ブラック企業から逃げ出した俺、エッチな美女たちにしっぽりと甘やかされてしまう
みょん
全て捨てた日
「……はぁ、疲れちまったな」
死にたい……とまでは言わないが、もう人生に疲れちまった。
「クソッタレ……」
そう吐き捨て、近くに置かれていた枕を放り投げた。
こうして物に当たるのはダメなことだと分かっていても、今は自分を抑えることが出来なかった。
「ブラック企業……か」
何故、こんなにも俺は人生に疲れ切っているのか。
それは今現在、俺が働いている会社がブラック企業……体の疲れだけではなく、心にまで重い負担を押し付けてくるクソ会社だったからだ。
大学を卒業して初めて入った会社が今の会社だ。
明確に何かやりたいことがあって大学に通っていたわけではなく、漠然とした気持ちのまま卒業して会社勤めとなったわけだけど、もう少し良く調べてから入社するべきだったと後悔した。
『てめえの代わりはいくらでも居るんだ』
『辞めるとか言い出したらぶち殺すぞ?』
『てめえなんざここ以外でやれるかよ無能が』
上司からもらう言葉はこんなのばっかりだ。
社畜根性染み付いた結果……というよりは、初めて勤めた会社だからこそ俺は耐えた。
とはいえ俺も行動に移したんだ。
上司からの積もり積もったパワハラに耐えかねた結果として、先月には退職願を出した……はずだったんだがな。
『お前、ふざけてんのかよ! こんなもん無効に決まってんだろうが!』
その退職願は目の前でビリビリに破かれた。
終わってる……本当にどこまで人間性がゴミなんだよと言いたくなったけど、それを言ったら更に酷くなるのは言うまでもなくて……いや、退職願を出してからの日々は更に酷くなってしまったがな。
「それに……それに!」
俺がここまで追い詰められたのは、何もクソ上司だけじゃない。
入社した頃から俺のことを気に掛けてくれる人が居た。
神崎さんという女性の先輩で、俺より四つ上の綺麗な先輩……いつだって俺に頑張れと言ってくれて、いつも優しく寄り添ってくれる人だった。
けれど俺は、ある日聞いてしまったんだ。
『なあ神崎、お前よくあんな奴の面倒を見れるな?』
『だって辞められたら困るでしょ? たった一言褒めてあげて頑張ってくれるなら、扱いやすくて助かるわ』
『ひっでぇなぁ。結局はあいつのこと、どうでも良いんだろ?』
『当たり前でしょ。でも何だかんだ仕事は良くやるというか、結果はある程度出してるのよね。この環境で大したものだと思わない?』
『そういう所もうぜえんだよな。ま、結局は都合良く働く奴のままで居てくれた方が良い――あんな奴にはそれがお似合いだ』
『それもそうね。取引先の覚えも良いし、もっと上手く使ってあげたら今以上に私たちも楽が出来そうよ』
そんな会話を俺は耳にしてしまった。
所詮は寄り添ってくれた人もクソ上司と同類だったんだ……彼女からすれば、ちょっと褒めたり慰めたりしたらやる気を出す俺はさぞ使い勝手のいい駒だっただろう。
「……いっそのこと、全部投げ出して逃げちまいたいな……会社の決め事とか、社会人としてのマナーやルールとか全部ほっぽり出してさ」
ふと、そんなことを呟いた。
会社のことも、クソ上司のことも、神崎さんのことも全部忘れてどこかへ逃げ出したい……どこでもいいから遠くへ行ってしまいたい。
「家族とも折り合い悪いし……頼れる存在も居ないしな」
あんな会社に居たからか気心の知れた友人さえ作れていない。
俺以外の同期も死んだ顔をしていたくらいだし……でも、あんな環境の中で俺も含めて誰も逃げ出さなかったのは立派なのか勇気がなかったのか果たしてな……。
とはいえあんな会社にこれ以上いたらどうにかなっちまう……それこそ本当に取り返しの付かないことをしてしまう気がする。
「…………」
それは……その道を進めば俺は楽になれるはずだ。
俺を縛る全てから解き放たれて、何も悩みがない世界に行ける……でもそれだけはしたくなかった……怖いからだ。
でももう決めた……俺はもう会社には行かねえ。
「そうだ……もうあんな会社には行かねえ。何を言われても、どんな風に思われてもどうでもいいや」
どうやら俺は自分が思った以上に思いっきりが良かったらしい。
入社の際に作った名刺や、用意した仕事の資料を全て破り捨てていく。
さっきも言ったが物に当たるのは最低な行為……けれどこうして俺はようやく、会社との繋がりを断ち切ることが出来るんだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
気付けば部屋の中は破かれた紙の山だった。
呼吸することも忘れて夢中になっていたのか、息も絶え絶えで汗まで掻いて……あまりの気持ち悪さに俺はすぐ風呂に入り、そして飯も簡単な物で済ませた。
「……どこに行こうかな」
さて、こうなるとどこに行こうかという悩みが出てきてしまう。
幸いと言うべきか仕事にずっと追われていたので趣味に金を費やしたりすることが全くなかったため、貯蓄に関してはある程度心配はない。
「っとそうだ……連絡先も全部消しておこう」
神崎さんやクソ上司、その他にも会社に関係する全ての人の連絡先を削除した。
それだけでもほんの少しは心に余裕が出来たらしく、ちょっと笑みが零れた自覚があった。
「…………」
何もすることがなくなりベッドに横になった。
ジッと天井を眺めていたのだが、突然キュッと心臓が何かに掴まれたようになり、気持ち悪い冷たさが全身を駆け巡る。
「……クソッ」
最近ずっとこうなのだ。
夜十時頃を過ぎると途端に気持ちが更に下降し、どうしようもないほどの不安に駆られてたまらなくなる……こんな時、誰かが傍に居てくれれば少しはマシになるんだろうけどな……一度こうなるとしばらく寝付くのが難しい。
「不安から解き放たれたはずなのに……不安は結局なくならないのか」
もう会社に行かなくてもいい……あの人たちに会わなくていい。
それなのに明日からどんな風に生きていけばいいのか、その明確なビジョンが見えないことがたまらなく不安で仕方なかったんだ。
▼▽
翌日になり、俺はバスに揺られていた。
昨晩は不安に駆られてしばらく眠れなかったものの、最終的にはいつの間にか寝落ちしていたようだ。
ただそれでも朝起きた時に気持ち悪さは残っており、いつものように気持ち良く眠れなかったことだけは確かである。
「……俺は一体、どこに向かってんだろうな」
これは正しく目的と行き場のない旅だ。
バスを乗っては降りて、乗っては降りてを繰り返し……流されるがままに知らない場所へとやってきた。
「そろそろ……降りないとか」
永遠に走るバスなんて存在しないし、ずっと降りなくて運転手の人に迷惑をかけるわけにもいかない。
そうしてどこかのバス停に停車したところで俺は降りた。
そこからは当てもない徒歩での移動だ。
「ここは……なんて町……いや、村ってレベルだな」
ずっと住んでいた東京に比べると、ここはまるで別世界だ。
だがそれは決して悪いという意味ではなく、自然豊かで空気も綺麗でとても住みやすそうな場所だと素直に思えた。
「本当に……綺麗な所だ」
どこを見渡しても綺麗な緑の山々が続き、水を張った田んぼも空が反射して幻想的な美しさがあった。
そして都会では聴くことのないカエルの大合唱もまた、風情という物を感じさせてくれた。
「……お、あそこにもバス停が」
どれだけ歩いたか分からないが、向こうに別のバス停を見つけた。
さっきの所と違って屋根付きみたいだな……少し疲れたしあそこで休憩させてもらうとしよう。
しかし、そこで突然雨が降ってきた。
そこまで気が回ってなかったんだろう……気付けば空は雨雲に覆われていて暗くなっていた。
「これ……酷くなるんじゃないか?」
流石に行く当てのない状態でびしょ濡れはマズイと思ってすぐに駆け出した。
そして俺の予想通り、バス停に駆け込んですぐ大粒の雨が降りだした。
どうにかびしょ濡れになるという最悪の事態は防いだが、それでも少し濡れてしまった。
「ツイてないなこりゃ……」
……あぁダメだ。
今の俺にとってはこんなことでも気分が容易に落ちてしまう。
さてと……濡れたことに落ち込むよりも、もう夕方だし本当にどうするか決めないと。
「雨宿りですか?」
「……え?」
その時、俺以外の誰かの声が聞こえた。
俺しか居ないと思っていたがどうやらそこには先客が居たらしい。
「あ……どうも」
「はい」
声のした方へ目を向けると、そこには綺麗な女性が座っていた――肩に付くか付かないかくらいの茶髪のボブカット。ふんわりとした印象を与える優し気な目元、整った顔立ちに思わず息を呑んだ。
「……………」
この街……いや、村か。
ここに来て初めて人に会ったけれど、こんなに綺麗な人が居るんだなと少し驚いた。
別に田舎に対して偏見を抱いているわけではないが、それでもそう言いたくなるほどの美人さんだったのだ。
後に俺は知るのだ。
この出会いが俺の運命を変えてくれたのだと……俺にとって、この出会いなくして後の人生は語れないのだと。
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ブラック企業から逃げ出した俺、エッチな美女たちにしっぽりと甘やかされてしまう みょん @tsukasa1992
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