第6話 説得

「…2人でドクターを抑えている間に、もう一度E M パルスを流し込んでミサイルをショートさせたら? 」


 リーア・ミスタンテが立ったまま腕を組んで訊く…ここはドクターの居る医療処置室から一部屋を置いた研究室だ。


「…その前に彼の頭からヴァイザーを外して取り上げる必要があるね…もうリモートで本体にアクセス出来るようにしている筈だろう…それに今の彼にはヴァイザーに転送されたセンサーで、ここに居る俺達の様子が判る…あと2人…メンテナンス・チューブから処置室に入って来てくれれば…『彼』の注意を分散させられるだろうね…」


 私は研究室のデスクに着いて応えた。


「…でも傍受されますから、誰とも通話できません…」


 ロリーナ・マッケニットが言う。


「…会議室『GFDSC27』のタイムラインに新しく書き込まれても、センサーには掛からない…シエナがそれで連絡をくれる事を期待しよう…えっと…コミュニケーション・ウィスパーがあったかな? 探してくれ…」


 


  ここで『特別解説…2…』です。


 主人公アドル・エルクの発案で【『ディファイアント』共闘同盟】結成直後に、一般外部ネットワークの中で運用する専用会議室をふたつと、その後に、外部ネットワークと接続出来ないゲームフィールドの中で運用する専用会議室もふたつ設定・設置しました。

それが艦長とスタッフのみをメンバーとして運用する、外部ネットワーク会議室『DSC24』と、一般クルーも含んで運用する外部ネットワーク会議室『トゥルーダイス』です。


またゲーム内ネットワークの中だけで運用する専用会議室『GFDSC24』と、『GFトゥルーダイス』もその後、ゲーム大会開幕と同時に設定・設置しました。

 それでは、再開します。




 4人であちこちを探し回り、4個のコミュニケーション・ウィスパーを集めた。


「…よし…これを会議室のタイムラインと同期して、書き込みがあったら即時に読み上げるようにセットアップ…耳に装着しておこう…」


「…他にもっとアクティブな作戦案は無いんですか? 」


 リーア・ミスタンテは少し焦っているようだ。


「…第5デッキは封鎖されてる…正直、メンテナンス・ハッチが開くかどうかも分からない…全く…チャレンジ・ミッションだからって、喋る爆弾を乗艦させてりゃ世話はないね…」


 ちょっと自嘲気味に言ってしまったが、するとリーアが目の前に立った。


「…アドルさん…2年前でしたが、私は他に2人の女優と一緒に配信ドラマの撮影で…洞窟の中に隠れて追っ手を遣り過ごすと言う設定で、セットに入っていました…すると待機中でしたが、ちょっとした落石から落盤が起こって…生き埋めにはなりませんでしたが、2日間閉じ込められました…」


「…それで、どうしたの? 」


「…素手で掘って這い出ました…」


 そこまで聞くと、ひとつ頷いて歩き出す。


「…どうするんですか? 」


「…素手で掘って這い出すんだ…ドクターのリラックス・ドリンクって何だか知ってるかい? 」


「…確か…レモンティーでした…」


 思い出しながら、パティ・シャノンが応える。


「…分かった。ありがとう…」


 処置室に入って右のドリンク・ディスペンサーに少し温めのレモンティーを出させ、ソーサーに乗せて持って行き、タッチパネルを操作している『彼』の前に置いた。


「…ひと息ついて、お茶でもどうだい? 君の知能の本体はあのミサイルだけど、意識を支配して喋らせているのは生きている人間だからね…飲まず食わずにはさせるなよ…」


「…この生体の感覚は、私にフィードバックされている…空腹感が大きくなれば、それに応じて対応もする…どの道、それ程に長い時間ではない…」


 そう応えるとカップを取り上げてふた口飲んだ…温めにしておいて良かったな…所作も様になっている。


「…しかし…結局自爆する為に存在しているとはね…せっかくの知能…自分の意識…自分の思考で、話す事も出来る…勿体無いじゃないか…バカな真似は辞めた方が良いよ…」


「…こうするようにプログラムされているのだ…」


「…君は自分の意識の中で、自分の思考を展開させる事ができる…自分を破壊させるプログラムに、自らを預ける必要はない…君が今意識を支配しているその人は『ディファイアント』の医療部長、アーレン・ダール医師だ…彼は君を救助して艦内に収容し、治療する事を主張した…君が大量破壊兵器だと判明した時、直ぐに放出して破壊しようと言う者もいたが…ドクターがその者達を説得して君を守ったんだ…彼がいなければ、君はまだあの岩塊デプリに突き刺さったままだろう…」


「…何が言いたい? 」


「…君の知能…意識…思考形態は、誰の手に依るものなのかは知らないが…とても高度で#緻密__ちみつ__#に、#精緻__せいち__#に構築されている…とてもじゃないが、ミサイルの制御#中枢__ちゅうすう__#にしては高度過ぎるものだ…立派なひとつの高度な知的個性と言って、何ら#憚る__はばか__#ものではない…それに今はドクターの肉体を介してではあっても…目で見て、耳で聞いて、話せて、何処へでも歩いて行ける…それが自ら起爆する事で、総て消えてしまうんだぞ! 」


「…そうなる運命なのだ…」


「…そんな事はない…僕達で君専用の3Dホログラム・マトリクスを用意しよう…君の要望に沿うよう、身体パラメーターを調整する…それに君の知能、意識、思考形態、心理動向パターンの総てをダウンロードする…ホログラム・エミッターのある所なら、いや…モバイル・エミッターを付ければ、何処へでも自由に行けるようになる…エネルギーの続く限り、いつまでも存在できるし…君が望む事は、何でも叶えられるんだ…」


「…私の望みは、指定されたターゲットを目指し、到達して破壊する事だ…」


「…ターゲットって? 」


「…サリニア・プライムの軍事施設だ…グリッド11…ベクター9341…」


「…君の敵は…どんな奴らだ? 」


「…#冷酷__れいこく__#で#凶暴__きょうぼう__#で、我々の種族を滅ぼそうとしている…」


「…他に、知っている事は? どんな#惑星__ほし__#に住んでいるんだ? 森はあるのか? 野生動物は? 彼らの子供達が通う学校は? 」


「…余計な情報は入力されていない…」


「…ちょうど良い…せっかく『ディファイアント』に来たんだ…長距離センサーとスキャナーを併用して、君のターゲットについてもっとよく調べてみよう…ゲームフィールドの中でなら…艦のスキャン・サーチシステムを使えば、判らない事はないよ…」


 研究室の壁面タッチパネルに指先を走らせ、スキャン・サーチして得られたデータを分析させて、モニターに表示させる。


「…やはり、軍事施設だ…言った通りだろう? 」


「…だが、人もいる…」


「…殆どが兵士、戦闘員だし…他は後方支援と指揮階級の者達だ…」


「…君が到達して起爆すれば、殆どが死ぬだろうし…死を#免れ__まぬが__#れても、重度に負傷するだろう…デプリに突き刺さっていた君のように、感覚は#遮断__しゃだん__#され…身体も#麻痺__まひ__#して全く動かせなくなる…本当にそんな想いをさせたいのか? 」


「…私には前提優先して守れと指定された種族…つまり、私を創造した種族だが…彼らを守ると言う使命がある…さあ、もう出て行ってくれ…でないと何をするか、判らんぞ…」


 今回のアプローチは、タイム・オーバーとなったようだ…無表情で#踵__きびす__#を#反して__かえ__#、その場を離れた。


「…ナイス・トライでした、アドルさん…」


 リーアの慰めに、少し心が軽くなった。

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