第14話 セカンド・レース (スペース・ダンジョン・アタック)

 自室に戻るとシャツの襟だけ緩めてデスクに着く。



 4段目の大きい引き出しからグレンフィデックのボトル…ショットグラス…灰皿…ライター…シガレットケースを取り出して並べる。



 キャップを開けてショットグラスに注ぎ、ボトルを仕舞う。



 ケースを開けてシガレットを取り出して咥え、点ける。



 ゆっくりと蒸かして燻らせながら、ショットグラスのウィスキーをチビチビと呑る。



 シガレットとウィスキーを堪能しながら、レース・ミッションも結構イケるもんだなと思う。



 7分で終わらせると、片付けて洗顔して直ぐに出る……ブリッジに入ったのは、休憩時間が終わる3分前だった。



「…コーヒーです…」



 マレット・フェントンがソーサーごと渡してくれる。



「…ありがとう」



 シエナ・ミュラー副長とは、お互いに軽く頷き合って席を代わる……コーヒーを二口飲んで、左のアームレストに置いた。



「…休憩時間終了1分前です…」



 カリーナ・ソリンスキーの報告が頭上から聴こえる。



「…さて……どんなレース・ミッションになるのかな? 」



 コーヒーを3分の2まで飲んで、カップを置く……その30秒後に、またカリーナが報告した。



「…艦長、『運営推進本部』からの通達を受信……これはレース・ミッションに参加を表明した艦に向けての通達です……」



「…次のレース・ミッションについての通達だね? 」



「…そうです…読みます……セカンド・レース・ミッションは宇宙迷宮攻略スペース・ダンジョン・アタックです……」



「…スペース・ダンジョン!? このゲームフィールドに、3D表示で宇宙迷宮スペース・ダンジョンを構築するのか……凄まじいデータ・ストリームの消費になるけど…大丈夫なのかな? しかも個別・リアルタイムで数万パターンもの迷宮ダンジョンを同時に構築・投影・表示するんだろう? サーバーがパンクしなけりゃ良いけどね……まあ…『運営推進本部』はあれ程の規模で……使えるエネルギーにも規制は掛かっていないんだろうから……多分、大丈夫なんだろうとは思うが……」



「……詳細を報告します……参加申請の締め切りは20分後です……宇宙迷宮の攻略がこのレース・ミッションのゴールです……しかし、攻略条件や要件が具体的に何なのかは…迷宮の中にある手掛かりを基に解明せよ、との事です……ひとつの宇宙迷宮には5箇所の入り口があるので……5隻が同時に参加できます……スタートして同時に侵入しますが……ダンジョンの最奥部さいおうぶはひとつだけです……そこに到達する事が、ひとつの要件ではあります……勿論トラップやら、自動反応の仕掛け攻撃兵装が備えられています……当然ですが、他の4隻も取り敢えずは敵です……と言うのは、レース・ゴールは迷宮の攻略であって敵艦の無力化ではないからです……他にも攻略を妨害する存在や仕掛けはありますが、事前に明示はされません……」



「……なるほど……宇宙迷宮スペース・ダンジョン攻略の為なら…1時的に協力し合うのもアリと言う訳だ……と言うよりも、その必要があるのかも知れない……なかなかゲーマーの興味・関心を惹くような、レース・ミッションではあるようだね……制限時間は? 」



「…ありません…ですが明日の23:00までには入港しなければなりませんので……攻略できないと判断するなら、迷宮を破壊してでも外に出る必要があります……当然その場合には…未攻略と言う判定になって、経験値や賞金の付与・授与はありません……」



「……なるほどね……仲々に面白そうなミッションだ……レース・ミッションのカテゴリーには入っているけど…スピードはそれ程大事な要件じゃない……シエナ副長…カウンセラー……全クルーに問い合わせて、迷宮攻略ダンジョン・アタックゲームの得意なクルーを…自薦・他薦を問わずに推挙すいきょして貰おう……何人いても構わない……席は用意するから、全員ブリッジに上がって貰う……今回は彼らがミッション・リーダーだ……」



「…了解しました…早速全クルーに通知して、問い合わせます……」



「……宜しく頼む……カリーナ……『同盟』僚艦に向けての、シークレット・チャンネル・フィードにはこう載せてくれ……『今回のチャレンジ・レース・ミッションにも主宰としては参加を推奨するが、判断は各艦司令部に一任する……それ程深刻に考える必要も無いと思う……攻略を諦めるなら、火力で迷宮を破壊して外に出れば良い……攻略にチャレンジし続けるなら、罠や仕掛けには勿論……他の4隻の動向にも充分注意するように……これは私の観測だが……5隻が協力し合わなければ、突破できない仕組みもあると思う……各艦司令部それぞれの……情報収集…分析…思考…判断…それらに適応した、高速機動実行力に期待する』……それと、ゲーム内会議室のタイムライン・フィードには…私が喋ったここまでを、そのまま載せてくれ……」



「……分かりました…その通りにします……」



「……ありがとう……それじゃ、カリーナ……『運営推進本部』」に向けて、参加申請を送信してくれ……」



「…分かりました…今、送信します…」



 その返答を聞いてから、私は冷めた残りのコーヒーを飲み干した。

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