第4話 つくれるもの

冷蔵庫の前から動けない。


作れるものが浮かぶ。

ゆで卵。目玉焼き。オムレツ。

手順も時間も分かっている。失敗もしない。

コンロで調理するのは簡単だ。

それなのに、鍋を出すところまで行かない。フライパンに手が伸びない。


ゆで卵。

小さなヒビを入れるのが上手にゆでるコツだ。

ヒビが大きすぎると中身が飛び出す。

白身はつるりとして、黄身は半熟でも完熟でも美味しい。

最初の一口は、舌触りがいいだろう。

でも、二口目、三口目で終わる。

殻と一緒に、食べたという感覚もすぐに消える。


目玉焼き。

縁が少しだけ焦げて、白身が静かに固まる。

焼き目がついたころに小さじ半分くらい水を入れて蓋をする。

火を止めて余熱でゆっくり黄身に熱をまわす。

黄身は箸を入れた瞬間に、とろりと流れる。確実においしい。


オムレツ。

焦がさないように作るにはコツがいる。

油は少し多め。砂糖と少しだけ塩を入れて溶き卵を作る。

油をひいて熱したフライパン全体に広がるようゆっくり注ぐ。

卵が固まり始めたら火を止める。すぐに濡れた布巾に乗せる。

フライパンの粗熱を取るのだ。

余熱だけで十分、ふわふわになる。

皿に乗せるとき半分に折れば完成。

最初の一口が一番いい。


どれも、おいしくなる。

問題は、その先だ。


それだけ食べても、空腹は満たされない。

また冷蔵庫の前に戻ってきて中を覗き込み、

白い光をもう一度見るところまで、簡単に想像できる。


分かっている。

その分かっている感じが、気持ちを重くする。


麦茶を飲む。

喉が潤う。でも、腹の奥が、かえってはっきり騒ぎ出す。


冷蔵庫の中を見る。

卵がある。

割ればいい。

それは分かる。でも、その先の未来が続かない。

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