第8話 素人童貞人狼 3日目 朝

「……なあ、佐藤。」


山本がゆっくりと口を開いた。


「もし、ここで間違えたら、次に消えるのはどっちかだよな。」


「……そうなるな。」


「お前、中村が占い師だって言ってたの、信じてるか?」


「……信じてる。」


「なら、昨日の夜の時点で、お前は“白”だってわかってたってことだ。」


「ああ。」


「じゃあ、俺が黒なのか?」


俺は、静かに頷いた。


「……お前が黒だ。」


その瞬間、山本はニヤリと笑った。


「ほう……そうくるか。」


「お前が昨夜、中村を消したんだろ?」


「さあな。でも、お前も人のこと言えねえよな。」


山本は、椅子に深く座りながら、俺をじっと見つめる。


「お前、白じゃねえんだろ?」


「は?」


「いや、お前、素人童貞だろ?」


「……!」


「ははっ、やっぱりな。」


俺は無意識に拳を握っていた。だが、何よりも頭の中が混乱していた。


「何を言ってる?」


「お前、昨日の占いの結果、素人童貞じゃないって出たんだろ?」


「だから、それが何だってんだよ!」


「お前、本当に行ってねえのか? 俺らに隠してねえか?」


「ふざけんな!! 俺は行ってねえ!!」


俺は怒鳴った。だが、山本は相変わらず落ち着いたままだった。


「……なら、なんで俺たちの仲間を海に沈めた?」


「……!」


「お前もやったんだろ? “処す”って。」


俺は言葉を失った。確かに俺は、仲間を海に沈める決定に関わった。


「お前、あの時、ちょっとでも迷ったか?」


「……」


「違うよな。迷わなかったよな。お前も、俺と同じだ。」


「俺は違う!」


「いや、違わねえよ。お前、気づいてるか?」


山本がゆっくりと立ち上がる。


「沈めた方が、生き残る確率が高いんだよ。」


「……!」


「処される前に、処す。そうしないと、自分がやられる。」


「だから……お前は中村を殺したのか?」


「さあな。でも、お前だって同じことをしてきたんじゃねえのか?」


「……お前、いつ卒業したんだ?」


「ん?」


「お前は、いつ卒業したんだよ?」


山本は、しばらく俺を見つめた後、静かに笑った。


「……タイに来た夜だ。」


「なに?」


「俺は最初から、童貞じゃなかった。」


「……!」


「お前らは、あれこれ悩んでたみたいだけどな。俺は、すぐにやった。」


「そんな……」


「だから、お前らを騙すのは簡単だったよ。」


俺の中で、何かが弾けた。


「……ふざけんな!!」


俺は山本の胸ぐらを掴んだ。


「お前のせいで、何人も死んだんだぞ!!」


「違うな。お前も、同じ側だったってことだ。」


「黙れ!!!」


俺は思い切り拳を振るった。

 山本の顔にヒットする。

 だが、山本もすぐに反撃してきた。

 俺たちは殴り合いながら、もみ合いながら、コテージを飛び出した。

 砂浜まで転げ落ちる。


「お前なんか、ここで終わりだ!!」


俺は山本を突き飛ばした。


山本は砂浜に足を取られ、バランスを崩した。


ザッパーン!!


山本の体は、海に落ちた。


「……はぁ……はぁ……」


俺はその場に膝をついた。

 潮風が、肌を冷やす。


気がつくと、もう俺一人しか残っていなかった。

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