第8章:初めての一緒の帰り道
文化祭の準備を終えた夕方、校舎から差し込む光はオレンジ色に染まり、外の空気は冷たさを帯びていた。高橋遼は美咲と一緒に教室を出る。
放課後の校庭には、遠くで遊ぶ子どもたちの声がかすかに響く。落ち葉が風に揺れ、カサカサと乾いた音を立てる。遼は自然と美咲の隣を歩くことになり、心臓が少し早く打つのを感じた。
「遼くん、今日はありがとう。準備、楽しかったね」
美咲の声は温かく、でも少し照れた響きが混ざっている。
「うん…僕も楽しかったよ」
遼は微笑み返す。言葉は少ないが、互いの存在を意識しながら歩く時間は、言葉以上に特別だった。
街路樹に差し込む夕陽の光が、二人の影を長く伸ばす。風が頬を撫で、冷たい空気が胸を軽く締め付ける。遼は、思わず手をポケットに入れ、呼吸を整える。心臓の高鳴りを抑えつつも、隣にいる美咲の存在に自然と安心感を覚える。
「ねえ、遼くん…」
美咲がふと小さな声で呼ぶ。
「うん?」
「一緒に帰るの、初めてだね」
彼女の言葉に、遼の胸はさらに高鳴る。普段なら何気ない帰り道も、今は特別な瞬間に変わっていた。
「そうだね…でも、こうやって一緒に帰るの、悪くないな」
遼は自然に微笑む。少し照れくさくも、心地よい。
歩きながら、二人は軽く会話を交わす。文化祭の思い出や、作業中の失敗談、笑い合った瞬間のこと。会話の合間に、ふと互いの顔を見ると、視線が重なる。その瞬間、微かな緊張と胸の高鳴りが、空気の中で温かい波となる。
「遼くん、手、冷たくない?」
美咲が小さく笑う。風に揺れる髪の毛を気にしながら、ポケットに手を入れる遼を見ている。
「少し冷たいけど、大丈夫」
遼は手を温めながら答える。内心では、彼女のことを気遣う気持ちが自然に湧き上がる。
通りの街灯が灯り始め、夕闇に少しずつ包まれる街並み。二人の影が並んで歩き、落ち葉のカサカサという音が二人の足音に重なる。沈黙の時間も、不自然さはない。ただ互いの存在を感じながら歩く、静かで心地よい時間が流れる。
「遼くん…今日、一緒に帰ってよかった」
美咲の小さな声に、遼は思わず微笑む。
「僕も…本当にそう思う」
視線を合わせ、微笑みを交わす。言葉少なくても、互いの気持ちは確かに伝わる。初めての一緒の帰り道は、ただ歩くだけの時間ではなく、互いの心をゆっくりと近づける特別な時間になったのだ。
帰り道の最後、駅前の交差点で信号が赤に変わる。二人は立ち止まり、少し距離を縮めて互いの存在を確認する。夕陽が沈み、街の灯が二人を柔らかく照らす。
「じゃあ、また明日ね」
美咲が小さく手を振る。
「うん、また明日」
遼も手を振り返す。その手の動きに、互いの温かさと安心感が確かに残った。
冷たい冬の風の中、初めての一緒の帰り道は、互いの心に温かい余韻を残した。
遼は胸の奥でそっとつぶやく。
『美咲といると、どんな日常も特別になるんだな』
歩き去る二人の影が、夕闇に溶ける中、静かで温かい青春の一コマが刻まれた。
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