第1話 池悠島HOTEL殺人事件②

屋上に来ると赤星雲あかぐもは怖がることなく手摺りなどの近くに行き犯行現場とされる場所を隈なく観察している



スマホのライトで灯しながら周囲の痕跡の有無を確認していると探偵娘は屋上入口の方に立ち寒さで震えながら話す


「もし僕を突き落とそうとしたら!!絶対に許しませんからね!!むきぃ!!」


「むきぃ...って何をビビってるんだ?死体にはビビらなかった癖に...変に警戒するヤツだな名探偵」


「犯人候補には不要に近寄りたくないです!!そこで証拠隠滅が図られないように遠くで見張っているんですからね!!」


「なら近くで見張れ...やけに大声なヤツだな...」


振り返った不遜で偉そうな態度の赤星雲の顔がスマホのライトで薄ボンヤリと照らされる


手摺や屋上の床には争った跡もなく血痕などの形跡も無ければ証拠となるような物も何一つとして見つかってこない小綺麗な現場


赤星雲から二見に疑問


「君にキチンと答えられるのか疑問なんだが...犯行動機は何だと思う?金持ちを狙った金目当ての殺人なのか怨恨での殺人なのか」


「被害者は土地開発計画なんかも手がけていて!!島の住民からは恨みを買っていたんです!!このホテルも車広が手がけた開発計画に関わっているらしいです!!」


「にしては殺し方が...手早いな...島の住民の犯行なら12発くらいは殴ってやりたくなる物だと思うが...車広は建設に携わっていたホテルで殺された...そこに意味はあるのか...」


「強盗目的の可能性も有り得ます!!被害者は金持ちなのに高級品などは持ち合わせておらず!!手首には腕時計を付けていた跡が残っていました!!

殺してから財布以外の物を貰ったのかも!!!!」


「叫ばなくても下手な推理は聞こえるぞ名探偵」


赤星雲はフタミの方に近づいていくと推理を語る


「何者かに屋上にて殺害されたか不意を食らって手摺から落とされたが争った形跡が無い...犯行は不意打ちに近かっただろうな...


突き落とす前にヤツの腕時計を盗ることは困難...持ってたら犯人の証拠にもなりうる...突発的な強盗殺人の可能性は...」


暗がりの海に可能性の泡だけが無数に弾けていく


フタミは寒いのか探偵服を押さえて体温を整える

赤星雲は腕を組んで上を向き更に考えながら話す


「車広の死体はスマートフォンは持ってたか?」


「ありましたとも...中を確認しようと思ったら画面がバキバキに割れてて...収穫無いチンゲールです」


「叫び声を聞いて起きた時...エレベーターを確認したが動いてなかった...非常階段の方で俺は駆け降りたんだが...屋上から降りて来たヤツは居ない」


「おそーく来ている人がいたら僕が見逃しませんでしたよ!!最後に現場に着いたのは僕です!!」















エレベーターは3階にて開くと事件当時に慌てて出てきた赤星雲を含めた5人の客の部屋に並ぶように304号室の部屋の扉鍵もかけられずに開かれている


記憶力だけは一流のフタミは堂々と話す


「この扉は車広の部屋の扉なのです!!皆が騒ぎで混乱している中で名探偵は既に第一の証拠の山である彼の部屋が開いていることに気づいていました


その時に車広さんの部屋以外も確認しましたけど他の客の部屋は施錠されていて赤星雲さん以外の部屋は空いてませんでしたし...客が泊まっていない空室の部屋にもシッカリ鍵がかけられてました!!」


二見鏡狐の言葉を聞いて赤星雲は他の客や空室の部屋のドアノブを次々と動かしてみるが確かに自分と車広の部屋以外の全ての部屋が施錠されている


2人は車広の部屋に入るとフワリと強い煙草のような匂いがして、テーブルには零れた酒と置かれており床には小さなグラスが1つだけ転がっている。


テーブルの全体が濡れており床に滴り落ちる水滴と落ちたグラスは車広の死に様と重なる所があった


もう1つは酒瓶の上に被せられていた

被害者は喫煙者であり飲酒をしていたと考えられる


「いくら中年男性であっても...酒に溺れて煙草で肺がやられていたら...簡単に突き落とされるかもな」


またも笑顔のフタミは車広の寝ていたとされる小綺麗なベットの横にあった高級そうな鞄を持つと中身の様々な機種のスマホを次々と手荒い捜査でベッドの上に並べられていく


「押収品を並べているニュース映像みたいでしょ...犯人はスマートフォンを1つだけジャケットの中に入れていましたが落下の衝撃で壊れた...しかし!!


部屋を確認すると何個もスマートフォンが出てきたのです...そしてやはり...高級品だけは無いのです」


「高級品だけを盗んでGPS/位置情報なんかで足がつく携帯電話は残した?本当にそうなのか?」


「犯人が彼の部屋に居た可能性は低いです!!お酒のグラスは確かに2つもありますが!!飲み口に唇の跡があるのは転がっている1つだけで酒瓶に乗っている方は水分や湿気が確認できません!!」


赤星雲は酒瓶に被せられるように置かれた小さなグラスを触ると不自然な感触に呟く


「いや...微かに濡れている気が...この酒瓶の上に被せたグラスを何者かが拭いていた可能性は有る...」


「そんなことより机がビシャビシャなんですよ...被害者は大量の酒を飲まされて殺された可能性がありますよ!!これは事件だ!!事件んっ!!」


「いや...この小さいグラスで飲む酒だぞ?まずアルコール中毒で死ぬだろ...そんなことしたら...」


車広の部屋の窓が目に入った赤星雲は思い切り開けて外を確認できるか試してみる


「窓の大きさから考えれば...自分の部屋から落とされたって考えもできるんじゃないか?」


「ぎぇっ!?えっ...いや無理です!!窓の位置的に車広さんの隣の部屋じゃないと...あの...落としても車の上には乗らないんです!!はい...」


「部屋割りを知りたい、書き出してくれるか?」


「えっ...はっ...はい...はい!!」


赤星雲に創作の探偵のように頼られて小躍りするくらいには嬉しいのかフタミは自慢の記憶力から部屋の位置関係を直ぐにメモ帳に書き出してくれた


死体車

[空室][車広][炎藤][空室][空室]

────廊下────

[名達][漆日][空室][赤雲][二見]


「変な間取りのホテルだな?本当に合ってる?」


「合ってます...フロントの鍵置き場を隙を見て確認しましたけど泊まっていた6人の鍵は全て使用済みとなっており全ての空室の鍵が置かれていました」


「車広の部屋から落としたら死体は車に落ちない...車の上に落とすには隣の空室を使うしかないが扉は施錠されていた...むっずいなコレ...」


調べることも無くなったのか赤星雲が部屋から出るとフタミも彼に気づいて部屋から出ようとする


305号室のドアが赤星雲によって勢いよく閉められるとパニックになったフタミが走ってドアに衝突すると一心不乱にドアを叩いて叫び散らかす


「ぎゃ!!ぎゎ!!なんで!?なんで開かないの??なんで!!い"や"あ"あ"あ"あ"あ"っ"!!犯人に閉じ込められた!?誰か助けて下さいいい!!」


「俺は犯人じゃない...あとノブをひねってから扉を開けろ」


「あ、ホントですね...捻ったら開きました」


「部屋の中からの叫び声は聞こえるな...車広が車に落ちた音は聞こえなかったのに...変な防音性能だ」












エレベーターのドアが開くと犯人候補から離れたがっているフタミは赤星雲から離れてフロントの部屋の鍵がかけられている所を確認する


「ん...異常ないです!!使われている鍵は車広を含めた6人の6部屋だけです!!」


赤星雲はエントランスを歩いて外に行き車に打ち付けられた車広の死体の状態を確認しに向かう


外で死体を見張っているのか撮影に夢中なのか分からない国分寺とペットボトルの烏龍茶を飲みながら凝っている首を回している漆日は赤星雲に気づく


「おー赤星雲さん...」「アンタも大変だね、あの女ね」


「2人とも少し死体から離れてくれるか?この事件には他殺の可能性が残されている...自分でも馬鹿な詮索だとは分かっているがな」


「マジですか?」「クソ探偵よりは信用できるねぇ」


漆日は招き入れるようなポーズを取るが赤星雲は軽く無視して潰れた車の上に乗り上げて死体を確認しながら心の中で考えてしまう


(俺が起きた理由はコイツが落ちた時の音を聞いたからなのか...叫び声は若干だが遅れて聞こえていた...廊下を歩くフタミかアンナが叫んだ物だろうな...)


漆日は烏龍茶を飲み終わるとボトルを潰しながら飲んだ烏龍茶の成分を抽出して吐き出すかのように澄んだ高い声で赤星雲に話しかける


「思うんだけどもね...赤星雲さんが犯人ってのは無いのかなーって?だとしたら手強そうだね...随分と頭の方は良いみたいだしねぇ」


「それはな、仕事は...平たく言うならパソコンの...エンジニアとかプログラミング関係の仕事をしていてな...自律型AIの開発なんかをしていた」


「うわAIうぜぇ...あんま創作関係の人はAIを好意的に見ませんので...まぁでも?プログラミングできるってことならねぇ...赤さん...ちょー天才なのね」


天才という言葉に少し笑みが零れるが過ぎる失敗の雑音に笑みは消えて彼の心は自分への戒めに戻る


「犯人が一発で分かるくらいには賢くなんてない...推理モノとかに全く興味が湧かなかったからな...」


「言われてみたら...キミってAIばっか作ってきた顔してるねぇ」


「俺は顔に出るタイプだからな」


死体を確認するとフタミの言う通り腕時計の跡が手首には残り散らばるガラス片の中心の車広には高級品の類も無く名探偵が調べたスマートフォンも落ちていた


死体の口元には少し泡のような何かが残っており口内を開けてみると唾液のような物が残っており少しだけ服も着崩れているように見えるが手首や頬に争ったような跡は無い


(服はズレているのに...引っ張られたり揉み合ったりしたわけでも無いのか...それとも1発で下に落とされたから痕跡が少ないのか...)


改めて死体の白いスーツのジャケットを確認していると赤星雲は何かの感触を確かめて事件の確信に至っていく


漆日うるしび...炎藤...車広が落ちた時の音は聞こえたか?」


漆日楼うるしびろうは先に答える

「いや、外は風がやけに強かったし...今は止んできたけど犯行当時は落ちてくる音すら聞こえなかったからねぇ...俺は部屋でネットサーフィンしてたし」


炎藤巡えんどうめぐるは後から気だるそうに答える


「あーっ...それって重要なの?部屋で寝てたから分からないんす音楽聴いてたから...流石に誰かの叫び声は...ヘッドホン越しにも聞こえたけど」


「窓の立て付けは悪かったのに落ちた音は聞こえなかったんだな...叫び声は随分と通ったのに...」


「あの叫び声さえなきゃ...わざわざ下に降りて死体なんて撮影することなんか無かったのに...」


「なるほど、犯人をコレでようやく茶番を終わらせられるという訳だな」


外に荒い風が再び吹くと赤星雲の赤色の髪は彼岸花のように靡いて彼は不気味な笑顔を浮かべる

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