第6話 壊滅状態の騎士小隊と出会った

──どうやら、私はそこそこ優秀なようだ。



慢心からではなく、実戦による結果を見て客観的にそう判断することができた。

私の足元には今、無数の虫型モンスターたちが息絶えている。

中には八等級のモンスターまで混ざっていた。

そしてこのモンスター集団に対しての殲滅力も考慮すれば、少なく見積もっても私の騎士としての実力は七等級はあるに違いなかった。

七等級は確か、普通の騎士が十年かけて到達するレベルらしい。



「……もう少し奥に進んでみますかね」



自分の力量はできるだけ正確に知っておきたい。

そうでなければ、抗戦と撤退の判断を間違える原因となる。

勇気と蛮勇をはき違えてはいけない。

それではライラを守るという第一目的すら達成できないかもしれないのだから。


先ほどよりも控えめな光の球を浮かせつつ、深い森の中を進んでいく。

すると、



──ガサリ。



草木をかき分ける音がした。

立ち止まり、注意深く周囲を見回してみる。

しかし、モンスターの姿は見えない。

警戒しなければ。

私は片手剣へと手をかけた。



……おかしい。この周辺に生息するのは魔蟲と呼ばれる虫型モンスターが主のはず。ヤツらは知能が低く、擬態してエモノを待ち伏せしたりはするが、人から完全に隠れられるほど賢くない。



ひとまず落ち着こう。

深く呼吸をしていると、そのときだった。



「そ、その魔力、人だな……?」



草陰の向こうから、弱々しい男の声が聞こえてくる。



「われわれは、<黒狼こくろう騎士団>所属の騎士小隊だ……すまないが、じょ、助力を請いたい……」


「騎士小隊……」



そういえば、町の門を出るときに警備兵が言っていた。

この森に騎士小隊が入っていったと。

隠れていたのはモンスターではなく、騎士たちだったわけか。

違和感の正体に納得すると、私はさっそく茂みをかき分けて小隊の元へと向かう。

そして、絶句した。



「……頼み事が、あるんだ……」



血まみれとなった三人の騎士が、大木を背に、互いに寄りかかるようにして座り込んでいた。

その内の二人は生きているのか死んでいるのかもわからない。

意識があるのは一人の、おそらくは私と同年代くらいの男だけ。

だが、その者もまた、出血のせいか目が見えていないようだった。



「俺たちは、もうダメだ……だからアンタに……騎士団へと伝えてほしい」


「……何をです?」


「事前情報が間違ってた……この森に出たモンスターは七等級モンスターなんかじゃない……五等級の <ホーリーハント>だ。騎士大隊を派遣しなけりゃ、勝てる相手じゃない……と」



男はそう言い残すと、意識を手放した。

私は急ぎその場で図鑑をめくる。

ホーリーハント……どうやら辺境の森に生息する巨大なクモ型モンスターらしい。

魔蟲の中で最も知能が高く、罠を仕掛けることを得意とし、人を騙しもする。

人を騙すその目的は、ホーリーハントの名前の由来ともなっている通り、とある一部の人間に宿るエネルギーを好んで食べるためらしいのだが……。



「……マズいですね、この状況は」



私は、とっさにその場から、勢いよく横へと飛んだ。

すると、直後。

先ほどまで私の立っていたその場所に黒い鉄杭のようなものが上から振り、突き立った。

その正体は、鋭い一本の脚である。



「ホーリーハント、やはりこれはあなたの罠でしたか……」



視線を上に向けて目を凝らせば、そこに見えたのは木の葉の陰と同化していた巨大なクモ。

夜空に浮かぶ恒星のようなその赤い八つの眼を、全て私へと向けていた。



「残酷な話だ……この三人はあえて生かしていたというわけですね。あわよくば、彼らの治療をしに訪れるだろう <聖法騎士>を捕まえるために」



聖法騎士とは、騎士団の中では回復を担う騎士だ。

希少な才能を持った彼らは、魔力とは正反対の癒しの力である <聖力>を使って人の傷を癒すことができる。


そしてこのホーリーハントは、その聖法騎士を好んで食べると図鑑に書いてあった。

普段はエサの多い辺境を棲み処にしているのだが、一度聖法騎士を食べたことのある個体はその味を忘れられず、遠路を旅してモンスターの弱い地域に巣を張り、油断した騎士の部隊を狩猟することがあるらしい。

そんな希少な個体にこの騎士小隊は襲撃を受け、敗北を喫したのだろう。



「さて、逃げますか」



五等級のモンスターともなれば、さすがに今の私が勝てるかもわからない。

先ほどの騎士に言われた通り、騎士団にこの事実を伝えて応援を呼んでもらおう。

その時にはおそらく……この小隊は全滅しているだろうが。



「……ん?」



ホーリーハントの頭上、おそらくはクモの巣の上で、オレンジ色の光がゆっくりと点滅しているのに気が付いた。

聖力の輝きだ。

それによって照らし出されていたのは、粘着性の糸に絡めとられた一人の青年。額から血を流し意識を失っているようだったが、その表情は苦悶に満ちていた。


どうやら、無意識下で傷の回復をしようとしているようだが、しかしその聖力を糸によって無理やり吸い出されている状況らしい。

オレンジの光が糸を通じてクモの腹部へと流れ込んでいっている。



……青年の歳はおそらくまだ二十手前。ライラとそう変わらないくらい、か。



私がこのまま去れば、騎士団の大隊が組織され、応援がくるまで丸一日以上はかかるだろう。

その頃には、彼も……。

そこまで考えると、私は図鑑を放り投げ、片手剣を抜いていた。



「……フゥ。蛮勇、ですか」



時として。

それに身を委ねなければならない場合もある。

とりあえず、ホーリーハントを倒すかどうかは置いておき。

私は大人の義務を遂行するとしよう。



「大人は子どもを助けるものなのでしてね」






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ここまでお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第7話 やみくもに剣を振り回すだけじゃダメらしいので…」です。

明日も7:00ごろに公開します!


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それでは次のエピソードもなにとぞよろしくお願いいたします。

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