裏社会の連中は「生体兵器」として捕獲・利用し始めている。 だが、所詮は素人だ。


 リザードマンの首には、不気味に赤く発光する首輪が食い込んでいた。 肉が焼け焦げる音が聞こえるほどの高熱を発し、無理やり神経に苦痛を与えることで従わせているのだ。 あれでは制御などできない。ただの「暴走」だ。


「ハハハ! 見ろ、この力! この『怪物』がいれば、東京は俺たちのものだ!」  


 安全圏から指示を出していた東城会の幹部が、狂ったように高笑いする。


「行け! 殺せ! 壊せぇ! 古賀組なんぞイチコロだぁ!」


「……酷い」  


 その光景を見て、隣にいた少女が呟いた。 俺のパーカーとホットパンツ(サイズが合わず太ももが眩しい)を着た、聖女セシリアだ。 彼女の碧眼は、恐怖ではなく、静かな怒りに燃えていた。


 異世界の奴隷商人ですら、あんな雑な扱いはしない。あれは道具への愛着すらない、ただの隷属だ。


「同感だな。美しくない」  俺は一歩前に出た。


 カツン、カツン。  


 乾いた靴音が、戦場に異質なほど澄んで響いた。 俺とセシリアが姿を現すと、東城会の幹部たちが色めき立つ。


「あぁ? 誰だテメェ……古賀ァ!?」  


 幹部が俺の顔を認め、顔を歪める。


「バカが、ノコノコ出てきやがって! 一人で何ができる! やれッ! そいつを食い殺せ!」


 命令を受けたリザードマンが、血走った目で俺に突進してくる。


ドシッ、ドシッ!  


 アスファルトを砕く重足音。普通の人間なら、恐怖で足がすくみ、反応すらできない速度だろう。 だが、俺にはスローモーションに見える。


 かつて俺がいた場所――「ラストダンジョン」での3年間。 そこでは、音速を超える天使の剣撃や、山を吹き飛ばす竜のブレスが日常だった。 神の軍勢と殺し合いをしてきた俺にとって、知性を失った野良トカゲの突進など、止まっているも同然だ。


「セシリア。あのトカゲを助けたいか?」  


 俺は短く聞いた。 セシリアが杖(のように持っているクイックルワイパー)を強く握りしめる。


「っ!? 当たり前です! 神の被造物を、あんな風に扱うなんて……聖女として見過ごせません!」


「なら、動きを止めろ。……俺が『楽』にしてやる」


「……殺すのですか?」


「見ろ。もう精神は崩壊してる。このまま暴走させて苦しみながら自爆させるのと、一瞬で終わらせてやるの。……どっちが『慈悲』だ?」


 セシリアは一瞬迷い、そしてリザードマンの悲痛な叫びを聞いて、決意したように頷いた。


「……信じます。あの苦しみから、解放してあげてください」  


彼女は前へと踏み出し、戦場に凛とした聖句(アリア)を響かせた。


「迷える仔羊に安息を。荒ぶる魂に静寂を――『聖縛(ホーリー・バインド)』!」  


セシリアが指先を優雅に振るう。 瞬間、何もない空間から幾重もの光の帯が出現した。 それは生き物のようにリザードマンに巻き付き、その巨体を宙吊りにした。


「ギ、ギャ……?」  


リザードマンの動きがピタリと止まる。 光の鎖は、単に拘束するだけでなく、暴走する体内の魔力を中和しているのだろう。リザードマンの表情から苦悶の色が消え、どこか安堵したような瞳が俺を見た。


「な、魔法……!? 動けねえだと!?」


「バカな! 最新鋭の生体兵器だぞ!?」  


 幹部たちが狼狽する。彼らが大金を叩いて用意した切り札が、小娘の指先一つで無力化されたのだから無理もない。


 動きの止まった標的を前に、俺は懐からスマホを取り出し、軽くタップした。


『転送要請:対ドラゴン用・炎竜の牙(ダガー)』    


ブォン。  


 空間が歪み、俺の右手に「赤熱する短剣」が現れる。 牙流が昨日狩った、伝説級の魔物「エンシェント・ドラゴン」の牙を加工した特級呪具だ。 その刀身が発する熱量は、触れるものすべてを一瞬で灰にする。


「……東城会。お前らの使ってるのは『ゴミ』だ。使い方もなってねえ」  


 俺は一歩踏み込み、すれ違いざまにリザードマンの首筋を撫でるように斬り裂いた。  抵抗はさせない。苦しみも与えない。    


 ジュッ、と音がした。  


 刃が触れた瞬間、リザードマンの体は内側から爆発的に燃え上がり、断末魔を上げる間もなく、一瞬で綺麗な灰へと変わった。 痛みを感じる暇さえなかったはずだ。


 ボウッ、と炎が消える。  


 後に残ったのは、炭化した醜悪な首輪だけ。 セシリアが胸の前で十字を切る。


「……女神の元へ。次は、平和な世界に生まれますように」


「ひ、ひぃぃ……! なんだそれは……消えた……!?」


「お、お前、一体なにを……!?」  


 幹部たちが腰を抜かし、後ずさる。 俺は燃えカスになった怪物を見下ろし、冷たく告げた。


「ただのヤクザと、ただの聖女だ」


 俺は幹部の目の前に立ち、スマホの画面を見せた。 そこには、異世界で数万の軍勢を指揮する、魔王・牙流の姿が映っていた。


『よう、レン。……いい葬式だったぜ』  


 スピーカーから響く声に、幹部が震え上がる。


「そ、その男は……!?」


『俺か? 俺は「あっち側」で一番えらいヤツだよ。……おい、そこのハゲ』


 画面越しの牙流が、幹部を睨みつける。


『俺のダチのシマで、ずいぶんと安いマネしてくれたなぁ?』


「ひっ……!」


「……ここからは、飼い主の処分の時間だ」  


 俺は冷たい目で幹部たちを見据えた。 圧倒的な暴力。理不尽なまでの力。 現代兵器と魔法、二つの世界のチートを握る俺たちに、もはや敵などいない。


「この街で『異世界(よそもの)』を使っていいのは、俺だけだ。……覚悟はできてるな?」    


 その夜、港の倉庫街から東城会の名が消えた。 そして裏社会では、一つの噂が囁かれるようになった。 古賀組には、「本物の魔法使い」がいる、と。


 こうして、俺たちの「帝国の設計図」に、最初の新たな領土が書き込まれたのだった。


~~~~~~~~~~

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・歌舞伎町 への殴り込み(経済無双)

・空から降ってくる「第二のヒロイン(王女)」

・六本木にダンジョン発生 → 自衛隊敗北 → ヤクザ無双 などなど、

さらにスケールアップした「国盗り」が始まります!


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俺は極道、親友は魔王。物資交換(トレード)で互いの世界を無双する。 米澤淳之介 @yone0806

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