第9章 核の真実
水滴は、動かなかった。
触れれば歪み、覗けば未来を映すはずのそれは、ただ石畳の上で震えている。
まるで、何かを待っているように。
テンが一歩前に出た。
「……ラドゥームを完全に消し去るには、条件がある」
誰も口を挟まなかった。
ここまで来て、覚悟だけは全員が共有していた。
「ラドゥームは“未来そのもの”じゃない。
未来が循環し、自己保存を始めた中枢……核がある」
カルラが眉をひそめる。
「頭じゃなかった、ってのは……」
テンは、短く頷いた。
「違う場所。
存在を生み続ける、最も原始的で、最も愚かな部分」
言葉を選んでいるようで、選んでいない言い方だった。
セジュが、静かに続ける。
「……影だ」
空気が、一瞬止まった。
冗談のようで、誰も疑わなかった。
むしろ、妙に納得がいった。
「いつでも身を隠せる暗い部分、
未来が未来であり続けるための、最下層の核」
テンが言葉を引き継ぐ。
「そこを断たなければ、ラドゥームは何度でも“形を変えて”戻る」
その瞬間、低い笑い声が町に広がった。
「――正解だ」
影が、再び立ち上がる。
首を失ったはずの悪魔の輪郭が、影から再構築されていく。
醜悪で、滑稽で、目を背けたくなる姿。
ラドゥームは、愉快そうに語り始めた。
「リンとレヴォだけだ。
そこに気づいていたのは」
影が、二人の名を踏みにじるように響かせる。
「だが、あいつらは話さなかった。
危険すぎたからな。
核を破壊してしまえば、この町も滅んでゆくからだ」
レヴォの影が、水滴の中で揺れた。
「だから二人は選んだ。
誰にも告げず、自分だけで核を粉砕する道を」
ラドゥームは、肩をすくめる。
「だから俺が殺したんだ。
余計な手間が増える前にな」
怒りは、不思議と湧かなかった。
代わりに、重たい理解が胸に沈んだ。
リンの沈黙。
レヴォの否定。
すべてが、守るための嘘だった。
テンが、歯を食いしばる。
「……それでも」
セジュが、剣を握り直す。
「それでも、俺たちは知った」
ラドゥームは、楽しそうに両腕を広げた。
「さあ、選べ。
核を壊せば、俺は消える。
だが――この町の物語も失われる」
雨の降らない町に、沈黙が落ちる。
選択は、
もう避けられなかった。
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