第7話 作戦

 …『ディファイアント』…ブリッジ…


 現在は情報封鎖を掛けている。


「…フィオナ…保安部から3人を医療部内3ヶ所のメンテナンス・ハッチから侵入させてドクターを制圧すると同時に、もう一度ミサイル本体にE Mパルスを流し込んでショートさせると言うのはどうかしら? 」


 シェナ・ミュラーがフィオナ・コアーに提案した。


「…副長…第5デッキは#封鎖__ふうさ__#されています…メンテナンス・ハッチが開くかどうかも判りません…仮にオーバーライドさせようとしても、その時点でセンサーを持っているドクターに気付かれます…」


 カリーナ・ソリンスキーが副長を含む全員に状況を示した。


「…突入しての制圧を成功させるのなら、どうしても中にいるクルーの協力が必要になります…何らかの方法で、中の艦長達と連絡を執り合わなければなりません…」


 フィオナ・コアーが全員に問題と課題を提起した。


「…センサーに引っ掛からないで執れる連絡方法は? 」


 シエナ・ミュラーが問う。


「…あるよ、シエナ…会議室を使えば好い…『GFDSC 27』のタイムラインに新しく何かが書き込まれても、センサーは捉えない…タイムラインでの遣り取りで連絡し合えば好いのよ…」


 ハル・ハートリー参謀が打開策を示した。


「…でもハル…携帯端末のモニターを観ながら入力しているのを観られたら、気付かれるわよ…」


「…じゃあ、シエナ…最初の書き込みは、これだけにしよう…『コミュニケーション・ウィスパー』…これだけでもアドル艦長なら、解ってくれると思うよ…」


 ミーシャ・ハーレイ生活環境支援部長が言う…シエナ副長は彼女を観返した。


「…分かったわ、ミーシャ…このアプローチに賭けてみましょう…カリーナ、お願い…」


「…了解…」


「…それでもあとひとつ、ドクターの関心を引いて、彼の気を逸らせられる何かが欲しいわね…何が好いかな…」


 エレーナ・キーン参謀補佐が、バックアップについての注意を喚起する。


 するとシエナ副長が、何かを思い出したように顔を上げた。


「…カリーナ、『お客さん』の言ってた空間#機雷源__きらいげん__#を、長距離センサー・スキャン・サーチで調べて頂戴…そしてその機雷が至近距離で爆発した場合に、この『ディファイアント』が受けるであろう影響と#被__こうむ__#るであろう被害について、仮定で良いから想定して…」


「…何をするつもりなの? シエナ副長? 」


 エマ・ラトナーがメイン・パイロットシートに座ったままで振り向いた。


「…わざと、予想外のトラブルに捲き込まれる事にするのよ…」


「…E M パルスを流し込んでショートさせる作戦が失敗した場合の#善後策__ぜんごさく__#は? 」


 カウンセラーのハンナ・ウェアーが作戦の最終バックアップについて問う。


「…コンピューター・ウィルス『アイス・ナイン』をアップロードして、システムを止めましょう…それがこちらの切り札です…」


 エレーナ・キーンが後を引き取って応えた。


「…そろそろ出揃って来たわね…」


 シエナ・ミュラーが胸を張って、腰に手を当てた。


 …医療部…病理検査室…


 パティ・シャノンが気付いた。


「…アドル艦長、書き込まれました! 」


「…ああ、俺にも聴こえたよ…『Ok、スタンバイ』と入力してくれ…」


「…了解…」




    …同じ頃…『ディファイアント』を遠く離れた、ゲームフィールド上の虚空…


 あの思考ミサイルと同型の航行体が30数機…お互いそれ程離れずに航行している…その中の数機が『ディファイアント』の中の同型機を感知した。


 数秒後にその全基が、凄まじい急加速を掛けて全速発進し…『ディファイアント』を目指してコースを変えた。




…『ディファイアント』…副長控室…


 現在は情報封鎖を掛けている。


 カリーナ・ソリンスキーが立ったまま自分のPADを操作して、モニター上のデータをスクロールさせながら言う。


「…あのミサイルのA I が言っていた空間機雷を分析して、本艦の至近で爆発した場合での破壊力と本艦が被るであろう被害を想定しました…」


 エマ・ラトナーはソファーの真ん中に座って脚を組み、ソーダ水のグラスを置く。


「…爆発によるダメージを装う事も可能です…慣性制動機かんせいせいどうきにエラーを起こせば、同じ現象レベルでの#揺動__ようどう__#を引き起こせます…」


 シエナ・ミュラーは自分のデスクに着いて、顎を組んだ両手に乗せている。


「…ミサイルのA Iは、こちらのセンサーを使えるわ…バレずに騙し抜くには? 」


 右舷のセンサー・オペレーターであるカレン・ウェスコットが方法を提示する。


「…既にセンサー・アレイの1部に手を加えて、ゴースト・センサー・レンジを設定しました…ミサイルのA Iには『ディファイアント』が架空の空間機雷源に向かうコースを採っているように観せています…」


 続けてエマ・ラトナーも提示する。


「…何回か架空の機雷爆発により、被害を被ったように演出して…その結果、ナターシャを負傷の治療と称して、医療室に送り込みます…」


 シエナがエマに顔を向ける。


「…どんな負傷? 」


 生活環境支援部長のミーシャ・ハーレイが説明する。


「…機雷の爆発によって第6デッキのプラズマ・リレーが破壊された事により、プラズマ性第3度の火傷を負った事にします…」


 シエナはミーシャにも顔を向けて訊く。


「…火傷を#偽装__ぎそう__#できる? 」


 今度は副環境支援部長のヘザー・フィネッセーが応える。


「…私が火傷を創ります…」


 シエナが感心したように微笑む。


「…そう言えばヘザーは、女優デビューする#以前__まえ__#…評判の高いメイク・アップ・テクニシャンだったわね…」


 ハル・ハートリー参謀が後を引き取り、最終局面までを説明する。


「…ナターシャが医療室に入る直前までに、ジャニスとアンとエミリアナが…メンテナンス・ハッチ3ヶ所の、直ぐ外で待機…連続爆発による被害を装う中で、4人が医療室に入り…中の艦長達とも呼吸を合わせて、ドクターを制圧し…ヴァイザーを取り上げ、E Mパルスでミサイルをショートさせます…」


 それを聞いてシエナ副長が頷く。


「…分かったわ。この手順でいきましょう…カリーナ、この作戦手順でいきます…会議室のタイムラインに書き込んでちょうだい…」


「…分かりました…」


…20分後…医療部・生体病理検査室…


 パティ・シャノン観測室長はちょっと不安な様子だ。


「…アドル艦長…この作戦で大丈夫でしょうか? 」


「…なかなか良い作戦だと思うよ…リーアはどう思う? 」


「…私も良い作戦だと思います…偽の爆発とそれによる被害に気を取らせている間に…3人を上手く侵入させる事ができれば、ドクターの不意を突く事は充分に可能でしょう…」


「…よし…4人全員で、パワー・ストライダーを隠し持とう…偽の連鎖爆発が続く中で、ナターシャが負傷者として医療室に入ったら…私はドクターの近くに行くから、3人はそれぞれのメンテナンス・ハッチの近くに着く…外側からのオーバー・ライドでもハッチが開かなかったら、内側からもストライダーでオーバー・ライドさせてハッチを開き…3人を中に入れてドクターを制圧し、E Mパルスをミサイルの本体に流し込む…それで終わりだ…好いな? 」


「…了解…」


「…E M パルスは、ロリーナが流し込んでくれ…」


「…分かりました…」



『特別解説補足』


 パワー・ストライダーとは、パワーを内蔵した工具です。通電の切れたハッチ・ドア・隔壁・ケースを無理矢理に開く為の物です。艦のスタッフ・クルーはマニュアルを読み込んでいますので、各種工具についても熟知しています。

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