主(ぬし)

シバカズ

第1話 メッセージの主

 あるじは、その家や店の所有者である。ぬしとは、それに加えて、声の主など、ある行為をした事柄の主人公などを指す。また古くから、その場を支配している者を◯◯の主と呼んだりする……。


 メッセージとは、伝言や声明であり、また、それらを送り届ける人のことをメッセンジャーという。

 一之瀬広一イチノセコウイチの通う学校には、奇人変人が多い。つまりはそれだけ天才という素質や才能が集まっていると言ってもいいかもしれない。

 馬鹿と天才は紙一重という言葉があるように、この学校には、一風変わった着眼点を持つ者たちがいた。

 かくいう広一も心霊や超常現象というオカルト系が大好物で、入学早々にオカルト研究会に入会した。

 この時の広一は、まさか自分が研究会会長を辞任させるとは夢にも思わなかった。

 広一には、どうしても研究したい分野があるのだが、偶然にも、この研究会の会長を務める寄町要一ヨリマチヨウイチが同一の研究を行なっており、一通りまとまった研究資料が書棚に蓄積していた。

 細胞の活性化、脳のバックアップ、死という概念の消失。一言でいえば、広一の研究したい分野とは不老不死であった。

 殊更ことさら、会長である要一の研究は佳境に入っているということで、広一含む会員たちも興味津々なのだが、要一は研究経過を他者に漏らすことはなかった。

 よって不老不死、正確には会長の不死という結果は、突然会員たちの目の前に提示された。

 それは物理的にでもあり、心理的にでもある、姿なき形として……。

 まず、最初の報告は、寄町要一が死亡したという心理的なものであった。

 その後、一之瀬広一が見せられたものは、要一の除籍謄本じょせきとうほん除籍抄本じょせきしょうほんの写しで、間違いなく寄町要一が死亡したことを示す決定的なものであった。

 落ち込む会員たちだが、ふと気になり、会長のパソコンを立ち上げた広一の目に、あるものが映った。

 それは『メッセージ』と書かれたファイルで、会長が死後の為に残した遺書のようにも見えた。

 広一は怖々ファイルを開くと、中身は白紙であった。

 白紙のメッセージに呆れた広一は、皮肉を込めたメッセージを打ち込んだ。

『不老不死じゃないのですか?』と。

 するとその文章は改行され、新たな文面が勝手に表示された。

『僕は不老不死にはなれなかったが、不死の身体を手に入れた』と。

 会員たちが会長のパソコンを検証した結果、会長は現実世界では死亡したが、電脳世界で生きていることが証明された。

 検証といっても、全て会長のパソコンに書き込まれるメッセージが説明してくれたのだが……。

 会長が在学中に行なっていた不死の研究は、主に脳内意識をバックアップし、電脳世界に転送できないか、という突拍子もない発想からきていた。

 100年で肉体が滅んでも、意識さえ永続して保てる環境にあれば、人間は不死の肉体を得たのも同義であるという。

 会長のパソコンに意見を打ち込めば、電脳の会長がそれに応えてくれる。

 まさに姿なき形を持つ命とのやり取りに、会員たちは自らの命を絶って研究成果を挙げるとは、流石は会長と賛辞を呈した。

 しかし、広一は要一からのメッセージに違和感を覚えた。

 会長のパソコンには、直近の出来事から、食べた物まで送られてきていた。

 肉体を持たない要一が、学内で起こったことを把握し、まして食べ物を必要とするなど、馬鹿げている。

 ——広一は慎重に姿なき者の捜索に移った。

 会長のパソコンに送られてくるメッセージ元を探り、校内に発信元のサーバーがあることを突き止めた。

 海外のサーバーを経由していたら特定は困難であったが、メッセージの主はダイレクトにこの学内のパソコンルームから、会長のパソコンにメッセージを発信している。

 広一は研究会の活動時間に、会長のパソコンから難読長文を送り、急いでパソコンルームに駆け込んだ。

 すると案の定、先ほど送った広一からの長文を熟読している要一がいた。

 彼は死んでおらず、不死の身体を手に入れたと他の会員が知ったら、どんな反応が画面を通じて返ってくるのか知りたかったという。

 自分が死んだと見せかけておいて、死者からのメッセージを送るという、オカルト研究会らしい陳腐ちんぷな発想だったが、その後、寄町要一が研究会に復帰することはなかった。


            メッセージの主 完


第2話 ゴーストの主へ続く……


 

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