第15話 宇宙迷宮(スペース・ダンジョン)進入

 それは突然に、唐突に出現した。



「…艦長、方位251マーク397、距離第3戦闘距離の125%の位置に、巨大構造物が出現しました…おそらくこれが宇宙迷宮スペース・ダンジョンかと思われます…」



「…うん…間違いないだろうな…エマ、インターセプト・コースで接近…」



「…了解、発進します…」



「…カリーナ、付近に何隻いる? 」



「…6隻ですが…! 待って下さい! 『運営推進本部』からダンジョン・アタックに参加する全艦に向けての緊急通達です! 『全艦は、エンジンを停止して減速せよ』…です…」



「…エンジン停止、艦首逆噴射、減速! 」



「…了解! 」



「…何故だ? 」



 誰にともなくそう問うて5秒後に眩暈を感じた……メイン・ビューワを通して観ていた外の景色が揺らめいて変わったのだ。



「…緊急停止だ! エマ! 」



「…了解! 停止します! 」



「…艦首から緊急逆噴射を掛けて、エマは『ディファイアント』を停止させた。



 急ブレーキが掛かって、体が前方に持って行かれる。



「…何が起こった?! 」



「…『ディファイアント』の艦体が転送されて、先程に出現した巨大構造物から…ほぼ第1戦闘距離の辺りにまで接近しました…」



「…他の艦もか? 」



「…はい…他に4艦が、ほぼ同じ距離にいます…」



「…参加艦を選んだと言う事だな…5ヶ所の入り口は判るか? 」



「…はい、判ります…」



「…構造物をアクティブ・スキャン! 」



「…了解! アクティブ・スキャン搬送波、発振! ……艦長! 搬送波が反射されました! 構造物の内部まで通りません! 」



「…入らなければ、中の事は判らない…と言う事か……エマ、最寄りの入り口の前に着けてくれ…5隻がそれぞれ入り口の前に着くまで、どのくらいだ? 」



「…20分以内には、揃うだろうと思います…」



「…それで、ダンジョン・アタックの開始だな……副長、ウチのミッション・リーダーはどうなってる? 」



「…ひとり挙がりましたが、他はまだ……」



「…その人だけでも呼んでくれ……誰だい? 」



「…観測スタッフのナターシャ・ポーリーです……彼女はダンジョン・アタックゲームの国際選手権で、総合3位と4位のタイトル・ホルダーです……それと艦長…ここにいるエレーナ・キーン参謀補佐も、総合6位と7位のタイトル保持者です……」



「…そうだった……思い出したよ…ふたりの業績を検索した時に、その記事も読んだんだった……だけどまさかその時には、このゲームでダンジョン・アタックがあるとは想像もしなかったからね……よし、エレーナの隣に補助座席を出してくれ……エレーナ、今回のミッション・リーダーはナターシャで、君がサブ・リーダーだ…良いね? 」



「…了解しました…」



「…宜しく頼む…カリーナ…構造物外観の概要を説明してくれ……」



「…はい……構造物は上面と下面の面積が広い…6面立方体です……直角平行での差し渡しは、第5戦闘距離の70倍……上面・下面とも、対角線の距離は…90倍……中心の1点対称対角線は180倍です……外観の概要として説明できるのはこのくらいです……」



「…OK…分かった…それにしても、バカでかいモノだな……」



 その時、ナターシャ・ポーリーがブリッジに姿を見せた。



「…やあ、ナターシャ…わざわざ来て貰って済まない…あらましは聞いたかな? 」



「…いいえ、どう致しまして…はい、伺いました…」



「…良かった…これもレース・ミッションのカテゴリーには入るようだが、ダンジョン・アタックなんでね。君に来て貰った……君が今回のミッション・リーダーだ……サブ・リーダーとして、エレーナにも入って貰う……」



「…分かりました…」



「…君の感覚を全面的に信頼する……どんなに些細な事でも…気付いたり感じたりしたら、そのまま話してくれ……そのまま信じて我々は動く……特にパイロット・チームは即応する…」



「…了解しました…」



「…宜しく頼む…じゃあ、エレーナの隣に座ってくれ…」



 私はそう言ったが、エレーナは自分の席をナターシャに譲り、自分は補助座席に着いた。



 それからは同じダンジョンにアタックする5隻が、それぞれ最寄りの入り口に近付くまで、ナターシャとエレーナがこれまでに取り組んできたダンジョン・アタックでのエピソードを聞いて、自由にディスカッションしていた。



「…艦長、5隻がそれぞれ位置に着きました…『運営推進本部』から『進入解禁』のコードを受信…」



「…よし…サブ・エンジン始動…微速前進0.5で入ってくれ…」



「…了解…」



「…カリーナ、入ったら30秒に1回でアクティブ・センサー・フルスキャン…」



「…了解…」



「…コンピューター、センサー・スキャンデータは3D表示で、ブリッジ中空に投影…」



【…スタンバイ…】



「…艦長…入り口が見えなくなったら、もう少し減速して下さい…」



「…了解…入り口が見えなくなったら、微速0.4に減速…」



「…はい…」



「…ナターシャ…エレーナ…もう指示は私を通さなくて良い……直接スタッフに指示してくれ……スタッフは全員、2人の指示に即応するように頼む…」



「…分かりました…」



「…アリシア…艦首ミサイル発射管には、各種センサー・アレイ…送受信・中継ビーコン…各種遮蔽システム・アレイを装備した、対艦ミサイルをデコイとして、全管に装填…」



「…了解…」



「…エドナ…全主砲は臨界パワー150%…発射出力130%…ビーム収束率85%でセット…」



「…了解…」



「…カリーナ…本艦からのアクティブ・スキャンで、どのくらいの範囲が観える? 」



「…半径で約1200mです…」



「…ナターシャ…エレーナ…アクティブ・スキャン搬送波が作動させてしまうトラップはあるかな? 」



「…幾つかはあると思いますが、そんなに警戒しなくても良いでしょう……周りの構造が変形し始めたら、シールド・アップして下さい……それで回避できるでしょう…」



「…分かった……本艦からだけのスキャン範囲は1200mだが、発射したデコイのセンサー・アレイと連携すれば、もっと広い範囲をスキャンできる…その必要を感じたら、デコイの発射を指示してくれ…」



「…分かりました…」



「…トラップが動き始めた時、何処かのポイントを撃ち抜けば…そのトラップを止められると感じたなら、そのポイントへの狙撃を指示してくれ…砲撃チームは即応するから…」



「…分かりました…」



「…入り口がスキャン範囲から出ました…」



「…減速します…」



「…入ったばかりで、いきなりトラップと言うパターンはあるのかな? 」



「…無くはないですね…レーザー・センサーを起動して下さい…レーザー・ラインに引っ掛かって、起動するトラップもあります…」



「…了解…レーザー・センサー起動…」



「…道幅が狭くなってきたら、集中して下さい…」



「…了解…」

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