第11話 5th(フィフス)ゲーム サード・チャレンジ・ミッション

 …4月4日(土)…09:25…


 副長席のシエナ・ミュラーが私の顔と自分のPADを交互に観ながら報告する。


「…艦長、出航完了しました…エンジン停止して取舵2°…微速0.6で前進中…第5戦闘距離の範囲内にパワーサイン無し…エネルギー反応もありません…ゲームフィールド・データをアップデート…セカンド・ゲームでのフィールドと比較しての表現ですが…ちょうど2倍です…」


「…そうか……このフィフス・ゲーム……チャレンジ・ミッションが発表される可能性が高い……暫く待ってみよう…」


「…アドルさん…課長昇進おめでとうございますって、何人に言われました? 」


 カウンセラー席のハンナ・ウェアーは、面白がるような口調だ。


「…4月に入ってからは数えてないよ……どこに行ったって言われるし、プレゼントもサインもセルフィーも断れないしさ……変なこと言って絡んで来る人は、何とかスルーしてストレスを溜めないようにはしてるんだけどね……」


「…保安部から日替わりで1人、アドルさんに付けましょうか? 」


 フィオナ・コアー保安部長は心配そうだ……訊かれて右手で顔を撫でる。


「…うん……マジでそうして貰おうかな……来週から、頼めるかい? 」


「…分かりました。ローテーションを組んで、日替わりで1人ずつ派遣して警護します…」


「…『ディファイアント』の保安部だけで大丈夫ですか? 『同盟』に参画する僚艦の保安部にも協力して貰えれば、もっと確実な警護ができると思いますが……」


 ハンナ・ウェアーが心配そうに言う。


「……『同盟』僚艦の司令部メンバーだって、そろそろ警護の対象としなきゃならなくなるだろう……人員を拠出して欲しいと言うニュアンスではなく、出来ればどうだろうと言った体で連絡だけしてくれ……艦司令部それぞれの決定は勿論尊重しているので、異議を挟むような事はないと申し添えてね……」


「…分かりました…」


 シエナ・ミュラーが応える。


「…保安部からの申し出には感謝します…取り敢えず1ヶ月間、頼みます……」


「…お任せ下さい…」


 ここで、カリーナ・ソリンスキーが報告する。


「…艦長、『運営推進本部』から全参加艦に向けて、通達が発せられました……受信記録完了……チャレンジ・ミッションが発表されました…」


「…分かった…読んでくれ…」


「…分かりました……読みます! お待ちかねの! レース・ミッションです!!  」


「…おお! やっと来たか! 良かったな!? エマ! ソフィー! ハンナ! 」


 パイロット・チームの3人…エマ・ラトナー……ソフィー・ヴァヴァサー……ハンナ・ハーパーは…歓声こそは上げなかったが、大きい動作でガッツポーズをキメた。


「…よし! カリーナ、参加表明を送信してくれ…シークレット・チャンネルを通じ、全僚艦に参加を通達…」


「…了解…」


「…どんな風に始まるのかな? 」


「…待って下さい……送信……終わりました……このミッションに参加する全艦には…ミッション参加艦としての、識別信号パターンが通達されます……受信したら即時に発信を開始し、入港申請を送信する直前まで発信を継続せよ、との事です……参加表明の受付はあと20分で終わりまして、即時にミッション・スタートです……スタートしたら、ファースト・レースのスタート・ポイントがランダム設定で配置されますので……ミッション参加艦は最寄りのスタート・ポイントに急行……2隻揃ったら、ゴール・ポイントが設定配置されます……スタートはゴール・ポイントの設定配置で10秒前です……コース取りはフリー・ハンドでOKです……とにかく先にゴール・ポイントを通過すれば、winnerウィナー! ですが、岩塊や相手艦と接触した場合…5%の減速を10秒間続けるのが、ルールです……相手艦や岩塊を攻撃するのは厳禁で、そのレースでは失格となります……未参加艦が参加艦を攻撃したり妨害したりした場合には、艦籍が剥奪されます……これはファースト・レースのルールです……セカンド・レースでは改変されます…以上です…」


「……甘いようにも観えるが…結構厳格なルールだね……パイロット・チームは、少し身体を解して…準備運動をしてくれ……全クルーはスタート10秒前で着席してベルトを着用……その前に用足しもしておいてくれ……リーア…スタート5秒前で全エンジンは、臨界パワー170%へ……エマ…噴射出力に制限は加えない……操艦は任せるが、接触だけはしないように頼む……コーヒーは控えてくれ……他にはあるかな? 」


 15秒の沈黙。


「…よし。用を足してくるから、ちょっと頼む…」


 降り立って直ぐにレストルームに入り、用を足して直ぐに戻った。


「…カリーナ、受付の締切までは? 」


「…12分です…」


「…まだあるな……ふふっ…レースだけに気が急くな……僚艦の状況は判るかな? 」


「…会議室のタイムラインには…既に26隻から、参加表明を送信したとの報告が上げられています……」


「…うん…まあ、今回は戦うミッションでもないから…心配する事もないだろう……センサーで他艦は感知しているかい? 」


「…はい、第5戦闘距離の50倍までの範囲内で、3隻を感知していますが…こちらに接近中の艦はありません……」


「…ミッションのスタートを待っているんだろう……識別信号のパターン・データは、スタートしてから通達されるのかな? 」


「…スタート直後ですね…」


「…分かった……パターン・データを受信したら、即時に識別信号のリピート発信を開始…」


「…分かりました…」


「…リーア、『ディファイアント』の全推進機関に於いて、バランスのチェックと微調整を頼む…」


「…了解…」


「…カリーナ…センサー・データを表示する際の解像度を、もう少し上げられるかな? 」


「…やってみます……」


「…頼む…」


「…シエナ副長…ハル参謀…ディフレクター・グリッドと兵装に廻しているパワーをカットして、全部エンジンに投入しようと思うんだけど、どうだろう? 」


「…何も攻撃しませんから、兵装へのパワーをカットすると言う事については…問題ないだろうと思いますが……」


 ハル・ハートリーがそこまで言った後を、シエナ・ミュラーが引き取った。


「…でも、岩塊デプリと衝突する事態は想定するべきですね……シールドが無ければ、多少なりとも被害を被りますが……」


「…艦体外殻の構造を維持する為に設定しているフォース・フィールドを、増幅・強化する事で……岩塊デプリと衝突した場合に被る被害を、かなり低減して抑え込めると思うんだ……私としてはイケると思うんだがね……」


「……分かりました…それでいきましょう…」


 シエナがそう応えると、ハルも頷く。


「…ありがとう……リーア機関部長…全兵装のパワー・ジェネレーターと、ディフレクター・グリッドへのパワー供給をカットして、総てエンジンに廻す……代わりにフォース・フィールド・ジェネレーターへのパワー供給を増やして…フィールドそのものも最大限に強化する……取り掛かってくれ……」


「……了解…掛かります……」


「…頼む…」


「……アドル艦長……間も無く締め切られます……」


 カリーナ・ソリンスキーが告げる。


「…よし! 始めよう! 総員、第一警戒配置! 着席してベルト着用! 」


 警報アラートは20秒で切られた。


「…今、締め切られました……識別信号のパターン・データを受信……反復発信リピート・コールを開始します……続いて、ファースト・レースのスタート・ポイントが配置されました…最寄りのポイントを表示します……」


「…エマ! そのポイントに向かってくれ……」


「…了解…」


「…2隻揃って、スタートだな? 」


「…そうです…」


「…分かった…」

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