ブレイバースタリオン うっかり抜いた聖剣をレプリカと信じる田舎の青年、勇者学園の教師となり女子生徒たちと修羅場ライフ

猫屋犬彦

猪突桃進娘プリムちゃん

第1話 ボイィィンッ!胸部装甲からの逃走

「ほほぉ〜コレが魔王を倒した勇者の聖剣かぁ〜」


 彼はそう言いながらスマホ⋯スーパーマジックフォンの撮影機能でパシャリパシャリと記念撮影する。

 奮発して買ってみたが通話する相手も居ないのでカメラとして使う事が多い。

 まぁ折角撮影した写真を送る相手が居ないのも同じだが。


「すみません。よろしければお撮り致しましょうか?」


 近くに居たスタッフらしき少女が話しかけて来た。


「良いんですか?」


 思わぬ申し出に喜ぶ青年。

 彼の名はレイヴン。

 レイヴンは少女の厚意に甘える事にする。

 聖剣は台座に突き刺さっており、真の勇者にしか抜けない云々の解説がされていた。

 王都に来るなら絶対に抑えておきたい人気スポットである。


「ではよろしくお願いします」

(確かに景色ばかりで、自撮りと云うのをしてなかったな)


 レイヴンは田舎から王都観光へ来たお上りさんである。

 今彼は王都の勇者記念館に来館していた。


「いえ、勇者ヲタとして⋯コホン、んんっ、勇者記念館スタッフとして当然です」


 ふんすっ!と胸を張る少女にスマホを渡す。


「あっ!最新の携帯伝話だっ!良いなぁ〜」


 スタッフの少女がレイヴンのスマホを見て目を輝かす。

 年頃の少女には憧れの一品だ。

 スマホは高い。

 持てるのは貴族令嬢や商家の御令嬢ぐらいだろう。


「ははは⋯」

(販売員に捕まって流れで買わされてしまっただけなんだけどね)


 初めての王都観光に行く数日前、村の近くの町の魔道具ショップに行ったのが運の尽き。

 言われるままに契約してしまった。

 しかし村に帰ったら通信魔道具の基地が近くに無かったらしく、思いっきり圏外だった。

 村に有線通信魔道具⋯通称黒伝話が有ったから大丈夫だと油断していた。

 王都に来たら圏外から脱したのでホッとしたが。


「あれ?ボ、ボタンが無い?」

「えーと、画面をタップして」

「たっぷ?」


 自分もそこまで使い込んでないが、初めてのスマホに戸惑う少女に教えてあげる。

 レイヴン自身はダイヤル式黒伝話からボタン式携帯伝話を飛び越えてスマホへ至った珍種なのだが。


「では撮りますよ〜はぁ〜い、1+1は〜」

「に、2ぃ〜⋯」


 スタッフ少女の掛け声でレイヴンがピースサインをし、ぎこちなく笑う。


「あれ?シャッター音がしない?」

「あ、動画モードになってるかな?」


 パシャリでなくピロリロンと音がした。

 だが静止画でなく動画でも良い。

 こんな小さなハプニングもバカンスの醍醐味だろう。

 そんな折に、団体様がやって来た。


「え〜〜〜こちら初代勇者様が魔王討伐に使用された聖剣で御座いまぁすぅ〜!」

「へぇ〜」

「ふぅ〜ん」

「初めて見た」

「私は前来た事有るし」


 添乗員らしき女性に連れられ、わらわらと現れた女の子達。

 皆同じ制服を着ている。

 レイヴンと同じ観光客だろうか。

 レイヴンとスタッフ少女の間を分断する様に通って行く。

 レイヴンは展示されている聖剣側の方に体を寄せる。

 集団の女の子達はペチャクチャと姦しく喋りながら通過していく。

 

「ほらっ!撮ってあげるって!」

「いやっ!前髪切り過ぎちゃったからヤメテっ!」


 スマホ片手にキャッキャしてるグループが居る。

 じゃれ合う彼女達の一人がレイヴンにぶつかる。


「あっ!すみませんっ!」


 ボイィィンッ!⋯と、その女生徒の分厚い胸部装甲の感触を腹に感じる。

 レイヴンは不可抗力とは云え味わってしまったその感触から逃げようと、必要以上に身体を離そうとしてしまう。

 そして体勢を崩す。


「おっとっと」


 ガシッ!⋯と、反射的に伸ばした手で無意識にそれを握ってしまう。

 ドアの取っ手の様な握り心地だ。


「あ?」

「え?」  


 それを見た皆の視線が固まる。

 そして、ベキベキベキッ!と云う異音が館内に鳴り響く。


「うわわわわわわっ!?」


 全体重を掛けてしまったレイヴンはそのまま倒れ込む。

 彼のそこまで重くもない体重が、何かを梃子の原理で破壊していく。


(何だ何だっ!?)

 

 ドアノブらしき物がいやに良く手に馴染む。

 レイヴンは完全にバランスを崩し、そのままバターンと倒れてしまった。


「う、嘘⋯」


 スタッフ少女が震えながら呆然と呟く。

 ピロリロンとレイヴンのスマホが動画撮影完了を知らせる。


「え?え?うわわっ!ヤバッ!ヤバイっ!すすすすみませんっ!直ぐに修理を―――」


 レイヴンが飛び起きる。

 周囲に散らばる破片。

 自分が展示物を破壊してしまった事を悟り青くなる。

 弁償、賠償金、犯罪、有罪、解雇、逮捕等々の恐ろしい単語が脳内を駆け巡る。

 彼は自分が握るドアノブらしき物の正体に気付いていない。

 まるで羽の様に軽く、重さを感じないからだ。


「う、嘘でしょ?」

「そ、そんな⋯」

「聖剣が―――」

「抜けた?」


その場に居る全員が唖然として彼を見つめる。


「え?あれ?」


 レイヴンは自分が握る物の正体に漸く気付く。

 それをしげしげと見つめてみるが理解が追い付かない。


「あ、これ、そっか。レプリカか。あ〜良かったぁ〜」


 レイヴンが早合点と云うか現実逃避をして安堵する。

 自分が体重を掛けただけで壊れる台座。

 羽の様に軽い聖剣。

 こんな物が本物な訳が無い。

 本物なら盗難や悪戯の被害に合うからだ。

 きっとコレは精巧なレプリカなのだろう。

 レプリカでも壊してしまった以上弁償は免れないが、本物を壊してしまったと勘違いした後ならば安いものだと考える。


「え?レプリカ?ああ、そうなん、だ?」

「そうなの?」


 場の雰囲気がちょっと和む。

 特にレイヴンを押してしまった少女等、ボイィィンッ!な胸部を撫で下ろし赤羅様に安堵していた。

 実際に壊したのはレイヴンでも、元凶は彼女なのだ。


「あ⋯え、その、それ⋯ですね⋯」


 ぶるぶると震えながら言葉を絞り出すスタッフ少女。


「ほ、ほほ本物の⋯聖剣⋯です。はい⋯」

「え?」


 魔王を討伐せし初代勇者。

 それ以降、多大なる功績を遺した者も何人か勇者と呼ばれた。

 しかし、誰一人初代の後継者とは認められていない。

 何故なら初代勇者が突き刺した聖剣を抜けた者が居なかったからだ。

 この聖剣は勇者記念館に移されたのではない。

 勇者が突き刺した聖剣を中心に記念館が建設されたのだ。

 作り物の台座に見えたのは聖剣が突き刺さった岩を磨き上げただけに過ぎない。

 自称勇者を名乗る者が何人も挑み、抜けずに諦めていった。

 ならば岩を、台座を破壊しようと試みた者達も居たが皆頓挫している。

 聖剣の効果なのか、只の岩の筈がどんな攻撃も跳ね返してしまったからだ。

 偶に無謀な者が国の許可を得て抜こうとして失敗している。

 この剣は勇者にしか抜けないのだと証明され続けているのだ。

 つまり―――


「に、二代目勇者⋯様?」

  

 スタッフ少女が呆然と呟く。

 

「あははは、はは、あ〜⋯わ、解ったぞ。此れ、ドッキリ⋯てヤツでしょ?テレビで見た事ある〜⋯て、あれ?ねぇ⋯そうなんでしょ?」


 聖剣片手にオロオロとするお上りさんの青年。

 しかし誰も彼の言葉を肯定してくれない。

 凍り付く空気の中、二代目勇者レイヴンが爆誕したのであった。

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