第2話「女子の部屋」
そのまま階段を数段上がり、
シオリはふいに足を止めて振り向いた。
「ほら、いこ!」
少し先で呼び止められ、
ソラは一瞬だけ間を置いてから、
「お、おう……」
と応じる。
そう言いながら階段を上がろうとし、
後ろにいるハルへ声をかけた。
「いこうぜ」
「うん」
ハルは短く頷き、
そのままソラの背中に続く。
二人は先を行くシオリの後ろを追い、
さらに階段を上っていく。
やがて、
すぐ脇に扉のある最上段が見えてきた。
そこへ辿り着くと、
シオリはくるりと振り返り、
「ここが私の家!」
と、明るく告げる。
そう言ってガチャッと丸いドアノブを回し、
二人へと身を引いた。
「どうぞ!」
「おじゃましまーす」
ソラが先にそう言いながら中へ入り、
ハルもそれに倣い、同じように続いた。
中へ足を踏み入れると、すぐ奥に視界が開けた。
部屋の中央にはテーブルが置かれ、それを囲むように大きめのL字型ソファが据えられている。
さらにその周囲には、一人用のソファとスツールのようなものも、いくつか配置されていた。
左手側には簡易的なキッチンのような設備があり、その奥には、楽器や機材が並ぶ音楽スペースらしき空間が広がっている。
部屋全体はどこか統一感があり、整っているのに堅苦しさはない。
まるで秘密基地のような、不思議と胸が高鳴る空間だった。
すると、ハルが小さく息を吸い、静かに言った。
「なんかすごい、いい匂いがする……」
それにソラも頷きながら、
「そうだな。女子の部屋って、そういうもんなのか?」
と、半ば感心したように呟く。
その直後、最後にシオリが中へ入り、
ガチャッ、と背後でドアが閉められた。
「ほらほら、いいから早く入って!玄関狭いんだから!」
シオリが急かすようにそう言うと、
玄関に溜まっていた空気が一気に動いた。
二人は一瞬顔を見合わせ、
それから慌てた様子で靴に手を伸ばし、
急いで脱ぐと、そのまま奥へと入っていく。
ぱたぱたと遠ざかる足音を背に、
シオリは玄関に残されたままの靴へと視線を落とした。
左右も揃わず、向きもばらばらな靴。
それを見て、シオリは思わず、ふうとため息をつく。
「さすが男の子」
少し呆れたようにそう言いながら、
しゃがみ込み、無造作に脱がれた靴を一足ずつ整えていく。
指先で位置を揃え、向きを正すと、
ようやく玄関に人の家らしい秩序が戻った。
それを確認してから、シオリも奥へと足を踏み入れる。
部屋に入った瞬間、先ほどまでの空気を切り替えるように、
明るい調子で声をかけた。
「2人とも、何か食べる?」
その問いかけに、
ソラとハルはすぐに反応できず、
自然と互いの顔を見合わせる。
意味が分からない、というように、
二人そろってキョトンと首を傾げた。
少しの間のあと、
ソラが戸惑いを含んだ声で口を開く。
「何って......今の時代管理栄養食以外の選択肢なんてないしな......」
その言葉を受けて、
シオリは一瞬だけ動きを止める。
「えっ」
思わず漏れた反応。
だがすぐに視線を逸らし、
「あー......」
と短く声を出す。
次の瞬間、何かを思いついたように、
その口元がゆっくりと緩んだ。
そしてそのまま、続けて言う。
「じゃあ知らないんだ!――焼きそばの味を!」
唐突な言葉に、
ソラ達は再び首を傾げる。
「焼きそば?」
その反応を背中で受け止めながら、
シオリは迷いなくキッチンのようなところへ歩いていく。
棚に掛けられていたエプロンを手に取り、
慣れた手つきで身につけると、
振り返って、はっきりと言った。
「いいよ。作ってあげる!美味しすぎて男の子でも涙するシオリの焼きそばを!」
その言葉が終わるや否や、
「うぉぉぉお!」
と、ソラとハルは揃って声を上げる。
さっきまでの戸惑いは消え、
期待だけが前に出た反応だった。
それを横目に、
シオリは早速料理に取り掛かる。
手を動かしながら、
まるで当たり前のことのように言った。
「2人はゲームして待ってて」
その母を思わせるような言葉に、
ハルは思わず手元に視線を落とし、
驚いたように声を上げる。
「え......どうして僕らの持つこれが、ゲームだって分かったの?」
そう言われると、
シオリは動きを止め、
「ん?」
と首を傾げる素振りを見せる。
そして、特別なことでもないように言った。
「わかるよ、だって私も似たようなの持ってるもん」
その一言に、
「えっ」
と、二人は驚気のあまり声に出す。
その反応を聞き、
シオリは続けて言った。
「私のはテレビに繋ぐタイプだけどね」
帝国少女と反逆のタイムパラドックス 朝霧 露 @tsuyu_asagiri
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