第1話 整備不良の股座
「あだッ!? 痛い、痛いぞルシアン! 肉が、俺の柔肌が挟まっている!」
闘技場の地下深くに位置する選手控室。
カビと鉄錆の匂いが充満するその薄暗い一室に、似つかわしくない情けない悲鳴が響き渡った。
声の主は、ガレア。鍛え上げられたオークの巨木のような四肢に、無数の古傷を刻んだ女戦士だ。
戦場では「北方の災厄」と恐れられ、身の丈を超える
ボロ布のようなベッドの上で、丸太のように太い両足をM字に開脚し、涙目で小刻みに震えているのだ。
「じっとしてろ、ガレア。昨日の祝勝会で暴れるから、ヒンジが歪んだんだ。このままだと試合中に誤作動して、最大電圧が直撃するぞ」
彼女の股間に顔を寄せ、冷静にペンチを動かしているのは、パートナーのルシアンだった。没落した貴族の末裔である彼は、線の細い優男であり、この肉体派の世界では吹き飛ばされそうなほど儚げなオメガだ。
だが、その手つきは熟練の時計職人のように精密だった。
彼が整備しているのは、ガレアの秘部を覆う無骨な鋼鉄の下穿き――『
通称、「
「うぅ……それ、嫌いだ。ブルブル震えて、さっきからずっと先っぽをいじめてくるんだ……。いいトコで止まるし、濡れると吸引されるし……」
ガレアは頬を紅潮させ、ルシアンの肩を掴んでぐらぐらと揺すった。
鋼鉄の装甲の内側には、アルファの強力な性衝動を管理するための陰湿なギミックが満載されている。
先端に棘のついた回転子が、ガレアの肥大した陰核を執拗に転がし、愛液が漏れれば即座に吸引機構が吸い尽くす。
「それが目的だ。お前のその莫大なアルファフェロモンを焦らし、逃げ場のないストレスを全て
ルシアンは表情一つ変えず、ガレアの太腿の内側にある調整ネジをドライバーで回した。
ギリギリ、と金属が擦れる音が響く。
「ひぐっ!?」
「よし、圧着完了。センサー感度正常。これで誤作動はない」
ルシアンが最後のロックを掛けると、ガレアは安堵の息を吐き、そのまま巨大な身体でルシアンに覆いかぶさるように抱きついた。
「んん~っ! ルシアン、ルシアン! ルシアンの匂いだ、いい匂いだ……!」
ガレアはルシアンの首筋に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。オメガ特有の甘く芳しいフェロモン。本来なら理性を飛ばす劇薬だが、ガレアにとっては唯一の精神安定剤だった。
「重いぞガレア。窒息する」
「なあ、今日の予選が終わったら、中和剤なしでキスさせてくれ。舌を入れたい。お前の口の中を、俺の味でいっぱいにしたいんだ」
ガレアは駄犬のように尻を振り、ルシアンの頬を舐めようとする。だが、ルシアンは持っていたスパナで、ガレアの額を軽く叩いて制した。
「駄目だ」
「むぅ……ケチ」
「我慢しろ。俺たちの目的は何だ?」
「……優勝して、賞金の
「そうだ。その鍵を手に入れるまでは、お前のその場所は『封印』だ。俺以外の誰にも、そしてお前自身にすら触らせない」
ルシアンは立ち上がり、壁に掛けてあった極太の鉄鎖を手に取った。その鎖の端は、ガレアの首輪に繋がっている。
「行くぞ、ガレア。予選の時間だ」
「……ああ、わかったよ、マスター」
ガレアが起き上がる。その瞬間、彼女が座っていた木製ベッドが盛大な音を立てて崩壊した。鋼鉄の貞操帯の重量と、彼女自身の筋肉の質量に耐えきれなかったのだ。
「あ」
「……賞金から引いておくからな」
「す、すまん!」
巨体の女戦士は小さく縮こまりながら、ルシアンに鎖を引かれて歩き出す。傍から見れば奴隷の拘束に見えるその鎖を、ガレアは愛おしそうに指で撫でた。
彼女にとって、この不自由な鉄の重みこそが、愛する男と
◇
闘技場へのゲートが開くと、そこはすでに腐肉と歓声の混じった熱気で満たされていた。
予選ブロックD。ルールは単純なバトルロイヤルだ。
「ヒャハハハ! おい見ろよ、女だ! デカいアルファと、美味そうなオメガのセットだぜ!」
対戦相手となるのは、帝国の地下牢から引きずり出されてきた囚人兵たちだった。彼らは魔獣の細胞を移植された成れ損ないであり、半身が鱗に覆われたり、腕が肥大化したりと、異形の姿を晒している。その数、およそ十名。
濁った瞳が、ルシアンの細い身体をねっとりと舐め回す。
「へへ、あのオメガのガキ、手足をもいで犯してやるよ」
「デカ女はその後だ。あの鉄パンツをひん剥いて、中身を拝んでやらぁ!」
下卑た嘲笑が飛び交う。だが、ルシアンは退屈そうに手元の懐中時計を確認し、隣の巨塔を見上げた。
「ガレア」
「ん、なんだ?」
「夕食まで時間がない。
「了解、マスター。……ちょうど、身体が疼いて仕方なかったところだ」
ガレアが一歩前に出る。首の鎖が鳴ると同時に、彼女の全身から放たれる気配が変わった。先ほどまでの駄犬の空気は消え失せ、そこには純粋な暴力の塊が鎮座していた。
「オイオイ、武器なしかよ? ナメやがっ――」
囚人の一人が飛び掛かる。だが、その爪がガレアに届くことはなかった。
ガレアの裏拳が、囚人の顔面を捉えたのだ。ただの殴打ではない。その巨躯の重みに加え、装着した鋼鉄の鎧と貞操帯の重量が乗った、鉄塊の一撃。
囚人の首が不自然な方向にねじれ、ボールのように吹き飛んで壁にシミを作った。
「な……ッ!?」
「次」
ガレアが低い声で告げると、囚人たちが一斉に襲いかかる。剣が、爪が、牙がガレアの肌を狙う。しかし、彼女は避けない。分厚い筋肉と、要所を覆う鉄の装甲が、半端な攻撃をすべて弾き返す。
「うおおおおッ!!」
ガレアは咆哮と共に、二人の男の頭を鷲掴みにし、激突させた。スイカが割れるような音が響く。
血の雨が降り注ぐ中、ガレアの瞳孔が開いていく。
(ああ……いい。この匂いだ。鉄と、血と、恐怖の匂い……!)
オメガバースにおけるアルファにとって、闘争と性交は極めて近い回路にある。敵を蹂躙する高揚感が、ガレアの脳内で快楽物質へと変換されていく。
股座で、回転子が唸りを上げ始めた。生体反応に合わせて回転数が上げる。
「あ、はぁ、んッ……! もっと、もっと壊させろ……!」
ガレアの呼吸が荒くなる。頬が紅潮し、内股が濡れ始める。
目の前の敵が「獲物」から「
(犯したい。目の前の肉を、引き裂いて、ねじ込みたいッ!)
ガレアが、半死半生の囚人の顔面にまたがり、その腰をグラインドさせようとした、その時だ。
「……ハッスルしすぎだ、馬鹿犬」
後方で腕を組んで見ていたルシアンが、ため息交じりに手元のボタンを押した。
「ひぎィッ!?」
ガレアの口から、猛獣にあるまじき間の抜けた悲鳴が漏れた。股間の鉄枷の内部電極から、高圧電流が陰核を直撃したのだ。
「あ、あう、あうあう……ッ!!」
腰が勝手に跳ねる。ガレアは白目を剥きかけながら、電流のショックで強制的に肉体が「硬直」した。だが、そこは歴戦の戦士。彼女はそれすら利用した。
「ぐ、うぅぅぅ――んっ!」
ガレアは電流でピンと伸びた脚を軸にして、そのまま自身の体重全てを預けた
「ぎゃあああああ!?」
肉と鉄による膨大な質量と、鋼鉄製貞操帯の硬度が、男の肋骨と内臓を物理的に粉砕した。
電流が止まる。
ガレアは太腿を痙攣させながら、血の海に座り込んだ。
周囲を見渡せば、動いている敵はもういない。
「しょ、勝者! 鉄錆の枷!!」
呆気に取られていた審判がコールする。
ルシアンは懐中時計をパチンと閉じ、倒れているガレアの元へと歩み寄った。
「よくやった。だが、最後のは美しくないな」
「うぅ……ルシアンの意地悪……。あんなタイミングで電気流すなんて……お漏らししそうになったぞ……」
ガレアは涙目で抗議するが、その頬は戦いの興奮と、与えられた罰の余韻で桃色に染まっていた。
ルシアンは屈み込み、汚れたガレアの顔をハンカチで拭ってやる。
「暴走して失格になるよりマシだろ? ほら、立て。帰ったら掃除だ。鉄枷の隙間に肉片が詰まってるぞ」
「……はい、マスター」
最強の女アルファは、よろよろと立ち上がると、大人しく鎖を引かれて退場ゲートへと向かう。
観客席からは「化け物だ」「あんなのとやれるのかよ」という畏怖の声が上がっていたが、今のガレアには、主人の背中しか見えていなかった。
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