第13話 デッドヒート……ファースト・レース…ファイナル・デジション

 ……『ムール・ムール』……



「……アドル・エルクは、よく曲を流すからな……スタート前にそれが判ってりゃ、頭を獲られる事もなかったんだろうが……ノーナ! 隙を観て抜き返せよ! 」



「……判ってます! 」



 『ムール・ムール』は『ディファイアント』の後方…200mから300mの距離で激しく素早く取舵・面舵を繰り返しながら…『ディファイアント』を躱して抜き去り、前に出るタイミングを計り採ろうとしているが……エマはそれをよく視て詠み…適切・効果的にブロックしながら『ティファイアント』を走らせているので……ファースト・レースコースの半ばを過ぎても、同じレース・シチュエイションで進んだ。



 ……『ディファイアント』……



 3Dチャートでは前方8km……ゴール・ポイントの手前12kmの辺りから…大小の岩塊が密集する宙域になっている……エマは実に好く視て適切に『ディファイアント』を走らせているから、私の口出しなど必要ないだろう。



 おそらくエマはこうするんじゃないのかな…と言う予想を持ってはいたが、結果的にはもっとエグいレース展開になった。



 ある時点でエマは『ディファイアント』を5%減速させたのだが、それが絶妙なタイミングだった……『ムール・ムール』は丁度『ディファイアント』の後方を、右サイドから左サイドへとポジション・チェンジをしようとしていて…真後ろに差し掛かろうとしていた。



 そこで『ディファイアント』が減速したので、追衝突を恐れた『ムール・ムール』が慌てて大きく取舵を切り…左に大きく膨らんで『ディファイアント』を躱して抜き、比較的に大きく面舵を切って『ディファイアント』の前に出ようとしたのだが…その時に気付いたのだ……眼前に迫る大きい岩塊に。



 結局『ムール・ムール』は岩塊を回避し切れず…左舷前部を接触させた……ゲーム・ルールにより、その場合は5%の減速を10秒間続けなければならない……その隙にエマは『ディファイアント』を再加速させ…『ムール・ムール』をそのレフト・サイドから悠々と躱して抜き去り、再び前に出た。



 ペナルティ・タイムが終わり、『ムール・ムール』も再加速を掛けて『ディファイアント』に追い縋ったのだが……やはり時間が足りなかった……彼らの眼前600mで『ディファイアント』が先にゴール・ポイントを通過し…3Dチェッカー・フラッグが5秒間翻った。



 『Winner!! Defiant!!』の3D文字が宙空に表示されて、勝利認定が成された。



「……艦長…ファースト・レースが終了して、勝利判定を受けました……付与される経験値は800……賞金は1000万……休憩時間は15分です……レース・ミッションを継続するかどうか、訊いてきていますが? 」



「……勿論、継続すると送信してくれ……『ムール・ムール』はどうしてる? 」



「…分かりました……取舵を切って、ハーフ・スピードで離れて行きます……損傷は軽微ですね……」



「……リーア・ミスタンテ機関部長…『ムール・ムール』に向けて発光信号…『セカンド・レースでの健闘を祈る』……」



「…了解…」



「……経験値は通例通り、20項目に亘っての付与を頼む……賞金の取り扱いについては、ハル・ハートリー参謀に一任する……」



「…イエス・サー…」



「…了解しました…」



「…15分じゃ、何もできないな……パイロット・チームの3人には悪いが、それぞれでセルフ・ケアを行ってくれ……カリーナ…運営推進本部からの返信は? 」



「……セカンド・レースミッションについては5分前に通達する、との事です……」



「……分かった……シエナ…自室で一服してくるからちょっと頼む……早く戻るようにはする……急な要件が来たら、端末に繋いでくれ……」



「…分かりました…」



「……時間は無いが、みんなもそれぞれに休んでくれ……すぐ戻る……」



 立ち上がりながらそう言って、自室に向かった。

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