第7話 やみくもに剣を振り回すだけじゃダメらしいので…

私が逃げるのをやめ、立ち向かう選択をしたのをホーリーハントも察知したらしい。

片手剣を向けた私へと、「カチカチカチ」とアゴを鳴らした。

威嚇音だろう。

だが、すぐに攻撃を仕掛けてくる様子はない。



「あなたにとっても私は未知、ということですか」



ホーリーハントは基本的に待ち伏せタイプの不意打ちを得意とするモンスターだ。

もしかすれば直接的な戦闘能力は実際の等級以下なのかもしれない。

ならば勝機は、ホーリーハントが私の実力を見定められていない今こそ最も濃いだろう。



「──フッ!」



私は身体強化のかかった脚力をもってして、一気に大樹の太い枝まで跳躍すると、それを蹴ってホーリーハントの側面へと飛んで回り込む。

そして、武器強化のされた片手剣をその脚の一本目がけて思い切り振り回した。

しかし、ブオン。

それは虚しく空を切る。

ホーリーハントは巨体に見合わぬ俊敏な動きで樹上をサカサマに這い動くと、逆に空中で無防備になった私の背面を取った。

二本の黒い前脚が、私の体を押さえつけようと伸ばされる。



……捕まるわけにはいかない!



身をよじって、反転。

振り返り様にそれを防ぐため、思い切り剣を振る。

すると、思いのほかその一撃はたやすく前脚の一本を斬り飛ばした。

ホーリーハントは私の反撃の速度と威力に驚いたのか、地面に落ちていく。



「意外に柔らかい……?」



あるいは、武器強化を施したこの片手剣の切れ味がいいのか。

どちらにせよ、こちらの攻撃はかなり良く通るらしい。

全身鎧の騎士と戦うように、鎧のすき間を狙うようなマネをしなくていいとわかっただけだいぶ楽だ。

これなら勝てるかもしれない。


地面に落ちたホーリーハントへと追撃を仕掛ける。

だが、一目散にまた樹上へと逃げられてしまった。

それを追いかけて跳躍し、また剣を振るうが、しかし。



──ブオン。空振り。


──ブオン。次も空振り。


──ザクッ。後ろの大木を斬ってしまった。これも空振りだ。



私の片手剣はホーリーハントを捉えることができなくなった。

どうやら、完全に警戒されてしまったらしい。

私の攻撃の巻き添えにあった大樹の一本が、切なく倒れていく。

それによって前方の視界が塞がれている間に、音もなく背後に忍び寄ってきたホーリーハントが攻撃を仕掛けてきた。


それをかわす。

そして振り向き、反撃のために剣を振り回した。

だが、その時にはすでにホーリーハントは身を引いて、再び木々の陰へと姿を隠してしまう。

また、空振りだ。

全然攻撃が当たらない。



「まったくもって未熟ですね。ですが、これもまた学びか……」



思わずため息が出てしまう。

明らかに、この実戦で私に足りないものが提示されていた。

それは剣術。

片手剣は、ただ振り回すだけでは知能ある敵には当たらないのだ。



「法律書は、その法律を具体的な事象に当てはめるための法解釈能力がなければ無用の長物。それと同じように、剣もまた、剣術を修めていなければナマクラのようなもの、というワケですね」



だが、今この場でないものねだりをしたって意味がない。

ならばすべきことは一つ。



「現在の事象を分析し、それに最適化した剣術を編み出す……!」



逆の手順を踏むのだ。

すでに起こってしまった具体的な事象から法律を作るように。

今私の手にある片手剣と敵の行動パターンから、効果的な剣術を作ればいい。


私の攻撃速度がホーリーハントの速力に負けているとは思えない。

ただ、先手を取った分だけホーリーハントの方が早いだけなのだ。

ならば、先手を取らせない剣術で応じればいい。



──ザクッ! と。



再び私はホーリーハントへと目掛けて剣を振るい、しかしそれを避けられてその背後にあった大樹を斬った。

それにより、先ほどと同じように、再び視界の一部がさえぎられる。



……この状況ならば、敵の動き方は予測できる。



ホーリーハントは、必ず死角から──倒れる大樹の陰に隠れて、私の背後を取ってくるはず。

そこへと、片手剣による攻撃を合わせる。



──わたくし流・居合剣術。



それは決して、剣の達人が経験に裏付けされた超感覚によって敵の攻撃の起こりを察知するようなロマンあふれるものではなかった。

もっと無機質なものだ。

ただ前回の例から予測を立て、綿密な計算し、タイミングを合わせた剣の一振りなだけだ。



……だが、それゆえに不可避。



どんぴしゃりだった。

結果としてそれは、まさしく私の背後をやくそうとしていたホーリーハントの顔を深く裂き、そして残りの前脚も斬り飛ばしていた。


ホーリーハントが怯み、同時に後ろへと退く。

それもまた、最初の前脚を斬ったときの反応から予測済みである。

まったくの同タイミングで私はその距離を詰めた。



「いい勉強になりました」



上段に構えた片手剣を、思い切り振り下ろす。

トップスピードで頭部を縦に斬り裂くと、その傷口が摩擦熱で発火し、ホーリーハントがたちまちに燃え上がる。

残る六本の後ろ脚は細かくけいれんしているが、再び意思を持って動き始める様子もなく……やがて、事切れる。

決着だった。



「……さて」



樹上を見上げれば、いまだ聖法騎士と思しき青年は糸に絡めとられて捕まったまま。

助けなければ。

跳躍し、片手剣でホーリーハントの巣を斬ると青年を抱えて降りてくる。



「大丈夫ですか?」


「……お、お助けいただき、ありがとうございます……」



こちらの問いかけに、ちゃんとした言葉が返ってくる。

どうやら、意識が回復していたらしい。

ホーリーハントによる聖力の吸収が止まったからだろう。

顔はまだ青ざめているが、命に別状はなさそうだ。



「あ、あなたは、いったい……?」


「学者です」


「ガ、ガク……?」


「……まあ、詳しいことは後で話しましょう。まずは傷を回復されてはいかがですか」



青年は私の言葉にうなずくと、オレンジ色の癒しの光を体へと宿し始めた。






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今回もお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第8話 なるほど、聖力はこうやって出すのですね」です。

本日12時ごろに更新いたします。


それでは次のエピソードもなにとぞよろしくお願いいたします。



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