第3話 超合法ロリババアクォーターエルフ
「平和じゃのぉ⋯う〜〜〜ん」
勇者学園校長室の執務机にて、小柄な影が大きく伸びをする。
サラサラのエメラルドの髪と瞳。
そして真横にピョインと伸びたトンガリ耳。
勇者学園校長のポプリはエルフであった。
厳密にはクォーターエルフである。
血が薄くなった筈なのに隔世遺伝でエルフとしての特徴が色濃く出てしまった。
見た目は母よりもエルフっぽいので、エルフとかハーフエルフとか呼ばれてしまうが、特に訂正はしていない。
「偶には森に帰るかのぉ〜」
王国で生まれ育った彼女は特に森への思い入れは薄い。
やはり人間の文明の利器が便利過ぎる。
スマホや魔道具にはそこまで食指は動かない。
しかし、取っ手を押せば流せる水洗トイレ。
蛇口を捻れば熱い湯が出るお風呂。
エルフの帰巣本能なのか、唐突に森に行きたくなる瞬間も無いでは無いが、ちょっと行けば満足して直ぐに都会に戻りたくなる。
「でも面倒じゃしのぉ〜」
他にも億劫になる理由が有る。
それは彼女の容姿だった。
エルフは基本、金髪に青い目の者が多い。
そしてエルフが進化した姿、ハイエルフは髪も瞳も緑色なのだ。
ポプリの外見と一致する。
しかし、此れは偶々なのだとポプリは思っている。
祖母が惚れ込んでしまった人間の男が緑色の髪をしていた。
母が一目惚れした父は緑色の目をしていた。
だから本当に偶々、偶然の産物なのだ。
しかし祖母の実家に帰省すると、森に移り住め、巫女に成れ、ハイエルフへ至る為の修行をしろ、それが嫌ならせめて子供を作って村に置いていけと煩いのだ。
良い人⋯良いエルフ達なのだが、やはり価値観が違い過ぎる。
「子供⋯結婚⋯恋人⋯うっ!頭が⋯」
ポプリがちっちゃいお手々で小さい頭を抱える。
そう、彼女の外見年齢はどう見ても一桁年齢なのである。
同年代の人間の友人達が結婚や出産ラッシュになった時は凄く焦った。
頑張って婚活もした。
しかし引っ掛かるのは真性ロリコンだけだった。
見た目幼女で、結婚後も自分が死ぬまでは確定で幼女な超合法ロリなのだ。
一部に熱狂的な需要が有る事を知り、人間との結婚はちょっと諦めた。
エルフ相手も考えたが早々にこちらも諦めた。
長命種エルフからすると本当に子供の年齢だからだ。
結婚したいと云っても鼻で笑われる。
同年代の友人達が年老いて孫も生まれ始めた辺りで、本格的に諦めた。
姿が変わらぬ自分と変わらぬ友情を抱いてくれる友達と交流してくうちに口調が年寄り臭くなってしまったが、わざとそのままにしてある。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯何処かに、良い男落ちてないかのぉ⋯⋯⋯」
人間にも偶に、生命力旺盛でエルフ並に生きる超人も居る。
ポプリもそんな人間と知り合った事が有るが、規格外の人間は精神性も規格外。
ポプリの容姿について気にしないタイプの男も居たが、そもそも人格破綻者も多かった。
ポプリの精神性は普通だった。
魔法への造詣が深く魔力量も多いので勇者学園の校長等をやっているが、出来たら寿退職したい。
家で旦那様と二人っきりで甘い時間を過ごしたい。
可愛い赤ちゃんを産んでみたい。
祖母に曾孫を、母に孫を抱かせてやりたい。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯虚しい⋯⋯⋯」
そろそろ百歳に近付いてきた年齢のクォーターエルフが溜め息を吐き出す。
そんな時だった。
「たっ!大変ですぅ〜〜〜っ!」
ドタドタと足音が聴こえ、バーンッ!と校長室の扉が開かれた。
「なんじゃなんじゃ?どうしたんじゃ?」
ポプリは飛び込んで来た女性教師に呆れた顔を向ける。
この女性教師は才能は有るのだが、落ち着きが無く直ぐに大騒ぎするのが欠点だからだ。
「ゆゆゆゆゆゆゆゆっ!」
手をバタバタと動かす女性教師。
「勇者っ!」
「勇者?」
勇者学園なのだから勇者に関連するトラブルだろうか。
「勇者が現れましたっ!」
「は?」
ポプリは白けた表情で返事をする。
とても信じられない話だからだ。
しかし冴え渡る頭脳でピンと来る。
魔王も居ない、大きな戦争も無い平和な世の中。
そんな時にどうして勇者が現れた等と言えるのか?
ならばそれは⋯
「まさか聖剣⋯か?」
「みみみみみ見て下さいぃぃぃぃっ!」
「なんと⋯」
女性教師が自分のスマホを取り出してポプリに見せる。
其処には壊された聖剣の台座、聖剣を持って途方に暮れた男の写真が有った。
他にも何枚か現場写真が有る。
中には泣きじゃくる女学生らしき少女を聖剣を持った男があやしてる姿も有った。
「でっ⋯⋯⋯ふんっ」
少女の胸部装甲は凄くボイィィン!していた。
写真の男もきっと、だから優しくしている筈。
ポプリは一瞬だけ自分の胸を見下ろす。
真っ平らである。
エルフである為に容姿には自信が有るが、一部分には自信が無い。
祖母や母に似ないと良いなぁと思う。
父方、祖父方の親戚にはそれなりの大きさの女達も居た。
そっちの遺伝子も隔世遺伝して欲しいと切に願うポプリなのである。
(いかんいかん)
現実逃避していた頭を振って冷静さを取り戻す。
「この男は?今は何処に居る?」
「ゆ、勇者記念館のバックヤードですぅ」
「今直ぐこちらへ連れて来るんじゃ」
王城に連行されるとどうなるかは解らない。
流石に暗殺等はされないだろうが、政争の道具にされてしまうだろう。
魔王が居なくなって久しい平和な世の中だ。
必要性の少なくなってきた勇者学園の縮小を訴える者も居る。
もしくは軍部に組み込み、勇者学園の卒業生を軍人に仕立て上げる下地にしようとする者達。
そんな敵側に二代目勇者を確保されてはならない。
勇者記念館は残念ながら国立。
ポプリが知る前に王国に知られてしまっているだろう。
しかし国は実際に動くまでの腰が重い。
箝口令ぐらいは敷いているだろうが、先ずは情報の真偽を確かめる筈だ。
真っ先に疑うのはポプリ達勇者学園だ。
記念館は国立だが、展示されていた聖剣等は学園所有の物が多い。
つまり、あの聖剣はレプリカで偽物だと早合点する。
勇者学園が国を騙してレプリカを展示させていたのではと疑いを持つ筈だ。
此処がアドバンテージだ。
ポプリ達はアレが本物だと知っている。
王国の連中が疑心暗鬼になっているうちに勇者を確保する。
「二代目勇者は儂等で守るぞ」
ポプリ自身は勇者と魔王の戦いは知らない。
しかし、ポプリ等足元にも及ばない筈の老エルフが語るのだ。
魔王と勇者の戦いを。
一撃で山が吹き飛び、一瞬で湖が干上がる戦い。
地形が変わり、生態系が変わる程の天地を揺るがす一騎打ち。
人間もエルフも動物も、モンスターさえも我先にと逃げ惑う日々。
あの二代目がそれ程のポテンシャルを秘めているかは解らないが、兎に角他陣営に取り込まれる前に確保せねばならない。
それに二代目勇者が現れたとなれば、入学希望者が増え、国家予算が増える可能性が高い。
「ふっふっふ。勇者は儂のもんじゃ!」
「え?こ、校長?」
「コホン⋯いや、儂等勇者学園の物じゃっ!」
言い換えてみた。
しかし、喜んでばかりもいられない。
現実に勇者が現れたと云う事は、もう一つの可能性も現実化するかも知れないからだ。
「⋯魔王復活⋯まさかの」
勇者が魔王を倒して以降、勇者は現れなかった。
それは魔王が現れなかったから、と云うのが専らの通説だ。
英雄は動乱の世でしか頭角を表せない。
実は勇者は産まれてはいたが、本人が無自覚のまま天寿を全うしてしまったと云う説だ。
「はい、はい⋯では此方にお連れ下さい。お迎えに上がりますので⋯はい、宜しくお願い致します」
女性教師があちこちに伝話を掛けている。
一通り連絡し終えた後、ポプリに訊ねて来る。
「それで、校長はどう為さるおつもりでしょうか?」
「我が校に来て貰う」
「えぇ?でも⋯男性⋯それに年齢も⋯」
勇者学園は女子校である。
魔王を倒した初代勇者が女性であったのと、勇者パーティー全員女性で構成されていたからと云うのが定説である。
だが此れは半分正解で有り半分不正解でも有った。
勇者パーティーには他に男性メンバーも居たらしい。
そしてその男性メンバーは最後の戦いで戦死してしまったそうな。
しかし帰還した勇者パーティー全員、暫く後に妊娠が発覚、全員無事出産した。
皆、父親の名は固く口を閉ざして言わなかったそうな。
そんな彼女達が考案、出資し創業したのがこの勇者学園である。
最初は勿論共学としてスタートする。
しかし、経営陣首脳陣が全員女性。
しかも魔王を討伐した現役メンバー。
世界中から有能な女子が集まる事になる。
男子も送り込まれる。
そこで問題が起こる。
不純異性交遊である。
普通の学校であったなら恋人が出来る。
悪いパターンだと男子生徒による無理矢理な行為等だ。
しかし勇者学園では違った。
居るのは勇者に憧れる血気盛んな女戦士達。
しかも在籍出来る年齢が成人に成る十五歳から十八歳までである。
この年齢は普通に結婚出産していてもおかしくない。
女子生徒は男子生徒を逆に襲い、積極的に子作りをしてしまった。
この原因は各国の少子化対策に有った。
各国が産めよ増やせよと、出産一時金や子供手当、母子家庭手当に力を入れていたのだ。
何故なら魔王軍との戦争で多くの男性騎士や男性兵士が死亡していたから。
故に世界は慢性的な男性不足。
中には大国の王子を手籠めにし、国際問題から戦争にまで発展しかけた事案も有った。
結果女子校、男子校に分けられて運営される事になる。
しかし時の流れで勇者学園男子校は消滅した。
女子校の方は現役勇者パーティーメンバーが運営しているのに、男子校には特に目ぼしい客寄せ要素が皆無だったからだ。
更に次世代でも状況が変わらなかった。
勇者パーティー四人が産んだのは全員女性で、その子孫もほとんど女性だったのだ。
勇者パーティーの子孫が入学するのは勿論女子校。
男子校の方は時間が経てば経つ程に廃れていった。
定員割れを起こし入学者が減り、生徒数が減り、出資者も減り、最終的には閉校してしまう。
なので件の青年は女子校に入るしかない。
「男性なんですよ?二代目勇者様⋯」
「問題無い。彼はすでに成人済みの様だしの」
「じゃぁ⋯」
「教職員、臨時講師、なんでも良い。教育者として取り込むだけじゃ。そうじゃ、あやつの名は?何者じゃ?」
「ええと、あ、来ました」
執務机の通信魔道具から紙が出力されて来る。
それを見てポプリがほくそ笑む。
「決まりじゃな」
名前はレイヴン。
田舎の村の教師。
王都には観光でやって来た。
百点満点の回答である。
「む⋯いかんな。少々強引な手を使うかの⋯」
ポプリがスマホのニュースの着信をタップすると、謎の男が聖剣を引っこ抜く動画が流出してしまっていた。
王侯貴族が動画を半信半疑で吟味してるうちに勝負をかけるしかない。
ポプリは朴訥そうな青年をどうやって嵌めるか陰謀を巡らせ始めた。
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