第2話 雪|女ペンション殺人事件 ②

冷蔵庫を漁っていると切られた分厚い豚肉や人参などのポトフにできそうな野菜なども保管されている


中でも不思議なのは下段の冷凍室に空間があること


「雪に囲まれたペンションの中に観音開きの大きめの冷蔵庫ってあるものなのか?局所への電気って...どういうメソッドで通ってるのか分からないな...


あんなに勉強したのに...ソースコードは書けても...ゲームの中でも世間知らずの俺は苦労する...」


近くのキッチンを探すと食材を切り分けるための包丁なんかと共に少し濡れたハサミに先端に粉末の氷をつけたアイスピックも置かれていた


仮想世界のゲーム内で使えるアイテムなのだろうか単なる背景なのか現実と同様に料理も作れるのか?


「刺殺用の凶器ばかりだな...被害者は頭から血を流して死んでいた...背中に刺された後は無い...


ベランダから突き落としたのでは無く...凶器を使った犯行ならば頭を割るには相当な重さの鈍器が必要なはずだ...それに背後から殴るのなら炎藤に気づかれないように凶器を取り出さなくてはいけない...」


捜査中に肩を軽く叩かれると思わずフタミだと思って赤星雲は彼女の手を握りキザな台詞を走らせる


「今度は俺から握ってやる...AIに先を越されるだけが人間と思うな...プログラムし直して......」


自分握りしめた手はアンナの物であり犯人候補の手を熱く優しく求めるように握りしめてはAIに愛を語ろうとするなんて前代未聞の行為である


「あ...あぁ...なんというか...」


「やっぱアカグモは...アタシの方が好きだよな?なんとなく気づいてた...大学のキャンバスの時も視線を感じてたし...この旅行にも誘ってきた...」


赤星雲は死んだ昆虫の栄養から伸び育っていく冬虫夏草の如く新たに生えてきた設定に頭を抱える


「俺が旅行を決めた設定なのか...」


「別に恋愛の目で見られるのが嫌では無かったぜ...なんというかアタシって男とも友達関係で終わることが多くて...いいんだよな...///」


「いいって何をだ?」面倒事のストレスから赤星雲の口角が上がりウィンクしたかのようになる


アンナが近づいて女豹のロゴが描かれたTシャツをずらすと2つの惑星の衝突を予感させるような谷間が見える


彼女は恥ずかしげこそ有りながらも当然のように彼の手を取って自分の髪を触らせていく


こんな場面の感触までも現実のソレとは変わらない

大きく違うのは都合良く求められすぎていること


「今回の事件って自殺だろ?ペンションの外は雪に隠れた地面にゴロゴロと岩があるんだぜ...炎藤もオマエみたいにスベってベランダから落ちて


岩で頭を割ったんだろ...アイツってサークルでもマイナーな洋楽ばっか聴きまくってて浮いててさ?


すっごい嫌われてたらしい...綺麗な雪山と寒気にセンチメンタルな気分になって落ちたんだよ...」


「そんな訳が無いだろ...同じようにベランダから落ちた俺は生きていて...炎藤が死んだのは何故だ?


そもそもタイトルに雪|女ペンション殺人事件と入っているんだから殺人事件に決まっているだろ」


「タイトル...?」


アンナの手は楽園の蛇のように妖しく赤星雲の抵抗を通り抜けながら下腹部に伸びていくと彼女は囁く


会話で少し湿った彼女の唇が合わさって跳ねるようにして吐息を漏らしながら言葉を中から出していく


「他殺ってんなら犯人は...フタミちゃんだろ...探偵が犯人がじゃないなんて保証は無いぜ?」


手の平に甘えるようにアンナが頬を乗せてくる


少しの興奮と同様からのバグなのかアカグモは不自然に震える自分の身体を律してアンナから離れると2階から降りてきたフタミと鉢合わせる


「アカグモさん...アンナちゃんと何してました?」


「いや...それはその...冷蔵庫の前で...」


「"真実"を探す為の捜査です!!探偵が事件を投げ出してイチャつくなんて言語道断です!!」


アンナは割り込むとフタミに向けて叫ぶ


「冷蔵庫の前で取り込み中だったんだぜ?もうアタシ達は関係が温暖化くらいに進んだせいでヤることもヤってるからな!!」


「はぁ!?あかっ...彼がそんなことするはずが有りません!!捜査中なのに...それに男女の深い関係に出先でなるなんて不適切です!!」


「死体に興奮するミステリー好きの方が狂ってるだろうぜ?だからアカグモはオマエよりもアタシにゾッコンなんだよ」


「ゾッコンとか何時の言葉ですか!!アンナさんって炎藤さんとも良い関係になってましたよね!?男も電車も乗り換えるのが得意ってことですか!!」


ミステリー小説では起こりえないだろう事件そっちのけで犯人候補の2人が探偵を取り合って言い争いを始めるという異常事態にアカグモは陥っている


ペンションで起きた酷くガバガバなミステリーよりも男女のイザコザの方が優先順位は高いのだろうか


「何を見せられているんだ...これだってキャラクターの中に入ってる自律型AIが会話を作ってるだけで...言うならばロボット同士の争いだぞ...だが...」


2人に背を向けてペンションのある雪山を撮影した物なのか壁に立てかけられた額縁の写真を見ながら赤星雲は口を押さえて深く考えている


その目はペンションの事件の容疑者を探す目ではなく妹の事件を解き明かす兄の凄んだ目へと変わり始めてている


「オマエだけ...2階に来てくれ」


赤星雲の言葉にフタミは驚きながらもアンナは勝ち誇った表情で先に階段を上がる彼に着いていく











2階のベットに先程までの態度から変わって堂々とやましい事が無いように座る赤星雲を見てアンナは照れながらも汐らしく正妻を気取りながら横に座る


「アカグモ...いや...下の名前で呼んだ方が良いのか分からないけど何かして欲しいこととかあるか?」


「この推理ゲームの世界のAIに規制があるのか?暴力や性や会話にて交わされる不適切な文言などに反応するのか...まぁ...そんな疑問は置いといて...」


「さぁ!!何処からでも殺しに来い!!」


「ちょっ...なんか...オマエ...思ってた感じと随分と違う感じなんだな...流石に殺すのは...止めとくぜ...ていうか何だよいきなり!!」


「できないんだろ?AIには誘惑も殺人も行えない...暴力や性に関する不適切なことには規制/プロテクトがかかるようにされているからな...」


赤星雲/アカグモは寝そべりながら窓の外を見るとフタミのバッグを漁った時よりも何個か増えて並んでいる氷柱に驚く


突然のアカグモの奇行に理解することができないアンナが後退りすると彼はベットから起き上がると間接照明のランプを手に取り思い切りベットの上でジャンプしながらランプで自分の頭を強く殴り始めた


「自傷行為こそできるが偽物の痛みだけしか感じない...おそらくゲーム内での感覚は脳に電気刺激を流すことで現実のソレを再現しているだけだということ...」


「何をしてるんだ?アカグモ...」


「見掛け倒しってことだよ...今回の事件はベランダからの転落事故に見せ掛けた殺人のトリックだ...


最初の違和感は外に倒れていた炎藤の服装だ...ベランダから転倒したとしたら俺達みたいにTシャツのままなはず...だが...アイツは外に出るためにスキー用のジャケットを着込んでいた...不自然だろ?


雪で隠れていたが現場には煙草が落ちているだろうな...死体の右手は指が2本だけ立った状態で凍っていた...煙草を人差し指と薬指で挟んで持っていたんだよ...つまりベランダから落ちた事故では無い...


炎藤巡/メグルは雪を見ながら煙草を吸うために自分から外に出ていった」


間接照明のランプが彼の手から離れると床に落ちた

頭を押さえて痛がるアカグモの推理は続いていく


「狂気になる物があるのか冷蔵庫の周りのキッチンなんかを探したがアイスピックなんかの刺殺の凶器しかなかった...とても頭をかち割る凶器なんて見つからない


手詰まりだと俺は考えたが窓の外から見える長い氷柱を見た時に思った...煙草を吸うために外に出ていた炎藤の頭に向けて氷柱を頭に落とすことができれば鈍器を振り下ろさなくても頭はかち割れる」


「氷柱?そんなのを使って犯人が人を殺した?有り得ないぜ...氷柱が1本だけ落ちたとしても確実に炎藤を殺せるか何て分からないだろ?」


「違う...犯人は外の氷柱を薄い布に包んで上から下に落とした...確実に相手を殺すための作業の中でバラバラの氷柱を1つにするため...布に包んで冷凍庫の中に入れて纏めた氷柱同士を再度と凍らせることで接着させたんだろ?布はカーテンを使った...」


推理の途中で赤星雲はベッドから降りて唐突に自分の現実世界の話を始める


「オマエの妹は、ゲームの中で死んだ...仮想世界入れる機械と共に何者かが俺に送ってきた手紙だ...手紙の送り主が犯人なのかは分からない...


FAKE PAINだけが俺の妹の死の手がかりなんだよ...


だが俺は妹の死の真相を解明できるなら何だってしてやる...犯人の罠に敢えて乗ることも探偵好きやギャルなんかと喋ってやることもな...」


赤星雲が壁を叩いた衝撃からペンション全体が揺れて屋根から垂れた水が固まったことによりできた窓の外の氷柱が折れて下へと落ちていった


「使われた氷柱の塊は暖炉の奥に投げ込まれて溶けて消えた...布は氷柱を包む前に料理器具で切られて犯行に使われた部分だけは外に投げ捨てられた...」


「そんな証拠は意味が無いぜ...あると言うなら外にでも取りに行くか?暖炉の中を探せば良いのか?」


「証拠を取るために外に出る必要は無い...オマエの爪はネイルを外した後だから綺麗だった...外の氷柱を取った時か...一連のトリックを作っている最中に何処かに落としたか...暖炉に投げた氷塊に付いたままかもしれないな...」


「なんなんだよ急に...アタシは犯人じゃない...」


「下手な三文芝居は止めろ...証拠こそ見つかっていないが俺はオマエを犯人に選ぶことに決めた...今回のゲームは"犯人を選ぶ"ことが重要らしいからな


犯人はオマエだ...アンナ...」


《MISSION COMPLETE》


何かに苛立ったのか目の前の男に興味を失ったのか髪を激しく掻きむしるように動かしたアンナは彼の前から離れ階段を降りていく


フタミが困惑するような声が下のリビングから聞こえると彼女の頭部が弾けて前回のように黒煙が出てきたのかクラッカーが弾けたような音が鳴った


赤星雲が階段を降りていくと頭部を失ったアンナの身体から大量のカラフルな花吹雪が舞っており少し不気味だが華やかな風景にフタミも圧倒されていた

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