第5章 取り戻す決意
テンの言葉は、誰もが触れないまま残していた傷を一気に抉った。
「……生きてる、って」
カルラが、低い声で繰り返す。
否定も肯定もできない声音だった。
テンは頷いた。
「正確には、“生かされている”。ラドゥームの傍でね」
その名を聞いた瞬間、リンが初めて反応した。
強張っていた指先が、ゆっくりと動く。
「……あれは」
掠れた声だった。
今まで何も口にしなかった喉から、無理やり絞り出したような。
「未来……この町の、なれの果て」
レヴォが即座に首を振る。
「ありえない。町が意思を持つ? 未来が悪魔になる?
そんなのは――」
「――理屈では否定できる」
テンが静かに遮った。
「でも、起きる。
この町は選ばれてる。何度も、何度も」
重たい沈黙が落ちた。
テンは続ける。
「ラドゥームは、滅びる町の“結果”から生まれる存在。
そしてセジュは、それを理解した」
僕は、胸の奥が冷えていくのを感じていた。
「だから……セジュは」
「うん。
あなたたちを守るために、ついて行った」
リンから歯を食いしばる音がした。
「……私、止めたかった」
初めて、感情が滲んだ声だった。
「でも、あの人はもう決めてた。
誰かが行かなきゃいけないなら、自分が行くって」
カルラが剣を掴む。
「だったら、迎えに行くまでだろ」
その言葉に、全員が顔を上げた。
「一人で背負わせて終わりなんて、ありえない」
ユメが、不安そうに笑う。
「……夢じゃ、ないんだよね」
僕は答えなかった。
代わりに、剣を手に取った。
理由は一つしかなかった。
「セジュは、生きてる」
それだけで、十分だった。
テンは僕たちを見回し、最後に言った。
「決めたなら、早いほうがいい。
ラドゥームは、もう動き始めてる」
その瞬間、部屋の外で、空気が歪んだ。
影が、増えていく。
人の形をした、黒い“何か”が。
テンが呟く。
「……来る」
僕は仲間たちを見た。
リンは立ち上がり、
カルラは剣を構え、
レヴォはまだ迷いながらも、一歩前に出た。
そして、僕たちは口を揃えて言った。
「セジュを取り戻すぞ」
その瞬間、
雨の降らない町に、戦いの気配が満ちた。
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