第7章:文化祭の準備
秋の風が校庭を吹き抜け、校舎の窓から柔らかな光が差し込む。文化祭前の放課後、教室や図書室はいつもより活気にあふれていた。高橋遼は、今日も佐藤美咲と一緒に、準備のための資料や装飾を整えていた。
「遼くん、この飾り、どうやって吊るすのがいいかな?」
美咲が少し首をかしげながら、色とりどりの紙を手に持つ。
遼は彼女の持つ紙を見て、少し考える。「うーん、ここに紐でつるすと見やすいと思うんだ」
ペンを使って簡単な図を描きながら説明する。その手元に、微かな緊張と楽しさが混ざる。隣に座る美咲がじっと見つめる視線を意識せずにはいられなかった。
「なるほど…ありがとう、遼くん」
微笑む美咲の声に、遼は胸の奥がじんわり温かくなる。
二人は作業を進めながら、自然と会話を重ねる。紙を折る音、ハサミの小さな切れる音、テープの粘着音――放課後の教室に響く日常の音が、二人の時間を心地よく彩る。
「ねえ、遼くん、もっとこうしたほうがいいかな?」
美咲が少し困った顔で尋ねる。遼はその顔を見て、思わず微笑む。「そうだね、ここを少し角度変えるともっと綺麗に見えるかも」
その瞬間、二人の距離が自然と近づく。肩が触れそうなほどの距離に、遼の胸が少し高鳴る。だが、美咲も何も言わず、自然に笑みを返してくれる。緊張と安心感が入り混じった感覚が、彼にとって心地よかった。
作業の合間、二人はふと手を止めて互いを見つめる。言葉はなくとも、笑顔や視線のやり取りで互いの気持ちが伝わる。文化祭準備という共同作業が、ただの作業ではなく、二人の絆を強める時間になっていた。
「遼くん、このコーナー、ちょっと手伝ってくれる?」
美咲が小さな声で呼ぶ。遼はすぐに駆け寄り、彼女の手元をサポートする。二人の手が軽く触れる瞬間、心臓が跳ねる。互いに気まずくなることもなく、自然に笑い合える距離感がそこにあった。
夕方が近づき、教室の中に差し込む光は柔らかく、二人の影を机の上に長く落とす。作業の進捗を確認しながら、遼は心の中で思う。
『こうして一緒に過ごす時間が、僕にとって一番大切なんだ』
美咲もまた、微笑みながら心の中で同じことを思っていた。互いの存在が、日常の中で少しずつ特別なものになっていく――その確かな実感が、二人を優しく包み込んでいた。
作業がひと段落すると、二人は教室の窓から外を眺める。夕陽に染まる校庭、秋風に揺れる木々。文化祭の日が近づく喜びと少しの緊張感が、心を穏やかに揺らす。
「遼くん、これからも一緒に頑張ろうね」
美咲の声は柔らかく、でも真剣だった。
「うん…もちろん」
遼は小さくうなずき、微笑みを返す。短い言葉でも、互いの気持ちは確かに伝わっている。
放課後の教室で過ごす、何気ないけれど特別な時間――それが、二人の距離を確実に縮め、文化祭という大きなイベントへの準備だけでなく、心の準備も整えていった。
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