第16話 スペース・ダンジョンの攻略 1

 『ディファイアント』は宇宙迷宮スペース・ダンジョンの中を微速で進んで行く。



 スペース・ダンジョンの中央通路? とでも言うのだろうか…幾何学的な構造だ…丸いパイプやチューブではない…四角や三角の構造体? と言うのか…突起物が壁面のぐるりから突き出ている。



 何と言うのだろう…機械システム的なプレッシャーを感じる。



「…1000m先から、少しずつ狭まっています…」



 カリーナ・ソリンスキーが報告した。



「…エンジンを止めて進んで下さい…熱も感知されています…」



 ナターシャ・ポーリーが指摘した。



「…了解。サブ・エンジン停止。アポジ・モーターにて微速前進 0.2…」



 エマ・ラトナーが応えて操作する。



「…レーザー・センサーに感…800m前方から、レーザー・ラインが走っています…縦・横・斜めに…18本…」



 またカリーナが伝えた。



「…姿勢制御を掛けながらすり抜けてくれ…必要なら、もっと減速しても良い…」



「…了解…」



 パイロット・チームの3人で『ディファイアント』の艦体に細かい姿勢制御を掛けながら、レーザー・ラインをすり抜けつつ進む。



「…今、振動を感知しました。原因は爆発のようです。発生源は、方位185マーク293…距離1850m…」



「…レーザー・ラインに引っ掛かって、爆発したのかな? 」



「…そうかも知れません。でもここのレーザー・ラインに引っ掛かって、何が起きるのかは判りません…」



「…ミッション・リーダー…トラップも含めて、ダンジョンは A I で管理されているのかな? 」



「…可能性はありますが、総てではない筈です…大部分のトラップやシステムは、機械的な自動システムで動く筈です…何故なら、それ程の A I を動かすなら…どこかにパワー・グリッドがある筈ですから…」



「…なるほどな。了解した。パワー・グリッドがあるなら、それを攻撃して破壊すれば…攻略は完了する訳だからね…」



 それから3分で『ディファイアント』は、レーザー・ラインのゾーンを抜けた。



「…ますます狭くなります…現在、平均でコースの幅は、約750m…」



「…デコイを総て出して…壁に沿って走らせて下さい…」



「…了解…艦首デコイ、全弾放出……アポジ・モーターで推進・航走…8方位の壁面ギリギリで併走させます…」



 アリシア・シャニーンが、そう応えて…



「…続けて…位置に着いたら、総てのセンサー・レンジをリンクさせます…」



 カリーナ・ソリンスキーが後に続いた。



 艦首発射管から放出された8基のデコイがそれぞれ位置に着いて併走を始め、センサー・レンジのリンクが確立されると『ディファイアント』から半径13,600mにまでが、探査されて表示された。



「…思ったより…拡がらないものだな…」



 右手で顎を触りながら言う。



「…いえ…これだけ観えれば、かなり好いですよ…普通のダンジョン・アタックは、勘と総当たりですから……すみません、0.2まで減速して下さい……」



「…了解……速度、最微速0.2…デコイも同調……」



 その3分後。



「…左舷前方800m、ミサイル発射管を感知…12本です…」



「…逆噴射、全停止…」



「…了解、停止します…」



 そのポイントで停止した。



「…シールドを使っても、使わなくても通れるが…ミサイルの爆発が次のトラップを起動させる可能性がある……だから主砲でポイントを撃ち抜く事で、システムの起動を防止しよう……まさか、それで起動するトラップも無いだろうからね……じゃあ、発射管周辺のシステムを確認しよう…」



「…了解……直近にパワーセルを感知しました……他にはありません…」



 座り直して腕を組む。



「…主砲1番、精密照準…」



「…了解…目標、捕捉……精密照準、セット…」



「…エドナ…トリガーは任せる…」



「…了解…」



 そう応えてエドナ・ラティス砲術長は、もう1度ターゲット・スキャナーを手動で絞り込み、左眼を閉じて右眼でシューティング・クロス・サイトのセンターを、ターゲットに重ねた。



「…発射! 」



 『ディファイアント』の主砲…1番砲塔が25%にまで集束させた2条のビームを撃ち出し、狙った壁面のポイントに撃ち込んだ。



「…パワーセルの反応が消えました…成功したようです…」



 ナターシャが参謀補佐の席から私の顔を観たので、左手で「どうぞ」として観せる。



「…アポジ・モーターを再起動して、前進して下さい…」



「…了解…」



 『ディファイアント』が再び、ゆっくりと前進する。



「…コンピューター…スペース・ダンジョンである、この大規模構造体を3D表示し…更に中を航行する本艦のトレース・コースを重複表示しろ…」



【…コンプリート…】



「…ミッション・リーダー…こうして観ると、まだまだ入ったばかりだな…」



「…そうですね…」



「…先ずは構造体の中心を目指すのが、取り敢えずの目的? 」



「…はい…」



「…中心部にあるものを観て、それに対処するのがひとつとして…この大規模ダンジョン構造体が、そのものとして秘める謎を解く…と言う目的もある? 」



「…分かりませんが、可能性はあります…航路にヒントが隠されている可能性もね…」



「…了解…ミッション・リーダー……『曲がり角』や『交差点』があったら? 」



「…その都度に判断します…『それら』への接近が、トラップ・トリガーになる可能性もありますので…」



「…なるほど…」



「…ですが、ドアやゲートや…特にカムフラージュされて隠されているカバーなどがあったら、ほぼ迷わずに無理矢理にでも開けて入ります…」



「…隠されているものにこそ、真実への扉あり…かな? ダンジョンと言う存在は、ある文化的な背景を象徴するものなんだろう……その目的とする処は、ある存在の隠匿いんとくないしは隠蔽いんぺい……そしてダンジョン攻略に於ける達成のカギは、その存在を解放して白日の基に晒すか…その存在が秘めるか抱える謎の解明にこそ、ある…」



「…ご明察です。アドル艦長…」



「…ありがとう。ミッション・リーダー…」



「…前方で動きがあります…」



「…観えるか? カリーナ…」



「…今はまだ最大望遠でも厳しいですが、動き始めています…」



「…本艦の接近を感知して起動したシステムだが…これはトラップじゃないな…こんなに手前で動き始めたんじゃ、意味がない…」



「…接近して観察して下さい…」



「…了解…」



「…メイン・ビューワ、倍率15倍…」



「…了解…」



 やがて『それ』がはっきりと目視でも捉えられた時、既に動きは止まっていた。



「…何だ、あれは? 台の上に…小さい物が乗ってる? 乗せられているだけで、固定されていないのか? 」



「…そのようです…」



「…艦長、『あれ』を回収して下さい…最初の鍵かも知れません…」



「…回収がトラップ・スイッチになるんじゃないのか? ナターシャ…」



「…百も承知で回収しなければならない、最初のアイテムだと思います…」



「…了解だ。ミッション・リーダー…カリーナ…『あれ』の質量を計測…リーア…機関室に言って、レーザー・メスを装備した、シャトルの発艦を準備…エマ…パイロットを選抜して派遣してくれ……同じ質量を壁面から切り出して『あれ』に接近……取ると同時に乗せて、直ぐに戻れ…」



「…了解…」



「…分かりました…」



「…艦長、私が行きます…」



「…分かった、エマ…アプローチは注意深く行なって、直ぐに戻れよ…」



「…はい…」



 メイン・パイロット・シートから立ち上がって、エマ・ラトナーはブリッジから出て行った。



 シエナ副長とハル参謀がお互いに顔を見合わせて頷き合い、立ち上がってナターシャ・ポーリーとエレーナ・キーンを手招いて呼んだ。



 2人が立ち上がって歩み寄ると、シエナとハルで短く話をして驚くナターシャを副長の席に座らせ、エレーナを参謀の席に座らせた。



 そしてシエナは参謀補佐の席に着き、ハルはその隣りの補助座席に座った。



 微笑ましくそれを見ていた私は、シエナと目が合った時に左手でサムズ・アップをキメて観せた。

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『星屑の狭間で』(チャレンジ・ミッション編) トーマス・ライカー @thomasriker3612

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