第2話 【服従】聖女はカップ麺と責任に向き合うか
「……な、なんです、これは……」
聖女セシリアは、目の前に置かれた湯気の立つ白いカップ容器を、警戒心丸出しの目で見つめていた。 そこから漂う強烈な匂いに、彼女の美しい鼻がピクピクと反応している。
「毒ですか? それとも、精神を破壊して廃人にする魔法薬……?」
「ただの飯だ。食わないなら捨てるぞ」
「……騙されません。魔王の仲間が、捕虜にタダで食事を与えるはずがない。それに、あなたは私を憎んでいるはずです」
セシリアが俺を睨みつける。その瞳には、怯えよりも戦士としての強い光が宿っていた。
「私は『紅蓮の聖女』セシリア。先月の会戦で、魔王軍の先鋒部隊を3000人焼き払いました。……その報復として、私を辱めるつもりでしょう!」
そうだ。こいつはただの美少女じゃない。 異世界最強の法王国が誇る、生きた戦略兵器だ。
あいつ(牙流)の部下たちも、こいつの広域殲滅魔法で灰にされた。本来なら、即座に処刑されても文句は言えない立場だ。
「……自覚があるなら話は早い」
俺は冷徹に告げた。
「だが、俺は牙流ほど野蛮じゃない。報復も拷問もしない。……その代わり、働いてもらう」
「は、働く……?」
「この世界には魔力がない。お前のその『3000人を殺した魔法』を、ここでは平和利用してもらう。……インフラ整備、医療、害虫駆除。使い道は山ほどある」
俺はカップ麺を指差した。
「食え。それが契約金だ。……それとも、魔王城に送り返されて、今度こそオークの餌になりたいか?」
セシリアはゴクリと喉を鳴らした。 プライドと恐怖。そして、目の前の暴力的なまでの「いい匂い」。 彼女は震える手でフォークを取った。
「……ど、毒見はしますからね! 『毒物検知(ディテクト・ポイズン)』!」
ゴクリ、と喉が鳴る。 3年間の貧しい戦時食と、現代の化学調味料(旨味の塊)。勝負は見えている。 彼女は目を閉じ、麺を口へと運んだ。
チュルっ。
その瞬間。 彼女の動きが、完全に停止した。 見開かれた碧眼。ピーンと垂直に跳ね上がる長い耳。
「……んッ!? んんんんんッ!?」
「どうした。不健康の塊の味は」
「おいしい……! な、なんですかこれ!? この濃厚な魚介の旨味(スープ)! 絶妙な塩加減! それに、この縮れた麺の喉越し……! 王宮のフルコースより美味しいですぅぅぅ!」
セシリアは一心不乱に麺をすすり始めた。
ズルズル! ハフハフ!
聖女としてのプライドも警戒心も、強烈なジャンクフードの旨味の前では無力だった。 異世界の食事は、基本的に「生命維持」のためのもので、味など二の次だ。そんな舌に、日本の企業努力の結晶を叩き込めばこうなる。
「おかわり! おかわりありますか…ま…魔王の友人…?」
「レンだ。……おかわりはあるが、タダじゃない」
俺はここぞとばかりに畳み掛けた。
「俺の仕事を手伝え。……そうすれば、お前の故郷(エルフの森)への『攻撃命令』を、俺が止めてやれるかもしれんぞ?」
俺は牙流から送られてきた、ミサイル部隊の展開図を見せた。
「なっ……!? ひ、卑怯な……!」
「これは戦争だ、セシリア。お前が敵を焼いたように、俺たちもお前たちの森を焼く。……だが、お前が俺の手駒になれば、そのリソースを温存できる」
俺は彼女の目を見て言った。
「お前が働くことで、森のエルフも、攻め込むはずの魔族も死なずに済む。……『聖女』なら、どっちを選ぶ?」
セシリアは唇を噛み締め、やがて力なく肩を落とした。 それは、彼女が「兵器」から「協力者」へと堕ちた瞬間だった。
「……わかりました。従います。……でも、悪事は働きませんからね! あくまで、平和利用だけです!」
「善処する。……あと、プリンはやるよ」
「食べます!!」
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【あとがき】 チョロい……! 聖女様、チョロすぎます。 でも、美味しいものは正義ですよね。 次回は、いよいよ「現代兵器」と「異世界魔法」を組み合わせた、俺たちなりの「害虫駆除(バトル)」**をお届けします。
「セシリア可愛い」「ざまぁ展開が楽しみ!」という方は、ぜひページ下部の【★★タテ読み(★評価)】**で応援していただけると嬉しいです! (★1つでも飛び上がるほど嬉しいです!)
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