第3話


 これが? 想像と違うな……いや、ドット絵じゃないじゃん! とか言うつもりはないが……。見た目がまきのだからなのか、威厳はまったくなかった。


 よりにもよってまきのの容姿で出てくるとはな……ゲーム嫌いだぞ? いや、さっきの様子だとちょっとは好きになってくれたかもしれないがな。


「覚えていませんか? このゲームを、あなたは徹夜で解いたはずでしょう?」


 ゲームの神が、パソコンの画面に指を触れさせた。

 とぷん、と水面が揺れるような現象と同時に、パソコンが起動する。


 一瞬で、デスクトップ画面にすらいかずにゲームが起動された――おれのHDDに保存されている数千のゲーム(大作からインディーズ、ほんとに極小の同人ゲームまでが詰まっている)の中からひとつのゲームが選ばれた。


 ……あ、それ……。

 それは、叔父さんから貰った同人ゲームだった。去年のこと……確かに、おれはこのゲームにはまって徹夜までしてクリアした。全、一万問のパズルゲーム――


 そう言えばクリアしたことも叔父さんにまだ報告していなかった。すっかりと忘れていたな……。


「このゲームなんですが……よくクリアできましたね」


 ゲームの内容はシンプルだ。空欄に合った数字を埋めていくことで対応したヒントが出てくるようになっている。

 ナン◯レ、ピク◯ス系統と思ってくれたら分かりやすいか。そのヒントを踏まえ、膨大な空欄の中に数字や文字をはめ込むことで、答えが出てくるのだ……これでステージクリアとなる。


 脱出ゲームのような雰囲気も味わえるゲームだった。


 シンプルゆえに、熱中してしまう魅力がある。


「クリアはできるだろ。だってゲームなんだから……」


「できませんよ。だってリアルタイムで私が問題を操作しているのですから。あなたの手の打ち方で、問題文が書き換わっていく仕組みです。あなたが右へいくなら答えは左に向かうように――そのはずだったのですが……しかし、あなたはクリアした」


 神とは言え、すごいことを言ってるな。

 ゲームでありながらクリアさせる気が一切ないなんて……卑怯だ。


 炎上案件だぜ?


「あなたは神に、根気で上回ったんです。さらには私の改変速度よりも早く問題を解いていった……そして、報酬のメッセージがあなたに届いたはずですが……」


「メッセージ?」


 おれの様子を見て、あ、こいつ見てないな、と無表情ながら呆れた様子の神が手を伸ばす。

 再びパソコン画面に触れると――――メッセージが浮かび上がってくる。



 ――世界滅亡のスイッチが押されました。



 ……だった。



「ゲームクリアをしたあなたは認められました。次のゲームへ、ご案内いたしましょう。この神が、渾身以上の最高傑作として作り上げたゲームです」


 神がここまで言うなんて……、


「興味あるな……。ゲームなら、不正がなければ解けないものはないんだしな」

「解けないゲームはありますよ」


「あんたの改変か? だがそれでもおれは解いたはずだぞ。矛盾してるな、神サマ」

「…………」


「詰んでいても手がないわけじゃないんだ。正規ルートが塞がっているならバグを使う――そういうクリアの仕方だってあるんだ」


「なるほど。神の私でも学ぶことがまだまだ多いみたいですね。――相沢楽人。では、これはあなたへの挑戦状です」


 無表情だった神だが、今、一瞬だけ、よく分かるほどに微笑んでいた。


「あなたのHDDの中身を見せてもらいました。色々と買っているみたいですね……あなたの年齢だと買えないゲームもちらほらありましたけど……」


「問題ない、譲ってもらったもんだ」


「…………構いませんが。あなたが所有するゲームを見て、私は学んだのです……、私の最高傑作がさらにアップデートされることでしょう……。次のゲームをお楽しみにしていてください」


「AIみたいなことするじゃん……ゲームがゲームを見て吸収し成長していくって? しっちゃかめっちゃかにならないことを祈るけどな……。いいぜ、やってやる。こっちは割かし有名なゲーム配信者なんだ、相手がゲームなら逃げねえよ」


 神が関わっているなら配信できなさそうなのが痛いが、これは金のためじゃなく、プライド――よりも、ゲーム少年としての興味が多い。

 目の前にゲームがあるならまずはやるだろ? それがゲーム好きの行動なのだ。


 ……神か……、このおれにゲームで挑むなら、いいぜ、戦ってやる。

 たとえ相手が神であろうと、ゲームであるなら、おれにも勝ち目があるだろう。


 実際、去年の夏休みは神のゲームに勝っているわけだしな。


「――あなたが負ければ世界は滅亡します。よろしいですね?」


「おう、いい――えっ、は? 待て、滅亡!? なんで……??」


「モチベーションです。追い詰められた人間は構造以上の力を発揮する……と、私は知っていますよ。神なのですから」


「待てまて!! そんな気楽に世界の命運をおれに握らせられても――」


「ほお、負けるのが怖いのですね」


 売り言葉に買い言葉だった。

 分かりやすい挑発だったが、おれはついつい、勢いで言ってしまっていた。


「誰が怖いだと!? だったらやってやる!! 世界の命運でもなんでも、おれがその命綱を握っておいてやるよぉ!!」


「そうですか。では、そういうことで。……楽しみですね。現実世界でのゲーム体験。コントローラーを握るだけではない、全身を使ったリアルゲームをあなたに提供しましょう――」


「…………ん? どういう……?」


「画面の前でコントローラーをぽちぽちするだけの一周目はクリアしたでしょう? だから今度は、実際に、ゲームの世界へ入ったように――――

 。あなたはコントローラーを握りません。なぜならあなたは既に、世界の命運を握っているのですから」


「上手くはねえぞ」


「あなたはその意志と体で、ゲームをクリアしてください」


「……分かったが、ちょっと待て」

「今更、勝負を降りることも約束を反故にすることもできませんが」


「現実世界に、ゲームを……。――つまりさ、転がってくるタルを飛び越えてビルの上までいくゲームがあったとして……、それが現実で再現されるってことなのか? おれがっ、実際にビルの上でタルを飛び越えていくって……!?」


「端的に言えばそういうことになります。まあ、やり方はひとつではありませんが。そのゲームはそれしかできませんが、今のあなたはなんでもできるでしょう? タルを飛び越える? いえ、空の上からパラシュートで降下すれば頂上に辿り着けるでしょう?」


 と、神はアドバイスらしきことを言っていたが、おれはそれよりも、たとえ神のお膳立てだとしても、ゲームの中のキャラと出会えることに興奮していた。


 マジで? 出てくんの!?


「ドン◯ーコングがビルの上に出てくんの!?」


「ドン◯ーコングとは限りませんが。見た目がそっくりなだけの、ただのゴリラの可能性だってあることを忘れないでください」



 ――冷静になってみれば。


 おいおいおい――こっちは運動音痴のインドアゲーマーなんだぞ!? なのに、現実世界でマリ◯みたいにぴょんぴょん跳ねて動けって言うのか?


 勝ち目がねえだろ……じゃあ、おれのせいで世界滅亡の――ゲームオーバー……か?

 世界って、こんなことで終わるんだな……。


「プレイヤーはあなたに限りません」

「ん?」


「ゲームへの参加者はあなただけに限らないです。誰でも参加できるようにはしていますよ……たとえば、この方が参加しようとも構いません」


 と、神が言うこの方とは……つまり”まきの”だ。

 目の前で、神が自分の体を指し示す。


 まきの……、じっと見ていると、はてなを浮かべて首を傾げるのは、おれの妄想だな。


 見えてくるのはプールで泳ぎの練習をしている真剣な表情のまきのの姿だ。なんでこんな姿が今……、もちろん、その時のまきのが一番魅力的だったし、刺激的だったからよく覚えているのだ……鮮明に。脳裏に焼き付いてしまっている。


 競泳水着で強調される女性的なシルエット。程よく筋肉があり、引き締まったスタイル。水に濡れた長い黒髪は、まるであいつが人魚じゃないかと錯覚させられる。


 絶対本人には言えないが、美人なんだよな……って、今はそうじゃない。


 まきのはおれとは違ってアウトドアタイプの人間だ。家でゲームなんかするわけがなく、水泳でなければ山登り、ロードバイクなど、体力には自信がある。

 あいつはおれと比べなくとも、一般的に見ても健康体だ。

 健康だからこそ、魅力が見た目に出ているのだろうなと思う。


 ――つまり、まきのは助っ人としては主力になる。


 本当に、ゲームの要素が現実世界にやってくるのだとするならば。

 ……まきのはゲームが下手だが、それはコントローラーを握った時だけだ。実際に体を動かすことになれば、今回のゲームはまきのにとって得意科目になるかもしれない。


 おれの頭脳とまきのの体力があれば、いけるか……?


 でも、それはあいつを巻き込むことになる――――そんなの、さ、



「楽、ごめんっ、スマホ忘れて――」


「え、まきの!?」


「うん、まきのだけどなにその驚き――え?」


「では、相沢楽人、稲成まきの――次のゲームをお楽しみに」



 と、神はそれだけ言って、ふっと姿を消した。


 ……このタイミングで。


 厄介な問題だけ残していきやがって……!





 … つづく

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