第6章 戦いの始まり
最初に襲ってきたのは、音だった。
地面を擦るような、不規則な足音。
複数――いや、数えきれない。
部屋の外から現れた黒い物体は、人の形をしていた。
だが顔は曖昧で、影を無理やり固めたような輪郭しか持っていない。
「……ラドゥームの配下だ」
テンの声が低く響く。
「倒しても終わらない。
でも、前に進むためにはー」
考える暇はなかった。
「来るぞ!」
カルラが叫び、最前列に飛び出す。
剣が振るわれ、影が裂けた。
――否。
裂けたはずの影は、悲鳴も上げず、黒い雨となって地面に落ち、瞬時に染み込んで消えた。
「っ、気味悪い!」
だが次の瞬間、背後から別の影が迫る。
僕は反射的に剣を振るった。
手応えはない。
それでも、斬られた影は形を失い、また雨になる。
「倒せてる……?」
「消えてるだけ」
レヴォが叫ぶ。
「本体じゃない!
あくまで“現象”だ!」
ユメが後ずさりながら、震える声で言う。
「ねえ……数、増えてない?」
その言葉通りだった。
倒すほどに、町のあちこちから影が滲み出してくる。
まるで、町そのものが敵になったかのように。
「……視える」
その時、リンが前に出た。
彼女の目は、はっきりと何かを捉えている。
「影の奥……全部、一本の流れに繋がってる」
「流れ?」
「糸みたいなもの。
全部、同じ場所に引き寄せられてる」
リンは、遠くを指差した。
町の中心――かつて水滴が落ちていた場所。
「……ラドゥームは、そこにいる」
その瞬間だった。
背後で、肉を裂く音。
「リン!!」
叫ぶ暇もなかった。
リンの体が、前のめりに崩れる。
胸元から、赤い何かが滲んだ。
時間が、止まった。
リンの心臓を貫いていたのは――
影ではなく、黒い腕だった。
振り返ったリンの視線の先に、立っていたのは。
「……おしゃべりが過ぎましたね?」
笑いながら赤く染まった腕をリンから抜き取る。
震える声で、テンは言う。
「……あいつ、ラドゥームの一部だよ」
誰も、動けなかった。
ラドゥームは、微かに笑った。
「……やっぱり、あなたか」
リンは最後の力で、指先を動かす。
空に、歪みが刻まれた。
「場所は……もう、分かる」
その言葉を残して、
リンの体から、力が抜けた。
影が、一斉に動きを止める。
そして――
町の中心から、視線を感じた。
見られている。
はっきりと、こちらを。
それが、
ラドゥームの本体だった。
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