私は、おばあちゃんのことを思い出して、少し寂しい気持ちになった。


 学校はクリスマスムードになっていたから、こんな気持ちになってしまうのだろう。



 今日は12月24日クリスマスイヴ。

 明日から冬休みということで、みんな、浮足立っている。


 誰も好きにならない私には関係ないことだ。


 そう思って、私は家に帰ろうと席を立った。


「あ、古瀬さん!」


 急に呼び止められて、私は少しびっくりしてしまう。


 振り返ると、みんなの人気者、高宮くんがいた。


「なに?」


 興味を一切示さない態度で、私は短く言葉を放つ。


 それなのに、彼は困った顔を一つせず、「ちょっとこっちに来てほしい」と私の腕をつかんで引っ張ってきた。


 抵抗すればいいのかわからなかったので、私はとりあえず高宮くんに連れられて、屋上に続く階段を上っていく。


 屋上に出られる扉は鍵がかかっているので、その手前で高宮くんと二人きりになった。


 どういう状況なのか意味がわからず、私が黙っていると、高宮くんが両手を合わせて拝むように頭を下げてきた。


「ごめん! お願いがあるんだ! 俺と付き合っているフリをしてほしい!」


「……意味がわからないんだけど、それって、何かの罰ゲーム?」


 まず、私は人付き合いが悪い。クラスで一人ぼっちだ。だから、いきなり人気者の高宮くんが付き合うフリをしてほしいと言われても、どういうつもりなのか疑ってしまう。


「古瀬は誰も好きにならないって聞いたから」


 頭を下げて拝んだまま、私の性質について言ってくる。


「誰に聞いたの、そんなこと」


「誰って、みんな言っているけど……」


 みんな。その言葉で、私は裏切られたと舌打ちしそうになった。いつも私に絡んでくる女の子だけに言ったことがあるのだ。言ったというより、言わされたようなものか。恋バナしよって言われて、面倒でそう答えてしまったのは、うっかりしていた。


 口はわざわいの元だ。


「みんなが言っているから、信じるんだね」


「違うのか……それは、本当にごめん」


 すぐに謝ってきて、私は少し意表を突かれてしまう。からかいに来たわけじゃないのかもしれない。


「いや、違わないけど、でも、本人が言っているのかわからないのに、みんなが言うからなんて言って決めつけてきたら、嫌じゃない?」


 いつもなら、こんな嫌味なこと言わないのに、ちょっと私の口がとまってくれなかった。クリスマスに浮かれているんではないかと、嫌な気持ちになる。


「うん、ごめん。本当に謝る」


 みんなの人気者にしては、やたらに謝ってくる感じ、なんか変な印象を受けた。


「もういい? 私、帰りたいんだけど」


「じゃあ、最後に聞いていいか?」


 本当はもう話す気にならなかったけど、最後くらいいいかと思った。


「なに?」


「古瀬さんは、人を好きにならないのか?」


「そうだね。それなのに、つらくならないから嫌になるけど」


 余計な一言を言ってしまってから、私は自分自身に呆れる。やはり、クリスマスのせいだと、心の中で呪詛を吐く。消えてほしい、切実に。


「嫌になるけど、つらくないのか?」


「最後じゃなかったの? もう、帰るから」


 心底呆れた態度を示して、私は階段を下りていった。


 何か言ってくるかもしれないと思ったけど、高宮くんは驚いた顔をしたのを最後に、何も言ってこなかった。


 だからなのか、クリスマスのせいなのか、私は立ち止まる。


「気になったから聞くけど……どうして、付き合うフリをしないといけないの?」


 振り返って、見上げた高宮くんの顔がパアッと明るくなったのがわかった。薄暗くて埃っぽい階段なのに、その表情は不思議な感じがした。




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