第3話 狙われた飼い主
「ガレアッ!!」
ルシアンの叫び声が、遠く水底から響くように鼓膜を震わせた。
その刹那、ガレアの背筋に鋭い痛みが走った。
「ぎッ……!?」
ジェイドの短剣。毒を塗られた刃が、アキレス腱を狙ってガレアのふくらはぎを切り裂いたのだ。
だが、その痛みは奇妙なほど遠かった。
『
「あらァ? 倒れないわね。この毒、象でも即死するはずなんだけど」
霧の中で、ジェイドが驚きの声を上げる。
倒れない。倒れられない。股間を覆う鉄枷が、暴走寸前の陰核を強烈な振動で責め立てていたからだ。
「ん、あぁっ! ぁぁぁ……ッ!」
内股が痙攣する。鉄板の内側はすでに愛液で決壊し、グジュグジュと卑猥な音を立てていた。溢れ出た蜜が逃げ場を失い、太腿を伝ってブーツの中へと垂れていく感覚が鮮明にわかる。
熱い。痒い。埋めたい。今すぐこの鉄屑を引きちぎり、誰でもいい、硬い何かをこの渇いた孔にねじ込みたい――!
「ヒハハ! すごい顔! 完全にラットに入ってるじゃん!」
ルビーが手を叩いて喜ぶ。
ガレアの視界は歪み、目の前のジェイドが、抱きつくべき雄に見えてくる錯乱状態にあった。
「……ま、ずい……」
斧を取り落としそうになる。このままでは、敵の前で四つん這いになり、尻を振って交尾をねだるだけの雌豚に成り下がる。最強のアルファとしての誇りが、本能の濁流に飲み込まれていく。
「ねえジェイド。このデカ女、頑丈すぎて壊すのに時間がかかりそうよ」
「そうねェ。毒も効きが悪いし、飽きてきちゃった」
双子の気配が移動した。ガレアから離れ、リングの端へ。その先には――ハンカチで口元を押さえ、必死にガスに耐えているルシアンがいる。
「じゃあ、飼い主の方を壊しましょ」
ルビーが、金網越しにルシアンへと歩み寄った。彼女は踊り子の衣装をはだけさせ、濃厚なアルファのフェロモンを、直接ルシアンへと浴びせかける。
「ねえ、そこのお兄さん。あんな鉄臭い筋肉ダルマより、あたしの方が気持ちいいわよ?」
「くっ……寄るな……ッ!」
ルシアンが後ずさる。だが、ルビーは指の間に仕込んだ毒針を煌めかせ、彼の喉元へと手を伸ばした。
「あたしとヤリながら死ねるなんて、幸せでしょ?」
その光景が、ガレアの網膜に焼き付いた瞬間、彼女の心臓が冷たく重い音を立てた。脳内を埋め尽くしていたピンク色の霞が、一瞬にして赤黒い殺意へと塗り替えられる。
「……それは」
ガレアの喉から、地響きのような唸り声が漏れた。
股間の疼き? 知るか。発情? どうでもいい。
「それは、俺の、モノだ……ッ!!」
所有欲。性欲よりも遥かに根源的で、凶暴な本能。嫉妬の炎が、薬物による麻痺を焼き尽くした。
「ガ、アアアアアアッ!!」
咆哮とともに、ガレアは地面を蹴った。切り裂かれたアキレス腱が悲鳴を上げ、筋肉繊維が断裂する音が体内で響く。
だが、そんな些細な故障など無視だ。ガレアは巨大な戦斧を振り上げ、暴風のごとく霧を切り裂いて突進した。
「えッ!? こいつ、動けるの!?」
背後から迫る殺気に気づいたジェイドが、慌てて割って入ろうとする。彼女は軟体動物のような柔軟性で斧を避け、カウンターでガレアの眼球を狙っていた。
「無駄だッ!!」
ガレアは止まらない。避けるジェイドの動きなど想定済みだった。
振り下ろした斧を地面に叩きつけるのではなく、そのまま強引に横薙ぎに切り返した――わけではない。彼女は斧を手放した。
そして、目の前を飛び回る羽虫を、素手で捕らえる。
「は……?」
ジェイドは驚愕に目を見開く。彼女の柔軟な身体は、打撃を吸収し、関節技を無効化する特異体質だ。
だが、それは格闘ではなかった。
「捕まえた」
巨大な掌が、ジェイドの頭と胴体を鷲掴みにした。
「い、いやぁッ!? 離せ、ぬるぬるして抜け出せ……がはッ!?」
「ぬるぬる? ……俺の股間の方が、もっと濡れているぞ」
ガレアは鼻から荒い呼気を噴き出しながら、ジェイドの身体を石柱へと叩きつけた。一度ではない。何度も、何度も。そして──。
そのまま押し付け、全力で体重をかけた。
「ぎ、ぎゃあああッ!?」
軟体といえど、プレス機には勝てない。彼女の背骨が石柱と筋肉の鎧に挟まれ、限界を超えた角度に曲がる。
逃げようとする彼女の身体を、ガレアはさらに股間の鉄枷を押し付けるようにして固定した。
「あぁ……いい振動だ……!」
鉄枷は最大出力で振動している。
その硬質で無慈悲な鉄の塊を、ジェイドの柔らかな腹部にねじ込むように押し付ける。
ゴリゴリ、と彼女の肋骨が鉄枷に削られ、砕けていく感触が、陰核に直接伝わってくる。
「あ、が……お腹、潰れ……ッ!」
「いい声で鳴くじゃないか。だが、ルシアンを狙った罪は重いぞ」
ガレアはトドメとばかりに、膝蹴りを突き上げた。鉄の膝当てが、ジェイドの顔面を捉えると、彼女は濡れた雑巾が落ちるように崩れ落ちた。
「お、お姉ちゃん!?」
ルシアンを襲おうとしていたルビーが、悲鳴を上げて振り返る。その隙を、飼い主が見逃すはずがなかった。
「……よそ見をしている余裕があるのか?」
ルシアンが、隠し持っていた
「きゃあッ!?」
ルビーが倒れるのと同時に、闘技場を覆っていた霧が晴れていく。
勝負あり。
ガレアは荒い息を吐きながら、ルシアンの元へと歩み寄った。足を引きずりながら。股間からは大量の愛液を垂れ流しながら。
観客たちから見た彼女は、さながら発情したまま血に濡れた怪物のようだった。
「ル、シアン……無事、か……?」
金網越しに彼を見下ろす目はまだ充血しており、理性と獣性の境界を彷徨っていた。今すぐ彼を金網ごと引き裂いて、その身体を犯したいという衝動が渦巻いている。
ルシアンはハンカチで口を拭うと、金網の隙間から手を伸ばし、彼女の汗ばんだ頬に触れた。
「ああ、無事だ。……よく耐えたな、ガレア」
「ん……ぅ……」
彼の手の冷たさに、ガレアの沸騰した脳が少しだけ冷える。
「褒美だ。帰ったら、少しだけ強めに電流を流してやる。その濡れきった頭を冷やすのには丁度いいだろう?」
サディスティックな笑みを浮かべる彼を見て、ガレアの背筋が震える。
「……はい、マスター。楽しみに、している」
ガレアは蕩けた表情で、彼の手に頬擦りをした。足元のジェイドがピクリとも動かなくなったリングの上で、二人は歪な愛を確認し合っていた。
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