第2話 ピンクの髪は勇者の印

 プリムは初代勇者の直系子孫である。

 それはピンク色の髪が証明している。

 初代勇者は髪と瞳がピンクだったと記録されている。

 プリムの瞳は赤だが直系である事には変わらない。


「ふんっ!ふんっ!僕は真の勇者になるんだっ!」


 プリムは今現在、校舎裏にて日課の素振りをしていた。


「プリムは真面目だね〜。そんなんしなくてもきっと勇者に成れるって〜」


 プリムの鍛錬を見物してるクラスメイトが適当な声援を送っている。


「称号としての勇者じゃなくてっ!ふんっ!真の勇者っ!だっ!てばっ!とぉおっ!」


 プリムは会話を続けながらも素振りを続ける。

 ブンブンと轟音が鳴り響き風が舞い踊る。

 彼女が振るうのは木剣ではない。

 真剣でもない。

 鉄塊だ。

 持ち手こそ剣の柄であるが、刀身に当たる部分にウェイトとして鉄の塊が存在している。

 何百キロ有るのか、質量だけでも成人男性一人分よりも大きい。

 そのまま鈍器として使えそうな凶悪な訓練用アイテムである。


「プリムでも抜けなかったんでしょう?だいじょーぶだいじょーぶ。聖剣抜ける人なんて現れないって〜」

「それっ!入学っ!したっ!時だからっ!ねっ!ふんっ!絶っっっっっ対っ!抜いてやるんだからっ!」


 勇者学園入学者は、希望すれば聖剣を抜けるか試せる。

 記念でやってみる生徒も居れば、本気で挑む者も居る。

 そしてプリムもその一人だった。

 彼女の聖剣への想いは強く、重い。

 寝物語で御先祖様の物語を聞かされ育った。

 幼い頃より勇者記念館にも通い、聖剣に熱い視線を送り続けた。


「いつかぼくがぬいてあげるねっ!」


 きっとあの聖剣は初代勇者の真の後継者を待っている。

 自分を待っている。

 そう信じて疑わなかった。

 何故なら自分は初代勇者の直系子孫だから。

 肖像画や絵本だとデザインがコロコロ変わるものの、ピンクの髪と目は共通だ。

 家系図だって有る。

 プリムも解っている。

 今の実家は落ち目である。

 没落はしてはいない。

 貴族としては成功している。

 初代勇者直系と云うブランドを活かし、人脈を広げ商人の様に手広く様々な分野で貢献し活躍している。

 しかし、勇者と呼ばれる様な傑物は輩出していない。

 称号として勇者と呼ばれる者達は過去に多く居たが、彼等も聖剣は抜けなかった。

 きっと名ばかりの偽者だったからだろう。


「僕がっ!二代目勇者にっ!なってっ!やるっ!」


 そう、プリムも結局は抜けなかった。

 今よりステータスが低かったとは云え、掛け値無しのフルパワーで挑んでも無理だった。

 身体強化を全開にして、鼻血が噴き出し腕の筋肉が断裂して千切れても、聖剣はびくともしなかった。


「はぁ〜頑張ってね〜」


 クラスメイトは近くの木に寄り掛かり、スマホを開く。

 そしてメールボックスやニュースを見る。

 暇潰しだ。

 本当はゲームとかをしたいが、彼女が持つのは学園から支給された物である。

 動画視聴にも制限が掛かり、位置情報も特定されてしまう不自由な代物だ。

 しかし個人でスマホを買える程のお小遣いは無い。

 何か面白い話題は無いかとタプタプとスマホを弄る。

 そんな彼女が少し目を見開きプリムに話し掛ける。


「ねぇプリム〜」

「なっ!にっ!」


 鉄塊を今度は片手で振り回しながらプリムが応える。


「聖剣抜けたって〜」

「あっ!そっ!」


 そのまま暫く鉄塊を振っていたプリムだったが⋯


「は?」


 ズズゥゥゥン⋯と地響きを上げて鉄塊を取り落とした。

 ちなみに落としたのは足の爪先だったが、彼女は邪魔臭そうに鉄塊を蹴り転がす。


「あ?もう一度言って?」

「うわぁプリム?目が怖い顔が怖い」


 クラスメイトはドン引きしながら自分のスマホを見せる。

 それは確かに聖剣が抜ける瞬間の衝撃映像だった。

 角度的に顔は見えない。

 だが若い男がよろけ聖剣の柄を握った直後、倒れ込む男と一緒に聖剣が傾き、そのまま台座を破壊して姿を現した。

 とてもちゃんと抜いたとは言えない様な、なんとも締りのない映像である。

 此れは団体旅行の女生徒の一人が撮った動画が流出したものである。

 聖剣抜剣、二代目勇者誕生は王国史に於ける歴史的大ニュースである。

 勇者記念館スタッフから王国へ、王国から勇者学園へ。

 事実確認と箝口令が敷かれ王国首脳陣は右往左往している。

 本来なら学生全員のスマホを取り上げ写真と動画をチェックし削除せねばならなかった。

 だが失敗した。

 此の動画拡散により、王国は、勇者学園はレイヴンを二代目勇者として擁立せざるを得なくなる。

 生まれ育った田舎で平々凡々な教師生活を送っていた青年の、波乱万丈な人生の幕開けであった。


「顔が⋯」

「顔が怖いよぉ?プリム?」

「顔が見えない」


 スマホを振ったり顔を近付けても聖剣を抜いた男の顔が良く見えない。


「ちょっとちょっとヤメテ。スマホ壊れるから」


 プリムが握るスマホがミシミシと音を立てるのを聞いて、クラスメイトが慌ててスマホを奪い返す。


「僕の聖剣⋯」


 プリムはクラスメイトを置き去りにして風の様に走る。

 勇者学園から程近い勇者記念館に到着。

 立ち入り禁止の札と共に鎖が掛けられている。


「ちっ⋯」


 この目で現場を確認したかったが断念する。

 この鎖を引き千切るのは簡単だが、すれば警備兵が駆け付けて来るだろう。

 スマホを開いて検索。

 

「――――――――――見つけた」


 灯台下暗し。

 勇者学園内にて、聖剣らしき長物を持った男が目撃されていた。

 教師達に連行されているその男が行った先は、校長室。


「僕の聖剣」


 プリムは軽く屈伸運動をする。

 先程まで素振りをしていて良かった。

 身体は十分に暖まっている。


「返せ」


 プリムはそう云って弾丸の如く走り出す。

 ピンク色の残像を残し、プリムは勇者記念館の前から消え去った。

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