第8話 説得…2…作戦開始
自律思考ミサイル本体が安置されている総合医療精密処置室で、ドクターがタッチパネルを操作しているが、上手くいかないようだ。
同じ操作を2回繰り返したが、いずれも不協和音と共にエラーの表示が出される。
悪態こそは
「…手を貸せ…」
「…何に? 」
「…岩塊に衝突した事による機能不全を確認したいのだが…まだメモリー・ファイルの1部が完全ではない…修理しろ…」
そう言い置いてドクターは、もと居たコンソール・パネルの前に戻る。
「…フン…助けるって言った時には断ったくせに…」
リーアはだいぶイラついているようだ。
「…敵に捕えられた場合には、相手と対話する機会を積極的に得た方が好い…」
「…『サンドラス・ガーデン』での経験ですか? 」
パティ・シャノンが訊いた。
「…ああ、そうだ…」
『特別解説…3…』
『サンドラス・ガーデンとは、主人公アドル・エルクがこのゲーム大会に参加する数年前まで、結構頻繁に参加していた3D体感サバイバル・アヴァターゲームで、当時彼が使っていたアヴァターは【魔法剣士シエン・ジン・グン】でした』
「…『あれ』に協力するなんて、敵に塩を贈るようなものじゃありませんか? 」
リーアは悔しそうだ。
「…対話する中で相手の考えを知り、続けながら考えを変えて貰えるように説得できるチャンスかも知れないだろう? 」
「…相手は爆弾なんですよ! 艦長…」
「…思考能力のあるね? 」
「…手を貸せと言っているのだ! 」
ドクターが少し離れた所で怒鳴る。
「…やれやれ…私とリーアとで行くよ…」
ふたりでドクターのもとに歩み寄る。
「…先ず、何を? 」
「…メモリー・インデックスに幾つかの破損箇所がある…岩塊に衝突する前…217秒間の記憶が復元できないのだ…」
「…再起サーチ・アルゴリズムで取り戻せると思うけど…」
リーアが自分でタッチパネルを操作する。
「…これね…この時点で長距離通信を受信しているわ…コースを変更して#惑星__わくせい__#に向かえ、となっているわね…」
「…君が岩塊デプリに衝突していたのは、どうやら偶然じゃないらしい…」
「…敵の#策略__さくりゃく__#に違いない…ターゲットを守ろうとしたのだ…」
「…あなたのアクセス・コードは暗号化されているのよ…そんな訳ないじゃない…」
「…敵が暗号を解析して、コードを特定したのかも知れない…」
「…敵じゃないとしたら? 」
私が訊いた。
「…他に誰がいると言うのだ? 」
「…ほら、このデュオトロニック・アルゴリズム・コードは、君が味方と交信する時に使っているものだよ…」
「…だからなぜ、味方が私を止めるのだ? 」
「…気が変わったのかも? 」
「…敵は凶暴で冷酷な種族で…我々にとっては脅威だ…なのになぜ、攻撃を中止させる必要がある? 」
「…もう少しメモリー・ファイルを探っていけば、総て解るさ…」
「…もう君らの助けは要らん…」
そう言い放ってドクターは歩き出すが、私とリーアは後を追って迫る。
「…どうしてよ! 敵の軍事施設を破壊できなくなるかも知れないから⁈ 」
「…続けさせてくれ。総てを明らかにしてから判断を下せばいい…」
「…まあ…良いだろう…」
改めてコンソール・パネルに歩み寄って前に立ち、私が操作した。
「…『戦略指令マトリクス』って名前に、心当たりはあるかい? 」
「…コントロール・センターだ…発射指令を受けた…」
「…その発射指令はどうやら、#撤回__てっかい__#されたようだね…」
「…なんだって? 」
「…観てご覧? 」
「…シリーズ5(ファイブ)長距離戦術機構ユニット…直ちに…総ての任務を中止せよ…」
「…続けて? 」
「…なに? 戦争は終わった…もう3年近くも前に終わっている…私の発射は間違い…コマンド・センサーが機能不全に陥り…発射準備指令が誤って発せられてしまったらしい…指令は程なくして撤回され…殆どのユニットに於ける発射準備は停止させられたが…36のユニットに於いては、停止措置が間に合わずに発射されてしまった…この私も含めて…」
「…そうと判れば、先ず起爆装置を解除しよう…」
「…断る…確認コードが入力されていない…敵がターゲットを回避させる為に騙しているのだ…」
「…確認コードは、損傷したメモリー・ファイルの中よ! 」
「…お前らの#仕業__しわざ__#だ! 平和主義を押し付ける為に私を騙しているのだ! 」
吐き捨てるように言い放ってその場を離れ、ミサイルに歩み寄るドクター。
「…そんな事、ある訳ないだろう! 」
ふたりとも、その後を追う。
「…#以前__まえ__#にも嘘を#吐いた__つ__#。どうして信じられる! 」
「…信じなくてもいいから、メモリー・ファイルにアクセスしてみなさい! 」
「…断る! 私はターゲットに到達して、破壊するようにプログラムされているのだ! 」
私達に向き直って、そう応えるドクター。
「…戦争が本当に終わっているとしたなら…このまま進めば、君がまた始める事になる…また君の味方が大勢殺されたり…傷付けられたりするんだぞ! 」
その時、艦体が大きく揺れて轟音が響いた…直ぐにドクターは、壁面パネルの前に立つ。
「…ブリッジ! 報告しろ! 」
シエナ・ミュラー副長が応える。
「…空間機雷2基と接触、爆発したので、スピードを落しました…周辺宙域をスキャンしたところ、かなりの数の空間機雷が#敷設__ふせつ__#されています…」
「…このコース上の#領域__りょういき__#に、空間機雷源は無い筈だ…」
それには、ハル・ハートリー参謀が応えた。
「…いいえ…この周辺の領域の中に、もう何万と仕掛けられています…」
更にシエナ副長が告げる。
「…それで、改めてコースを設定し直しました…」
「…新しいコースを転送し給え…」
そのコース・データを観て…
「…何? このコースを採って航行したのでは、2日も遅れてしまう! 」
そこですかさず、私が言う。
「…戦争が本当に終わっているのかどうか、確かめるチャンスだ…」
「…ダメだ! 計画は続行する。シールド・パワーを#増強__ぞうきょう__#する…これで『ディファイアント』を#防護__ぼうご__#できる筈だ! 」
ブリッジでシエナ副長が応える。
「…それでは、スピードを更に落す事になります…」
「…いいだろう…だが、機雷源を通り抜けるまでだ…」
また今度も映像は、医療室の側から切られた。
「…コースはこのまま維持して…エンジン・パワーは25%へ……これで騙せたかしらね? 」
ハル参謀を振り返ってシエナが問う。
「…そのようですね…」
「…エマ…念のために…あと2回揺動させて? 」
「…了解…」
大きく激しい揺動が『ディファイアント』を2回揺るがせる。
…医療室…
「…また機雷だ…」
「…シールドは保つはずだ…」
メンテナンス・チューブの中を進んでいた3人が、それぞれ割り当てられた位置に辿り着いた。
「…こちら、ジャニス…メンテナンス・ハッチ31…位置に着きました…」
「…同じく、アンです…メンテナンス・ハッチ35…準備OK…」
「…エミリアナです…ハッチ37…スタンバイ…」
…ブリッジ…
「…了解したわ…ヘザー、聴こえる? 負傷者の用意は? 」
…厨房…
「…今は火傷の仕上げをしています…自分で言うのも何ですけど…本物の火傷にしか観えません…」
…ブリッジ…
「…早速スタンバイして……それじゃあ機雷の爆発を受けるわよ…エマ…大きなやつね…ハル、第6デッキのプラズマ・リレーを吹き飛ばして…」
ひと際大きい揺動が『ディファイアント』の艦体を揺るがせた。
「…ブリッジから医療室…重傷者が発生しました…」
「…コース及び、速度を維持しろ…」
「…それは難しいですね…天体測定を担当しているスタッフが負傷しました…この機雷源の中で、艦のナビゲートを担当していたクルーです…」
「…交代させろ…」
「…ナターシャの能力は稀なんです…彼女無しでこの機雷源を抜ける事は出来ません…」
「…では、早く負傷個所を治療して、直ぐに持ち場に戻らせるのだ! 」
「…プラズマによる第3度の火傷を負っています…医療処置室の中でなければ、治療は出来ません…ターゲットに向かいたければ、少し時間を貰います…」
「……いいだろう副長…だが警告しておく…バカな事は考えるなよ…」
「…シエナからヘザー…行って! 」
ヘザーがナターシャに肩を貸して、医療室のインター・コールを鳴らす…ドクターがドアのロック・コードを解除するのと同時に、医療部内3ヶ所のメンテナンス・ハッチを内外からのオーバー・ライドで開き、3人が気付かれないように侵入する…私とヘザーとで、ナターシャをメディカル・ベッドに寝かせる。
「…できるだけ、短時間で治療しろ…」
そう言い置いてコンソール・パネルに戻ろうとするドクターに付いて行き、彼の右側に立った。
「…ちょっと…ここの…ふたつのファイルなんだけどさ…どう思う? 」
「…なんだね? 」
その瞬間、ジャニス・マニアがドクターの左腕を取り、アン・ピューシーがドクターの左#膝__ひざ__#裏を蹴ってバランスを崩させる…私がドクターの右腕を取って、エミリアナ・フィンレーがドクターの頭からヴァイザーを外そうとして手を掛けた。
エミリアナはヴァイザーに触れたのだが、何かのショックを受けたかのように後ろに弾け飛ぶ…ヘザーがドクターに飛び掛かって引き倒したのだが、ドクターはポケットからパワー・ストライダーを取り出して、その一撃でヘザーを悶絶させた…私もポケットから取り出したストライダーでドクターの胸を突こうとしたのだが、ドクターも同じストライダーでそれを受け止めて#鍔迫り__つばぜ_合いが続く中、ナターシャが前蹴りでドクターの腹を蹴ったのだが…ドクターは踏み留まった。
驚いた事にドクターは、その後リーアとパティが投げ付けた椅子を左腕1本で払い除け、アンとジャニスを後ろ蹴りで壁まで蹴り飛ばした。
私は刺し違える事も覚悟でかれの胸をストライダーで突いたのだが、同時に彼のストライダーも私の腹を突いたので、私はそのまま床に沈んだ…意識は有ったが30秒は呼吸が出来ずに立ち上がれなかった。
その間に彼は、彼女達全員をストライダーで突いて床に沈めてからミサイル本体の側に立ち、外面ボタンをある順番で押してシステムを起動させてから、コンソール・パネルの前に立った。
「…医療室からブリッジ…君達の反抗計画は失敗したようだ…私はいかなる生体ニューロ・マトリクスへの攻撃も撃退する! 」
「…こうするしか選択の余地を与えなかったからです…」
「…私にも選択の余地は無い…全員直ちに『ディファイアント』から退艦し給え…」
シエナ・ミュラーはキャプテン・シートから立ち上がった。
「…お断りします…」
「…これは交渉ではない! 従わなければ爆発させる! 」
「…どうぞ…やりなさい…」
「…クルーが死ぬ事になるんだぞ! 」
「…ターゲットにされている人々は助かります…」
ドクターは
その時、カリーナ・ソリンスキーが慌ててシエナに報告した。
「…副長! 32の超高速航行体が急速接近中! 突然センサー・レンジに飛び込みました…左後方からです…現在は急減速を掛けていて…どうやら、本艦とランデブーするつもりのようです…」
「…映して…」
メイン・ビューワに映し出されたのは、今医療室を#占拠__せんきょ_している思考ミサイルと同型の航行体だった。
「…全く同型のものね…」
瞬く間に32基の思考ミサイルは『ディファイアント』と速度を合わせて、ランデブーに入った。
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