第9章:冬の放課後

冬の冷たい空気が校舎の廊下を吹き抜ける。窓ガラスには霜が薄く張り付いており、太陽の光に反射して白く輝いていた。高橋遼はコートの襟を少し立てながら、放課後の図書室へ向かう。心の中は少し落ち着かない。美咲と過ごす時間のことを思い返しながら、一歩一歩を踏みしめる。


「今日も…会えるかな」

小さくつぶやき、遼は胸の高鳴りを感じる。


図書室の扉を開けると、室内の暖かさと静けさにほっとする。美咲はすでに席に座り、ノートを開いて何かを書き込んでいた。ペンの走る音だけが響く。遼は自然に隣の席に座り、ノートと参考書を並べる。


「遼くん、来た?」

美咲が顔を上げ、少し笑顔を見せる。その微笑みに、遼は思わず心が温かくなる。


「うん、来たよ」

少し照れながら答える遼。今日もまた、静かな図書室で二人だけの時間が始まる。


鉛筆の音、ページをめくる音、互いの呼吸のリズム。寒さのせいか肩を少しすぼめながらも、二人は自然とお互いの存在を意識する。沈黙の中にも、心の交流は確かに流れていた。


「ねえ、遼くん、この問題、ちょっと難しいんだけど…」

美咲が小さな声で質問する。遼は視線をノートに向けながら、説明を始める。


「こうやって考えると、分かりやすいんだ」

指を動かして説明するたび、視線が自然に美咲に向かう。彼女は頷きながらメモを取るが、時折こちらを見上げ、微笑む。その視線に遼の胸は少しずつ高鳴る。


外の風が窓を揺らし、落ち葉がカサカサと音を立てる。教室や図書室の静寂は、二人の距離をさらに際立たせる。言葉は少なくとも、互いの存在は十分に伝わるのだ。


「遼くん…今日は一緒にいてくれて、嬉しい」

美咲の小さな声に、遼は胸が熱くなる。言葉だけでなく、表情や沈黙の間、手元の動きすべてが互いを意識させる。


「僕も…同じ気持ちだよ」

遼は自然に微笑みを返す。冬の寒さの中でも、二人の心は確かに温かかった。


作業の合間、ふとした拍子に手が机の上で触れそうになる。お互いにわずかに驚きつつも、視線を交わし、微笑み合う。その瞬間、言葉以上の想いが二人の間を流れる。


外はすっかり夕闇に包まれ、窓から差し込む光もほとんどなくなる。だが、図書室の暖かさと、二人の心の温もりが、冬の放課後を特別な時間に変えていた。


「遼くん…また、明日も一緒に勉強しようね」

美咲の声に、遼は小さくうなずく。


「うん、もちろん」

二人の間に柔らかい笑みが交わされ、互いの存在を確かめる。寒さの中でも、心の中は温かく満たされていた。


帰り道、夕闇の校庭を歩きながら、遼は心の中でそっとつぶやく。


『冬の放課後も、君といると温かい――これからもずっと一緒に』


小さな勇気と互いを思いやる気持ちが、二人の青春を、静かに、しかし確実に育んでいった。

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